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魔王将軍ペパーミント


 魔王将軍ペパーミント。


 それがネムちゃんの魔法少女名らしかった。


「……魔王なの? 将軍なの?」


「魔王将軍なの!」


「……魔王将軍なの?」


「魔王将軍なの!」


 恥じ入ることなど何も無い。

 そう態度で示したネムちゃんは、いつ「カッコイイね!」と褒められるのかと待っているのが丸わかりの表情で、ふすふすと鼻を鳴らしまくっていた。どうやら興奮しているらしい。魔王将軍さんデラかわゆい。


 ここまで期待されてしまったら、いくら正直者の私とはいえ空気を読むしかあるまい。


「そっか。ネムちゃん魔王将軍なんだ。カッコイイね」


「でしょ!! カッコイイでしょ!!!」


 褒めてみたら、ふすー! とさらに鼻の穴が広がった。


 溢れる笑顔に弾む声。

 華やかな魔法少女衣装と相まってかわいらしさ全開のネムちゃんを見てると、うっかりイケナイ扉が開いちゃいそうだ。


 そもそもネムちゃんとロリータ風ファッションの親和性がヤバい。素晴らしすぎて拝みたくなる。


 露出を抑えながらもかわいらしさと躍動感を見事に両立させたこの衣装の製作者は、ネムちゃんの魅力を本当によく分かっていると思う。ネムちゃん的には最重要だろう黒衣のマントに一番力が入れられているのもポイントが高い。光を反射して煌めく金糸がなんとも綺麗だ。


 ネムちゃんこーゆーの好きだろうなあ。

 そしてこの衣装を作った人も、ネムちゃんのことがとっても大好きなんだろうなあ。


 でもやっぱりどこから見ても魔王将軍には見えないよね。だってマントの荘厳さに反して服はめちゃくちゃ少女趣味なんだもん。


 ってゆーか、それ以前に。魔王将軍ってなによ? ネムちゃんってば魔王様だけじゃ飽き足らず将軍にまでなっちゃったの? その二つって両立するものなの?


 魔王と将軍……。

 あれかな、くっ殺されることで有名な姫騎士さんみたいなものかな。そう考えたら、なんだか魔王将軍の呼び名も案外ありな気がしてきた。


 そうなると、次の問題は……いや別に、問題ってほどでもないんだけどさ。


「ペパーミントって名前はネムちゃんが付けたの?」


「うん! ママと相談して付けたの。大人っぽくてカッコイイでしょ!」


「そうだねー」


 そっかー、ママと相談したのかー。大人っぽいなら仕方ないねー。


 ……大人っぽい要素イズ何処? と笑顔の裏で頭を働かせて、ネムちゃんはハッカが苦手なのだと仮説を立てた。あれよ、子供がコーヒーを飲む大人に憧れるようなものじゃないかと。多分だけど。


 まあ魔法少女ペパーミントと考えれば、うん。これは普通にありかなと思う。魔王将軍とか名乗るから「んん?」ってなる訳で。ペットに食べ物の名前付けるよりかはまだ理解ができる……ような気がする。


 つまりネムちゃんは、「魔王将軍ペパーミント」という魔法少女になったわけだ。マリーの認識としては魔法少女だけど、ネムちゃんの認識としてはあくまで魔王将軍であると。


「魔王と将軍だったらどっちが大事なの?」とか聞いて弄ってあげたい気持ちもないでは無いが、今はそれよりも大事なことがあった。


「それでね、ネムちゃん。……ネムちゃんがその姿に変身して、どこで何をしてるのかって話なんだけど」


 マリーが言うには、魔物狩り。それも賢者アドラスの指示の元で行なっているようなのだけど、私としてはその指示を出す人にこそ心配の種があった。


 私の知っている賢者アドラスとは、知識の探究者であり、魔族を統べる元魔王であり、認知されていない魔法を色々と知っている怪しい人物、そしてネムちゃんが師匠と仰ぐ人物である。


 私が懸念しているのは、彼の人物が持つ交友関係。


 ぶっちゃけ魔物退治の指示は王様から出ていて、王様経由でお母様にネムちゃんのことが伝わるんじゃないかと心配で堪らないのだ。


 ――ソフィアの学院での友人が、魔物退治をし始めた。


 ――この辺りではあまり見かけない、ソフィアが過去にメリー達用として作っていた服と似たような装いで身を包み、その傍らには自宅で何度も見た覚えのあるくまのぬいぐるみが帯同している。それもふよふよと宙に浮かんで。


 ……おおお恐ろしい。想像するだに恐ろしい。


 もしもお母様がそんな情報を得た時、私は無事でいられるんだろうか。「お母様からの贈り物(マリー)は無事に独り立ちしました」とか言ったら「貴女も独り立ちしてみますか?」とか言われそう。やめてお願い捨てないでー!!


 そんな妄想が現実になるかは、ネムちゃんの行動如何にかかっている。


 願わくば人目につかないとこで活動しててくださいという私の願いは、果たして――


「――ここで何をしている?」


 扉の開く音が聞こえたと思った時には、既に男はそこにいた。


 ネムちゃんの師匠。この部屋の主。

 国王から【探究】の二つ名を戴いたその男の名は――賢者アドラス。


 相変わらず気味の悪いものを見る目で見下してくる男に対し、私も作り物の笑顔で応じた。


「彼女との昼食のため、場所を借りていました。気に障ったのなら申し訳ありません」


  ……対応しながら、気付いてしまった。


 この人、いま真っ先に私の事咎めたよね? ってことはこの人にとって、今のネムちゃんの姿はもう見慣れた姿ってこと? ……それってヤバくね?


 ――魔法少女衣装。実は賢者の夜なべ作品説、あったりするかな?


 にこにこと我ながら嘘くさい笑顔を浮かべながら、私はそんなことを考えていた。


「…………(何故こいつがここにいる?)」

「…………(この人いっつもタイミング悪いんだよね)」

「…………(……ふっ。我の気に当てられて言葉も出ないか。……この服、やっぱりカッコイイ!!)」


三者三様。

沈黙は金と、人はいふなり。

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