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変身!魔法少女!


 昼食を終えた私たちは、和やかな食後のひと時を過ごしていた。……が、いつまでもこうしているわけにもいかない。


 私は「このままずっとダラけていたい」と堕落を極めようとする弱い心を奮い立たせ、こんな場所までネムちゃんを追いかけてきた本題を切り出した。


「ところでネムちゃん。魔法少女ってどういうことかな?」


「? まほー少女?」


 ちょっぴり覚悟を決めて聞いたのに、ネムちゃんってば「それなあに?」とでも言わんばかりの不思議顔。キョトンとしたまま「?」と首を傾げられた。かわいい。


 ……いや待って。かわいい。とてつもなくかわいいのはいいんだけど、なんでその反応なのかな? ちょっとマリーちゃん、話が違うんじゃありませんか?


 どういうことなのと視線で問えば、マリーは布地で出来たふかふかのお胸を叩いて「任せるモン!」と威勢よく声を上げた。そして。


「マスター、変身だモン!」


「! うんっ!」


 え、ここで? という私の声は無視された。


 ネムちゃんがカバンを手繰り寄せ、いそいそと何かを取り出すと、ピシッと屹立。胸元に握り込んだ何かに願いを込めるように目を閉じ、「変身!」と高らかに声を張り上げると、その瞬間。部屋の魔力がネムちゃんに向かって動き始めた。


 え、マジで変身するの? っていうか出来るの? いや普通にムリでしょ。……ホントに?


 さり気なく位置を調整し、ネムちゃんの全体像を見易い位置へと移動した私が最初に感じた違和感は、音。


 どこからともなく、この世界では耳馴染みのない、愛と希望が詰まってそうなテンション高めな曲が流れ出したかと思ったら、曲の盛り上がりに合わせるようにネムちゃんから眩い光が溢れ出す。


 白光がドンドンと輝きを増し、やがてネムちゃんの姿を完全に覆い隠した頃、その光の中から音楽にも負けないおっきな声で「ふぅーはっはっはぁー!!」と高らかな笑い声が聞こえてきた。続けざまに「世界の全ては我のもの! 我の前に全ては平伏す!!」と、まるでどこぞの第六天魔王様みたいな唯我独尊節をシャウト。残念さも含めて実にネムちゃんらしい。


 これってもしかしてあれかな。魔法少女が変身中に叫ぶ「恋は魔法のエッセンス!」みたいな、よく分からん変身ワードだったりするのかな。それとも「悪者なんて許せない!」的な決めゼリフの定型句の方かな?


 どちらにせよ、アップテンポな曲調から自然と連想されちゃう魔法少女像とネムちゃんのセリフとの乖離が酷すぎてヤバい。ネムちゃんは正義側の魔法少女なんだよね?


 小さい子が力に奢ってるみたいでかわいいけども、正直そのセリフは、魔法少女の登場シーンとしてはどうかと思うの。


 ――でもまあ、それはそれとして。


 濃密な魔力溜まりとなった部屋の魔力を感じてみて、魔力が何処に流れてどういう魔法を使っているのかは大体分かった。


 まさかつい先日開発したばかりの《しゃべるくん》がパクられて音楽の再生機にされてるとは思わなかったな。マリーの前でも使いはしたけどカイルを弄った一回だけでしょ? それでなんで真似出来るのか意味がわからん。


 で、あとは単純に、光量を増した明かりの魔法の多重発動。それと……光の中もちょっと覗き見させてもらって……ほうほうそう来ましたか。これはちょっと予想外だね。


 ネムちゃんの目をつぶらせてる間に、透明化したマリーがネムちゃんのカバンから魔法少女用の衣装を持ってきて手ずから着せ替えとは。なんとも涙ぐましい努力じゃないか。


 この光景を見たらもう「魔法少女はマスコットの存在無しでは魔法少女足り得ない」と深く納得出来てしまうね。だってマリーがいなかったらネムちゃん変身できないんだもんね。


 なんでマリーがそんな黒子みたいな真似事をしてまで魔法少女モノを模したがるのか理由は分からないけど、我が子とも言えるマリーが必死に頑張って何かを為している姿は、なんだかとても感慨深いものがあった。迂闊にもちょっと感動している。


 家にいる時はお母様のお手伝いをした後、メリーとフェルの喧嘩の仲裁くらいしかすることのなかったあのマリーが、小さな身体を懸命に動かして頑張っている。その姿はまるでリンゼちゃんに憧れる幼子のようではないか。


 ――がんばれ。もう少しだ。そのボタンを留めたら洋服の部分は完成だぞ!


 ちまちまと動く魔力に心の中でエールを送り続ける。


 遂にネムちゃんの着替えを完了させたマリーは、ふよふよと透明化したままネムちゃんの周りをくるりと一周。

 最後に仕上げとばかりにミニサイズの王冠をちょこんと頭に載っければ、待ってましたとネムちゃんの瞳が見開かれた。


 急速に場の魔力が薄れていく。

 マリーの使っていた数々の魔法が役割を終えて魔素に戻り、ネムちゃんの姿を覆い隠していた光も弱まり始めた。流れていた音楽もクライマックス。透明化したマリーがネムちゃんの元々来ていた服をカバンの中に隠し終えた。


 ……もう、目を焼くような光は無い。


 いつの間にか止まっていた音楽のことも忘れ、変身を終えて華やかな衣装を身にまとった、魔法少女姿のネムちゃんに目を奪われ――


「魔王将軍ペパーミント、ここに見参!!」


 ――心までもが奪われた。



 …………え? 今なんか……魔王将軍とか言ったいま?? んん? それとペパーミントって確か、ハッカのことだったよね?


 ……………………なんでハッカ???


――彼女の行動に、意味を求めてはいけない。


あと名付けに関してはソフィアもどっこいどっこいですよね。

人の振り見て我が振り直そう?

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