二人きりの昼食
突撃! ネムちゃんとの楽しい昼食ターイム! いえーいドンドンパフパフ〜!
え? 私が苦手なアドラス先生の部屋? それがどうした。
部屋の主が不在なら実質空き部屋みたいなもんだし! ネムちゃんと二人っきりでお昼を食べるのになんら問題は無いね! 無問題です!
――お昼休みが始まってすぐに教室を出ていったネムちゃんは、彼女の師匠でもある賢者アドラスの研究室で一人寂しく、お昼ごはんを食べていた。
訪れたのが私だと知った時のネムちゃんの喜びようといったら、もう……かわいすぎて鼻血が吹き出るかと思った。
つまらなそうに食べ物で遊んでいたネムちゃんの表情がね、私を見た途端からみるみると明るくなって、仕舞いには満面の笑みを浮かべての歓迎モード。
机の上に乗っかっていた本の山をぐぐいと押しのけ、すぐさま私のスペースを用意すると「一緒に食べよ!」と快く迎え入れてくれたんですよ。こんな可愛い子の提案、断れる人いないでしょ。喜んで受けるしかないよね!
……というわけで、急遽私もお昼ごはんの時間となったのでした。
元々食堂で食べるつもりだった私にはネムちゃんとは違い、お弁当などという用意はないが、そこは便利魔法アイテムボックスをフルに活用しまくっている私。小腹がすいた時用のお菓子やおつまみ、パンに軽食などがアイテムボックス内には潤沢に取り揃えてある。
手提げカバンから雑に紙袋で挟んだだけのパンを取り出すといった、我ながら明らかに無理のあるアイテムボックスを誤魔化す為の工程を経て。ネムちゃんが飲み物を用意してくれた頃には、私の前にも立派な昼食の準備が整っていた。
突発お昼ごはん。本日のメニューはみんな大好きサンドイッチ尽くしでござーい。
定番のトマトサンドにサーモンサンド。
それと忘れちゃいけないデザートには、いちご入りのクリームサンドとバナナ入りのクリームサンドとオレンジ入りのクリームサンドという、贅沢三種のクリームサンドセットを出しちゃうもんねー!
味見と称して、まずはデザートを一口……といっちゃいたくなるが、もちろんこれらは私ひとりで食べる為に出したわけではない。
見たところデザートを用意してないネムちゃんに対して、見せびらかすだけ見せびらかして分けてあげない、なんて外道な行いをするソフィアさんではないのです。
やっぱデザートは色んな種類をみんなで分け合うのが良いよね。
色んな味を楽しめてみんなもハッピー、私もハッピー。
それが世界の最大幸福に繋がるんですよ。きっと、多分。よく知らないけども。
ってゆーかこの幸せ供給源たるクリームサンド。たっぷりあると幸せだよね理論に基づいて作ったから一個でも結構量があるんだよね。だから分けるって発想になったんだけども。
さてさて、ナイフで切るとあとで洗うのも面倒だから、魔法でふたつに分けちゃおっかな。下手すると中の果物がすっぽーん! と飛び出ちゃいそうだけど、空間ごと切れば問題ないでしょ。
お皿は切らないようにだけ気をつけて、魔法を……と意識を集中させている最中、ふと気付いた。
……もしかすると、お皿を切りかねない行為って淑女的な行いではないかな? お母様にバレたら指導が入るやつかなこれ? どうだろ。
悩んでいる私がどう見えたのか。いちごサンドに手を伸ばした状態で固まっていると、ネムちゃんばびゅんと顔を寄せてきた。超至近距離からホイップクリームが白く輝くいちごサンドを、じぃーーっと、目を見開いて見つめている。
……なるほど。穴が空くほど見つめるとはこーゆーことか。
気持ちは分かるけど、傍から見ると気付いちゃうね。
お菓子を必要以上に強く見つめるのってかなり子供っぽい行為だわ。ちょっと反省しよ。
「ソフィアソフィア! このパンちょーだい! そしたら代わりに、アレ! アレあげるから!」
静から動へ。
突然動き出したネムちゃんが、私が答える前に「はいっ!」とフォークでぶっさし私の目の前に差し出してきたのは、大きくて黒光りする肉の棒だった。いや違った。別に光ってはなかった。普通に黒いだけのソーセージでした。
「ありがとうネムちゃん。……んむ? ……このソーセージ、おっきいね」
ありがたくかぶりつく。
齧り付いた途端、口の中に広がる味が……ってこれ、肉でもなかった。いや肉も入ってるけど、これは違う。これ普通のソーセージじゃなくて、血を固めたやつだ。
これ前に食べたことあるけど、モソモソしててあんまり好きじゃないんだけどな……などと思いつつも噛み締めてみると、意外や意外。普通に美味しいじゃないの。いや、かなり美味しいと言ってもいいかもしれない。前に食べたことのあるものとは文字通り、ひと味違った旨味があった。
「でしょ! おっきくておいしくて、それネムの好きなやつなの!」
うん、美味しいわ。あまりの美味しさにびっくりして、つい「美味しい」というつもりが「おっきい」と言い間違えてしまうくらいに美味しかったわ。脳内が常にピンク色みたいでちょっと恥ずかしい。
少し頭を冷やそうと部屋を見回して――じっとこちらを見つめている、作り物の瞳と目が合った。
顔面の温度が急上昇したよね。
「…………マリー? 今の見てた……よね?」
「見てないモン!」
ほう、空気を読むとはやるじゃないか。
でも残念。お母様と私のいない所で会話をする可能性のあるキミを、私が逃がすと思うのかね?
「マリーって、記憶……魔力でしてるんだよね?」
「マスター、助けて欲しいモン!」
即座にネムちゃんへと助けを求めたマリーだったが、残念。ネムちゃんは今、いちごサンドに夢中なんだ。
私は魔力を操り細く伸ばし、マリーの魔力と接続させた。
――とりあえず、今見た記憶だけ消させてもらうね?
「おっきい」
「おっきーい!」
「ご主人様。ソーセージは切ってから食べると上品ですモン」
邪なことを考えながらソーセージにかぶりついた記憶は、無事にマリーの記憶から削除されたようです。




