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そして私は目をそらす


 ……好意だけではどうにもならないこともあるのだと、私は学んだ。


 ネムちゃんはかわいい。純真な笑顔がとてもキュートだ。

 そしてもちろん、マリーの手によって魔王将軍へと変身したネムちゃんもウルトラかわいい。


 ドヤ顔は言うに及ばず。

 ニマニマと口元が緩みっぱなしになってるのとかもう最高にかわいい。ひたすらに褒め倒して一生分ニンマリニマニマさせてあげたい。天まで届くような立派な天狗の鼻を生やしてあげたい。


 そんなことを思っちゃうくらいネムちゃんのかわいさにメロメロにされちゃってる私だけど、だからと言ってネムちゃんのお願い事なら何でも聞けちゃうわけではない。私はネムちゃんの田舎のお婆ちゃんでもなければ人の頼みを聞くのが好きな善意の人でもないので、普通に嫌な事は嫌って言う。断ることの出来る人間なのだ。


 ――だから、言うぞ。ネムちゃんに「それは嫌だ」って言うぞ。覚悟を決めろ、私。


 情のない男にばっさりと切り捨てられ、訳も分からず不条理に打ち捨てられた子猫みたいな顔をしているネムちゃんが、縋るような視線を私に向けた。


 来るぞ、さあ来るぞいま来るぞ。


 意志を強く持って、場の空気に流されず、しっかりと自分の意見を――


「ねー、ソフィアぁ。……一緒に魔物倒そ? カレンたちとは一緒に行ったんでしょ? ネムもソフィアと一緒に魔物倒したい」


「…………そうだね。そのうち、一緒に行こうか」


「うんっ!!」


 ――無理だってこんなのぉ……。


 私たちの様子を眺めていたアドラスが「ハッ」と鼻で笑ったのが聞こえたけれど、どんだけ馬鹿にされようと無理だから。私にはネムちゃんの純粋な気持ちも足蹴にすることなんて出来ないの。人の心を喪ったあんたとは違うの!


 予定とは違う結果になったが仕方ない。

 ネムちゃんが午後の授業をすっぽかす結果にならなかったことを、ひとまず今は喜んでおこう。


「(マリー、ネムちゃんって魔物倒せるの?)」


 とはいえ、約束してしまった以上心構えは必要だ。


 いつか果たす約束のため、ネムちゃんの現状を間近で見てきただろうマリーにより詳しいところを聞いてみた。


「(一度に三体くらいなら余裕ですモン。それ以上いてもボクがいるから問題ないですモン)」


 マリーがいると問題ない?

 ……今度はどれだ、私のどの魔法をパクればそんな言葉が出るんだ?


 そもそもなんでそんな簡単に魔法パクれるのおかしいでしょありえないでしょ。私がどんなに苦労してそれらの魔法を――とグチグチ考えていた私の脳裏に、先程のアドラスの発言が、ふと過ぎった。



 ――危険な実験。



 ……なんとも、馬鹿な考えだ。


 マリーとの念話を切って、体内の魔力を調(ととの)える。


 精神が落ち着きを取り戻し、思考がクリアになればなるほどに、馬鹿な考えと断じたその発想の――否定する根拠の少なさに、乾いた笑いが浮かんでしまう。


 私は断じて、実験などという面白半分でマリーたちを生み出した訳では無いが。

 それでもこの子たちが、もはや魔物などよりも余程危険な存在になりつつあるのではないかというのは、……心のどこかで、薄々感じていたことではあった。


 明らかに異常な学習速度。

 人をも上回りかねない知能と、優秀すぎる魔法の技量。そして……悪意を取り込むという、あまりに特異なその特性。


 存在を魔力に依存し、その身に悪意を宿すだなんて。


 その有り様はまるで、マリーたちが●●のようではないかと――


「ないない」


「……ないない?」


 おっと、口に出ていたか。……強く否定するのって内心では認めてるみたいで、ホント嫌よねー。


「えっとね、今ネムちゃんと一緒に魔物退治する想像をしてみたの。ほら、私たちって二人とも魔法が得意でしょ? だから魔物がいっぱい倒せると思うんだよね。……で、魔物退治が終わったあと、魔物に困ってた近くの街から感謝の印として、沢山のご馳走やお菓子がもらえたらいいなあーって」


「ご馳走!! お菓子!!」


 うおびっくりした。


 私が言うのもなんだけど、ネムちゃんも結構食い意地張ってる方よね。美味しいものに飢えてるというか。


「いや、だからね。そんなことないだろうなーって意味で、さっき『ないない』って……」


「お菓子ないの!?!?」


 天国から地獄へ。幸福から不幸への急転直下。


 目を輝かせて喜んでいたネムちゃんが「なんでそんなひどいこと言うの!!!」とばかりの驚愕の表情で完全に固まっていた。これはあれだね、うん。……選択肢ミスった。


 やばい、やらかしましたわ。もっと別の言い訳しとくんだった。


 焦る私の耳に「馬鹿が」などとド直球に罵倒する声が届いてきたが、正直自分でもそう思う。思いはするけど、自分で思うのと他人に言われるのでは訳が違う。せめて「間抜けめ」あたりに……いや、それはそれでムカつくだろうな。


 ともかく今は、ネムちゃんへのフォローが最優先だ。


「ところでネムちゃん。これなーんだ?」


 アイテムボックスから取り出したチョコレートを差し出してみる。


「……? お菓子?」


「はい正解。お菓子です」


「お菓子! くれるの?」


「もちろん、はいどーぞ」


「ありがと!!」


 うんうん、素直でかわいいねー。


 どこぞの毒舌師匠はこの愛らしい弟子を見習った方がいいんじゃないかなー。じゃないとそのうち唯一の弟子にも見放されちゃいますよー?


 まあもしもそんな事が起きるとしたら、その時は私がネムちゃんを引き取らせてもらいますがね!!


「この人っていつもこんな感じなの?」

「?せんせーはいつもこんなだよ?」

「そっかあ……(この人、友達いないんだろうな……)」

「……その目をやめろ、無言の娘」


なんだかんだ言いつつ、すぐさま逃げ出すほど嫌悪しているわけではないようです。

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