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攻めの姿勢


 本気でお菓子作るのって疲れるよね。


 自分以外の人のために作るのなんて久しぶりだったから、ちょっと頑張りすぎちゃったかもしれない。



 ――お姉様に協力を仰ぎ、クラスメイト全員分のチョコレートが完成した。


 特に迷ってた男子用チョコレートの形状をどうするかという問題も無事に解決。お姉様の「考えてもみなさい、ソフィア。かわいい女の子がかわいいお菓子を作ってきてくれたら、それだけで『ああ、かわいいなぁ』と思うものでしょう? 受け取る側の好みなんか関係ないのよ」という言葉を聞いては、迷いなんて綺麗さっぱり吹き飛んでいた。


 なるほど、かわいいは正義か。確かにその通りだ。


 言われてから考えてみれば、確かに。たとえ失敗作を持っていったとしても喜んでくれる人が大半を占めるだろうことは想像に難くなかった。カイルばかり私のお菓子を食べられてずるいと(のたま)っていた男子グループなら、失敗作だけを押し付けても泣いて喜び感謝を叫び出すかもしれない。

 まあそれ以前に、失敗作を他人に渡すなんて私のプライドが許さないけどね。


 とりあえず、そうしてチョコレートの形状が決定した。ぜーんぶ四つ葉のクローバー型に統一。当たりのハート型とかは一切無し。


 袋やリボンの色、柄を変えることで誰用の物かをひと目で判別出来るようにしたし、余ったチョコも賄賂用に梱包済み。準備は万端整っている。


 籠に満載のチョコレートって見てるだけでも幸せな気分になってくるよねー。たとえ自分の口に入らなくとも、大量のお菓子はやはり良いものだと改めて思う。


 で、後はもう配るだけという段階ではあるのだけども。


 まだ、最後に一つだけ。クラスメイトの元へ向かう前に乗り越えなければならない問題があった。それは――


 ――学院はお菓子を配ったり食べたりする場所ではなく、あくまでも勉強をする場所だということなんだなぁ。


 つまり、これからチョコレートを配ろうとしている私の行動は、バレたら先生に怒られる。先生にバレたらお母様に連絡が行く。それは地獄のお説教へと繋がるヘルロードだ。


 だがしかーし!! バレなければ問題ない!


 先生たちから優等生と認識されてるソフィアちゃんは、もちろんその辺も考えておりますとも。きちんと対策を考えております、用意をしてきております。


 それがこの、クラスメイトの数以上に用意された余剰チョコレートの役割なのです!!


 教室への道を外れ、お菓子を満載した籠に両手を塞がれながら向かう先は、教職員達の集う城。職員室という名の一種の聖域。


 しかしその聖域は、優等生を阻むものでは無い。

 成績優秀かつ品行方正な私なら、むしろ暖かく迎え入れてくれるだろう。……お菓子持ってても、多分、きっと。


 ええい、怖気付くな。ここまで来たらやるしかないんだ。


 入る前に《探査》を発動。職員室内にきちんと想定した人物が揃っていることを確認してから、私は礼儀正しく、職員室へと入室した。


「簡易な礼で失礼致します。特別クラス、二年のソフィア・メルクリスです。今日は先生方に、お願いがあって参りました」


 我ながら思うけど、職員室に両手が塞がる程のお菓子を抱えながら入ってきておいてマナーも何もないよね、普通。貴族社会のルールって時々優先事項が狂ってると思うの。


 だが使えるもんは使わせてもらう。


 普通なら顔を顰めるような行いも、貴族的な礼節に則っている限りは早々咎められることも無い。私の家が家格としては低い方なのも幸いして、マナーで満点を出し続ける限り、むしろ私の評価は上がっていくという謎現象が発生するのだ。


 全ては私の予想通りに進んでいる。職員室内の空気は悪くない。


 ただ、欲を言えば、ここらであの人達の反応があると嬉しいかなって――


「ほう、彼女があの……」


「流石はリチャード先生の生徒さんだ。きちんと学んでいるようだね」


 おお、来た来た。この二人ならきっと行動を起こしてくれると信じていたよ。私と話せる希少なチャンスを逃すわけがないと思っていたんだ。


 ありがとうロリコン先生。こちらの想定通りに動いてくれて。


 これからもイエスロリータノータッチの精神で、何卒宜しくお願いします。


 心の中で謝辞を述べながら、二人にふわりと微笑みかける。

 たったそれだけでガバガバに開いた心の中に、そっと《意識誘導》の魔法を掛けた。


 意識誘導の魔法は、別名で催眠とか呼ぶこともあるけど、まあ言っちゃえば「お願い!」と頼み込むのと大差ない。強制力のあるような魔法じゃないんだ。


 ……だというのに。

 さっきからこの人、あの、ちょっと近くないかな。


「それは何を抱えているんだい? どれ、ひとつ僕に貸してごらん。……ん? これはもしかして、お菓子かな?」


 もしかしても何も、一目瞭然だと思うのだけど……。


 微妙に本能が警鐘を鳴らしている気がするのをスルーして、私は当初の目的通りに話を進めることにした。


 即ち――聞くも涙、語るも涙の友情物語には、このお菓子が必要不可欠なのだというお話を――。


バレたら怒られるのなら、予めバラしておけば良いじゃないという逆転の発想。

教師すらも即座に抱き込むという発想に至るあたり、ソフィアは兄以外の男を馬鹿にしすぎているのではなかろうか……。

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