考察、魔法少女
――待ちに待った昼休み。
いつもならカレンちゃんとおしゃべりしたりカイルをからかったりしてる内に自然と時間が過ぎていくのに、今日は妙に長く感じられた昼休みまでのこの時間。
無論私は、無為に時間を浪費していたわけではなかった。
そもそも、魔法少女とはなんぞや、と。
私にはそれなりに聞き馴染みがあるワードだが、果たしてそれはマリーの想像しているものと一致しているのだろうかという疑問があった。
というわけで、聞いたら何でも答えてくれるのをいいことに、授業中はずーっとマリーを質問攻めにしてました。その結果分かったことが二つほどある。私の疑問と不安を軽減する輝かしい成果が得られたことを嬉しく思う。
――分かったことそのいち。
魔法少女は私が想像する魔法少女で間違いない。つまりはニチアサのキュアッキュアなあれだ。
小中学生の女の子たちが地球外生命体から唆され、悪の組織に対抗する力を手に入れて八面六臂の大活躍的なやつ。そんで最終的には世界を救っちゃったりとかする、いわゆる王道な魔法少女だ。
なおマリーの最終的な説明では「魔法少女はカワイイ服を着て強くなって悪者を倒す、正義の味方だモン!」と簡潔に説明された。
言いたいことは分かるけど、それだとまるでカワイイ服に戦闘能力が付与されてるみたいな……あれ、案外その認識で合ってたりする? えっと……あれ? え、ホントに合ってる?
新説、魔法少女の本体は服だった説が浮上しました。
魔法の力を身に纏って戦っていると考えれば、実は私の身体強化魔法と似たようなものなのかもしれない。物質化出来るほどの魔力を纏って戦ってるなら防御面だって安心安全。しかも魔力タンクの役割まで兼ねちゃうなんて、どれだけ合理的な仕組みなんでしょ。合理の塊すぎてソフィアちゃんちょっと感心しちゃった。
戦闘面での不利がないなら、あとの問題は魔力で作った服ってことくらいかな。……それが最大の問題でもあるんだけど。
そもそも魔力で服とか考えたこともなかったのは、魔力って普通、無色透明なものだからなんだよね。自らすすんで裸の王様になろうとでもしなければ、そんな変態的な考えは浮かびもしない。
一応魔力を変換して服に見える何かを生成することも不可能じゃないけど、完全に物質として固定しちゃうと普通の服と変わらない程度の強度しか付かないからね。それじゃ防御力も下がっちゃって意味が無い。
魔力としての性質を維持しつつ、なおかつ服としての役割も持たせるのなら……魔法を完成間際でずっと留めておくような卓越した技能が必要だ。しかも尋常じゃない集中力も必要になる気がする。正直色々割に合わない。
何かの拍子に気でも逸れたら、一瞬にして素っ裸。
……いくら合理的で効率的な魔力運用ができるからって、そこまでのリスクを背負うのは私には無理だなぁ。やっぱり私に魔法少女は務まりそうにないや。
……って、いやいや。いやいやいや。
そんなまるで、私が魔法少女になりたがってるみたいな。…………違うからね?
たとえなりたがってるとしても、それは精々「ちょっといいかも?」程度だからね。
昔からの憧れだったとか、今からでもなれるんじゃないかとか。そんなことを考えてるわけじゃないからね?
そりゃあ……まあ? 私だって夢が溢れる女の子だし。
可愛らしい衣装を着て、正義を免罪符に謎生物を思いっきり殴り飛ばしても怒られるどころかちやほやされちゃう魔法少女とか、ちょっといいかなー、と思わなくもないけどね? 決して強い憧れがあるとかそんなんじゃないのよ。
憧れが全く無いと言ったら嘘になっちゃうけど……ほら。私ってほら。争いを好まない平和主義者だからね。魔法少女みたいな暴力的なのはちょっと合わないと思うんだよね。
大体魔法少女って、怪人をいちいち追い払うようなやり方するじゃん? あれ私が当事者だったら、ものすんごくイライラしそうなんだよね。
折角怪しい協力者から得た魔法の力があるんだから、その突破力と、科学という連綿と受け継がれてきた人類の叡智の力を最大限に活用してさ。敵怪人にGPSでも埋め込んで、敵本拠地の発見&大量の爆弾で施設全部をどっかーん! とかしちゃってさ。自分は魔法の力で悠々脱出、ハッピーエンド! くらいスマートなやり方はできないものかと思うのだ。
そもそも魔法少女ものって基本的に法律とか全無視じゃん?
相手が最初に手を出してきたからって「敵なら殴っていい」「相手が人間じゃないから殴っていい」みたいな乱暴な考え方が許される世界観なら、悪い事した集団がまとめてちゅどーんされるくらいは許容されるんじゃないかと思うんだよね。
邪魔者はとりあえず爆発させて、画面外へと吹っ飛ばす。
アニメでは定番の良き伝統だと思う。とりあえず爆発。
画面映えもいいし後始末も楽チン。最高だね。
「ソフィア、お昼行かないの?」
「あ、ごめん。今日は私、ネムちゃんに話が――」
っと、考え事に少し熱中しすぎたらしい。
いつものように誘ってくれたミュラーに断りを入れ、ネムちゃんに事の次第を聞こうと思ったのだが――なんとネムちゃんがいなくなってる。なんで妄想する前に捕まえておかなかったんだ私は。アホなのかな、アホなんだろうね。
「ミュラー、ネムちゃんが何処行ったか知らない?」
「さあ……?」
ですよね。
今日のお昼は別行動することを告げ、私はネムちゃんと話をする為に教室を出た。
探査魔法を使えば、目的の反応はすぐに見つかる。
「……まあ、そこだよねぇ」
ネムちゃんの現在地。それは――賢者アドラスの研究室だった。
――暴力は良くない。なので必要な時は一回の暴力で済むようにしよう。
平和主義者(自称)で合理的(自称)なソフィアさんは争いごとを好まない。けど、やるとなったら徹底的にやる。そんな人です。




