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耳目という名の牢獄


 そもそもの話。


 私とネムちゃんが魔物退治に行くことを、何故カイルに相談しているのか。


 その理由を一言で表すのなら――


「つまり、ソフィアは俺に面倒を押し付けたいんだな?」


 私の意図を正確に汲み取ったカイルの言葉に、思わず動揺して言葉に詰まる。


 ――つまりはそういう事だった。


「……そういう解釈はよくないと思う」


「違うなら違うって言ってみろよ」


 目を逸らす私を、ニヤニヤといやらしい視線で眺めるカイル。


 そしてそんな私たちをニマニマと楽しそうに見守る女子軍団。


 ……この教室は、今やもう。私とカイルを観察する勢力に完全に支配されていた。


 私ね、思うんだ。

 盗み聞きってのは、もっとひっそりとやるものじゃないのかなって。


 少女マンガの鈍感系主人公みたいな鈍感力を発揮したカイルの後ろには、カイ×ソフィ勢力の主要メンバーがズラリと勢揃い。一様にウキウキらんらんと実に楽しそうな顔で私の表情をつぶさに観察している。


 さっきまでは僅かながらに効果があった睨み攻撃も、もはや彼女たちには通用しない。


 仲間が増えたことで増長しているのか「私たちのことは気にしないで! カイルくんとの会話に集中して!!」と悪びれることなく見つめ返されるようになってしまった。むしろ集中したいからこっち見ないで欲しいのだけど。


 カレンちゃんとミュラーまでもを取り込んだ巨大勢力だけではない。三人ほどの小集団や、果ては個人まで。

 今現在この教室内にいる、実に十割の人間が、私たちの会話の続きを聞けるのを今や遅しと待ち構えていた。


 十割。つまり、全員である。


 普通に考えておかしいと思う。


 会話の邪魔をするとでも思われたのか、ネムちゃんは早々に連れ出されて何故か今は食堂にいるし、他の頼れる良識人達は空気を察して教室を去ってしまった。助けを求められる相手はいない。


 そしてお馬鹿なカイルは、私を弄るのに夢中でこの状況に気付いていない。


 わりと絶望的な状況だった。


「協力してくれないってこと?」


「そうは言ってないだろ」


 案の定な返事を聞いて、心の中で溜息を吐いた。


 周囲の耳さえなかったら「力になってくれるんじゃなかったの?」や「そういうところが、素直に頼れないとこなんだよね……」といった言葉を選ぶのだけど、あまりカイルを追い詰めるような言葉を選ぶとカイルは必ず反発する。そして周囲の聴衆が喜ぶ。私に刺さる視線の熱量が増す。


 これってもしかして詰んでないかな、と嘆いてみても、救いの鐘はまだ鳴り響きそうになかった。がっでむ。


「お前って本当に人に頼るのが下手だよなぁ」


 嬉しそうに言うことかねそれ。


 息をするように反発するべく育てたのは私だとはいえ、時と場合くらいは選んで欲しい。


 私がこんなに神経を磨り減らして返事を選んでいるというのに、カイルはノーテンキにまあ、へらへらと。


 衆人環視に晒されて準お淑やかモードに入ってる私のイライラゲージ溜めるとか中々ですよ? カイルの無自覚煽り性能はもはや天性の才能だと誇ってもいいだろうね。


 ……なんかもうアホらしくなってきた。


 魔法少女ならぬ魔王将軍ネムちゃんとの魔物退治とか、ぜったい余計なサブイベントが発生する予感しかしないから弾除け役としてカイルを連れていこうと思ったのに、こんな面倒な事態を乗り越えないとカイルを連れて行けないなら初めから私一人で対処した方が楽だった気がしてきた。


 でもさ、せっかくここまで耐えてきたのに「やっぱカイル頼るのやめたわ」ってすると、私のこれまでの努力が全部無駄になっちゃうんだよね。それはちょっともったいないかなって思うんだ。


 カイル自体は乗り気なのに、周囲の視線があるせいで思う通りに事を運べない。


 ……このままだと私、我慢が利かなくなって「もういい。カイル、人のいない場所行こ」とか言ってカイルを連れ出しちゃいそうだな。……うわぁ、想像しただけで鳥肌が立った。やっぱりこの状況は一刻も早く改善しないと取り返しのつかない事態になりそうだな……!


 ――環境。目的。言葉選び。カイルの反応と、勝利の条件。


 様々な要因を頭の中で羅列して、何故か素直に頷かないカイルを穏便に頷かせることをまずは優先しようと、優先順位を定めた。


「分かった。じゃあ護衛の依頼ってことにしよう。カイルのお父さんに言っておくね。今度お友達と街の外に出る予定があるから、その時に護衛としてカイルを貸してほしいって」


「なんでそんな話になるんだ!?」


 それはね、カイルがさっさと頷かないからだよ。


 慌てるカイルに取り合わず、私はさっさと思考を進めた。


 私とカイルは幼馴染み。それは周知の事実である。

 だから私がカイルのお父さんと仲良くってもおかしくない。聞こえてくる「きっとお互いの両親は既に認めて……」なんて事実もない。ないったらない。


 多少のリスクは引き受けてでもカイルとの会話なんてさっさと切り上げる。そして、歪んだ情報をさも事実であるかのように吹聴する集団を直接叩く必要がある。それがこの行き詰まった状況を打開する唯一の解決策だ。


「カイル。嫌なら嫌って言ってもいいよ」


 何処にも逃げ道が繋がってないのなら、前に逃げるしかないじゃないか。


 カイルとの会話を断ち切る一言を告げながら。私の意識は既に、次の戦場へと向かっていた。


「私とネムちゃんの護衛の話――引き受けてくれるよね?」


カイル少年。ソフィアに頼られたのが嬉しかったらしい。

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