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お願いのしかた


 翌朝。

 いつものように部屋へとやってきたリンゼちゃんに、昨夜アネットと話した内容を伝えると。


「私の姉にあまり無体な事はしないでくれない?」


 などと、まるで私が人でなしであるかのような扱いを受けた。甚だ納得がいかない。


 まさか私の人生で「無体」なんて言葉を面と向かって言われることがあるとは思わなかった。予想外の事態に、謎の感動がちょっとある。


 無体ってあれだよね。時代劇とかで、理不尽な扱いを受けた町人が「ああっ、ご無体な!」とか言うやつ。


 意味合いとしては「なんて酷いことを!」とか「酷いことしないで!」あたりが適当かな? って、誰もアンジェに酷いことしようとかしてないんですけど!?


「リンゼちゃん、何か勘違いしてない? 私たちはむしろ、アンジェにとって良い提案をしてるんだけど」


 悲しいすれ違いは今すぐに是正するべしと優しい声音で諭してみれば、リンゼちゃんは身体を心持ち後ろに引いて、まるで甘い言葉で言いくるめようとする詐欺師にでも会ったかのように警戒を始めた。


 何その対応。普通に傷ついちゃうよ?


「…………ソフィアの立場で、説明するわね」


 あ、私が間違ってることはもう確定なんですね。別にいいけど。いいけどさ……。


 いつでも逃げ出せる体勢を取って、警戒しながら話すリンゼちゃんの説明を聞いて、私は強い衝撃を受けた。


「アン姉にその依頼をするということは、ソフィアに取ってみれば、ロランド様がソフィアに縁談話を持ち込んできたような話なの。だから――」


「それは全然違くない!!?」


 何だその地獄!? 想像するだに恐ろしいんですけど!!!


 え、いやいや待ってよ。いくらリンゼちゃんの言う事とはいえそれは違くない? 縁談話と儲け話じゃまるで違うじゃん一旦落ち着いて冷静になろ?


 冷静さを欠きまくった私が「異議あり!」と強く主張すると、リンゼちゃんはこれみよがしな溜め息を吐いた。


「似たようなものよ。いい? あなたが得意な要素別に考えてみなさい?」


 そんなの得意にした覚えないんだけど……。


 いや、もしかしたらあれかな。新しい魔法を成功させる為にやってる思考ルーティン。


 あれは出来る。これも出来る。

 その二つが出来るのならこれも出来て当然だ。同じやり方でこっちも出来る。ほら、それらを組み合わせるだけで新しい魔法の完成だ。今までのとやり方は同じなのだから、新しい魔法だろうと成功しないわけが無い。


 みたいな。


「出来る」という思い込みが強く必要な新魔法の開拓にはこの思考法が結構便利なんだよね。「日本語で考えれば魔法は成功する。これ創造神のお墨付きね」という前提とこのやり方の合わせ技で、今のところ成功しなかった例はない。既存の魔法の組み合わせなんだから出来て当然なんだけどね。


 リンゼちゃんが言っていたのもやはりこの事だったようで、続けて語られた説明も理解のしやすいものだった。


「まず、ロランド様。これはあなたにとって大事な人で、この人からの願いは出来れば聞いてあげたいと思う相手よ。アン姉にとってのあなたも同じでしょう?」


「私にとってお兄様のお願いは、絶対に叶えるべき超最優先事項なんだけど」


「次は縁談話ね。これは――」


 ちょっとちょっと、無視されましたよ奥さん。


 リンゼちゃんの私への対応が日に日に杜撰になっている気がする。

 幼いメイドさんにぞんざいに扱われるのはそれはそれで独特の趣きがあるけど、(たま)には歳上のお姉さんとして正当に尊敬とかして欲しいなー、なんて思ったりもする。


 まあ尊敬されるような事なんて何一つしてないんだけどね。私が一方的にお世話されてる立場なわけだし。


 とにかく。


 リンゼちゃんの説明を聞いて、リンゼちゃんの主張は理解した。


 私達がアンジェにしようとしていたことは親切の押し売りであり、私からアンジェに伝えたならば、それはアンジェには断れない話になるのだということも理解した。でもさ。


「それって結局、アンジェがどう感じるか次第なんじゃないの? アンジェが喜んで受けてくれる可能性だって無いわけじゃないでしょ」


「あなたがロランド様からの縁談話を受ける可能性だって無いわけじゃ――」


「その例え出すの止めて。朝から気分が最悪になるから」


 というか、既になってる。想像力が良すぎるってのも考えものだね。


 脳内で、笑顔のお兄様が「良縁を見つけてきたよ」と見合いを勧めてくる悪夢を振り払い、私はリンゼちゃんとの会話に集中した。


「ならどうすればいいの? リンゼちゃんの話じゃ説明した段階で強制したのと近い形になっちゃうんでしょ? 間に人でも挟めばいいの?」


「そうね。まずは私から話を通してみるわ。アン姉がやりたそうであれば話を進めて。乗り気じゃなければ別の人を探して頂戴。それでいい?」


「いいよ」


 となれば、あとはアネットに任せればいいかな。


 アネットとリンゼちゃんに話し合いの場を設けて……うん、問題なさそう。


 散々お世話になったアンジェに望まないことを強要するのは、私だって嫌だからね。


「ところでリンゼちゃん」


「なに?」


 話がひと段落したところで、私はこの話の間中、ずっと気になっていたことを聞いてみた。


「そろそろ私のことも、ソフィア姉って――」


「話していたら大分時間が経っていたみたいね。今日も外を走ってくるのでしょう? ほら、フェルもエッテもお待ちかねよ」


 もー! リンゼちゃんってば、もーー!


 いつか絶対リンゼちゃんに、甘い声で「ソフィア姉♪」って呼ばせてやるから覚悟してろよー!


「じゃあせめて、『行ってらっしゃいませ、ソフィア様』ってかわいく言って――」

「早く行きなさいな」

「かわいく!もっとかわいく、こーゆーポーズとかしてさー!」

「…………」


ソフィアが彼女からの尊敬を得られる日は来るのだろうか……。

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