魔道具のお店に行こう
お母様との食事を終えて、お父様の要件が済むまで時間を潰すことになったので、お母様に街を案内してもらうことになった。
お母様のチョイスは魔道具屋。
途中の大きな建物の前を通り過ぎる時に「ここは商業ギルドです」と言っただけで、魔道具屋に着いてからは店主さんとずーーーっとおしゃべりしてただけ。お父様に付けてたエッテが自由時間終了のお知らせを携えてくるまで、ずっとだ。
これは案内とはいわない。
でも初めて来た魔道具屋自体はかなり楽しかったので個人的には良かった。
お母様が店主さんと話に花を咲かせすぎて私の存在を忘れ去っていた頃、私は店主さんのお孫さんに魔道具の説明を受けていた。
ルウラアさんはお母様の魔道具のファンらしく、その娘である私が魔道具に詳しくないと聞くや「未来の天才魔道具技師様の一助になれるなんて光栄です」と店にある魔道具の説明を片っ端から始めた。聞いてもいないのに。思い込みの激しい人らしい。
ともあれ、実用的なものからなんの役に立つのかわからないものまで色々あって話を聞くだけでも楽しかったのは事実である。
お母様が作ったという光量の調節出来るランプを説明する時は他の十倍以上の時間をかけてそれがどれだけ素晴らしいか、人々の生活にどのような影響を与えたのかを懇切丁寧に教えてくれたのに、何故か順番を飛ばされた振動する孫の手みたいなのについて尋ねたら「ゴミ」と簡潔に切って捨てた。
ゴミ系は店主さんの作品らしい。
そんなに悪い品とは思えないのにどれだけ孫に嫌われてるんだと思ったら、店主さんの作品はいわゆるパクリで、既にある魔道具に何かをくっつけることしか脳がないのだそうだ。
振動する孫の手は振動する魔道具に孫の手をくっつけただけ。
移動するゴミ箱は自走する魔道具にゴミ箱を乗っけただけ。
確かに作品自体はしょーもないと思うけど、開発だけが偉いわけじゃない。改良も大事なことだ。
ある日ふとした組み合わせが世界を変える魔道具となるかもしれない。
そんな未来も、あるかもしれない。
そんな話もしてみたけど慰めとしか受け止められなかった。
まぁ現時点があれじゃあね。
移動するゴミ箱とか個人的には好きなんだけどな。見た目がシュールで。
エッテが来るまでそんな感じで時間を潰してたから時が過ぎるのは早く感じた。
購入したホッカイロもどきはお姉様とお兄様へのお土産だ。
「また来ます」
お母様も満足そうな顔をしていた。
やっぱり好きなんだな、と思う。
魔道具の話をしてる時、明らかに饒舌になるし。
それに、私は見た。去り際、店主さんに金貨を手渡していたのを。
「先程店主さんにお金を払ってましたけど、何を買ったのですか?」
だがお母様の手には何も無い。後で届けると言っていたのだから当然だ。
この場で手渡せないもの。
大きなものだろうか。それとも、今はお店に置いてない希少なものだろうか。
「ソフィアが魔道具を作る際に必要になりそうなものをいくつか頼んだのですよ」
お母様の答えは想像していたものとは少し違った。
けれどその答えは、私のワクワクを加速させるだけの力を持っていた。
震えながら移動するゴミ箱が考案され没になった過去があることを、ルウラアは知らない――。