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「ソフィアが怖かった……」


 カイルからの了承を得た。


 これで(ようや)くストレスから開放される。



 ――ネムちゃんのことは話していい。でも、変身することは話せない。


 ――ネムちゃんと出掛けることは話していい。でも、魔物退治に行くことは話せない。



 様々な制約。それと何より、異常に膨れ上がった野次馬の数。


 時間が経つにつれて指数関数的に面倒くささが跳ね上がる原因を作った人物には、直接文句を言わないと私の気が済まない。頭の中は既に、彼女たちにどのような落とし前をつけさせるかでいっぱいだった。


 ――やりすぎてはいけない。けれど、無罪放免とはいかない。報いは必ず受けてもらう。


 暗い情念を執行すべく立ち上がれば、いつの間にか静まり返っていた教室に、椅子の動く音がやけに大きく響いた。


 ――つい先程まで私を封じ込める檻のようにさえ感じていた視線の圧が、これほど脆いものだったなんて……。


 魔法で状況は把握してたけど、本当に教室にいる全員が私たちのこと気にしてたんだなー。みんなよっぽど暇人なんだなー。


 軽く周囲を見渡せば、誰もがパッと視線を切る。

 たまに視線が交わる人がいたかと思えば、さも「私は関係ありません。たまたま居合わせただけの無関係な人間です」と主張するかのように慌てて教室から逃げ出す始末。


 そんなことを数回繰り返すだけで、教室はすっかり人が掃けた、居心地の良い空間になってしまった。


 ……もう少しすれば鐘が鳴るのに、みんなどこへ行くんだろうね? 私から離れるように教室を出たのに、なんでみんな廊下に留まっているんだろうね? 不思議だなー。


 ちょっと見つめられただけで後ろめたい気持ちになるくらいなら、初めから野次馬なんかしなきゃいいのにね。


 まあ私だって野次馬はすることもあるし。別に君たちに怒ってるわけではないのよ。

 私が怒ってるのは私達の観察を娯楽として広めた彼女たち三人だけだからね。


 ……そう、キミタチのことだよ? と瞳に恨みがましさを乗せて真っ直ぐに見つめてあげると、当の本人たちはビビクンッ! 大きく反応し、すぐにこそこそと相談を始めた。私が見ている目の前で。


「ちょっとちょっと、ソフィアめちゃくちゃ怒ってない!?」


「だから私やめようって言ったじゃん! ソフィアの反応がかわいいからって、クラスの全員を取り込むのはやりすぎだって!」


「いやあんたが『今日の二人、なんだか反応が怪しくない? 今日はもしかしたら歴史的瞬間になるかも!?』とか言い出してみんなを煽り始めたんじゃないの。むしろ主犯でしょ?」


「違いますーう! 別に煽ってないですーう! 私はただ『今日はソフィアの珍しい顔が見れそうだよ!』って言って回っただけですーう!」


「なお悪くない?」


「そうだそうだ! あんたが悪い!」


「ひっどい! ならカレンとミュラーはどうなるの!? 普段のソフィアを見慣れてる二人が『あれは何かあったわね』とかいうからこれだけの人が集まったんでしょ!? 私が普段ソフィアをからかいに行こうって誘っても誰も相手になんてしてくれないもの!」


「それもそうだ! じゃあえっと……えっ、これってミュラーのせい!?」


「ちょっと待って、なんで私が悪いことにされてるの? 私とカレンはただ、呼ばれたから来ただけで……」


 なんか、見るも惨めな責任の押し付け合いを始めていた。いや、人望のなさの暴露大会? やっぱり普段の行いって大切だよね。


「みんなが悪いんだと思うよ」


 後半からはもはや聞き耳を立てる必要もなく聞こえてきていた会話に遠慮なく割り込み、とりあえず全員を罪人認定した。


 こういうのってほら、被害者側の意識が大事だからね。


「ひいっ!」なんてわざとらしい悲鳴をあげてまだ余裕がありそうな約一名に魔力込みの威圧を叩きつけて大人しくさせてから、言いたい事を言わせてもらった。


「気持ちは分かるよ。でも何事もやりすぎはよくないよね」


「大人数で数人を、っていうのはね。精神的な負荷がすごいんだよ? 気を付けなくちゃいけないよね」


「だから、ほどほどに。あんまり酷いことされると、私も対処しなくちゃいけなくなるからさ。……分かってくれるよね?」


 にっこり笑顔で尋ねれば、三人娘は綺麗なお辞儀を披露してくれた。


「「「はいっ! すみませんでしたぁ!!」」」


 うんうん、今度はちゃんと反省してるね。これなら私も酷い手段を取らなくて済む。


 個別に謝ってくるカレンちゃんとミュラーのことも許しつつ。私は最後にもう一人、文句を言うべき人物へと振り返った。


 その男は、完全に観客気分だった。

 机に頬杖をついて「終わったか」なんて他人事に聞いてきた。


 ――ああ、もう終わるよ。次はお前で最後なんだわ。


 私がその男――カイルに文句を言おうと思った直前、何故か私は、カイルからバカにされていた。


「お前って身体はいつまで経ってもちっこいくせに、ホント態度だけはでっかいよなー」


 カイルは教室を覗く男子たちを視線で示し、楽しそうに笑っている。


 ……こいつ、本当に自分は無関係だと思ってるのか? どれだけおめでたい頭をしているんだ??


 そもそもこれは、カイルが調子に乗らなきゃ何事もなく終わってた話だってことを、その空っぽの脳みそに叩き込んでやろうか、アァン!?


――多数の視線に晒される。

無自覚ながら、その条件はソフィアのトラウマを刺激していたようです。

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