楽しく迷おう
いつからかサブタイトル=次回予告になってたので今回は気持ち内容に合わせてみました。
これからもサブタイトルは表題or次回予告を気分で使い分けます。あしからず。
街だー!
と心の中で叫んだ。実際に叫ぶのは淑女として相応しくないからね。
疲れてたってそのくらいの分別はある。
分別はあっても気分を優先することが多いだけだ。
「ここがメルクリスですかー」
「ああ、私たちの街だ」
私が休憩をしつこく要求したからか、街で昼食をとることが許可された。
お父様が治める街なのに今まで来たことがなかったので、もちろんお店の知識もない……わけでもない。
現在私たちが住んでいる王都の屋敷に勤める使用人さん達は多くがこの街の領主邸から連れていった人達らしく、元々はこの街の住人だったと言える。
そして私は使用人のみんなとも仲良しだ。
新鮮な野菜が美味しいお店。鶏肉料理が美味しいお店。煮込みが美味しいお店。もちろん美味しいデザートのお店だって聞き及んでいる。
いつか行ってみたいと前から思ってたんだ。
どのお店にしようかなあ。
ああっ、迷う! でも迷うのも楽しいんだよね〜。
「なんだ、行きたい店があったんじゃないのか?」
「行きたいお店がたくさんあるから迷ってるんです」
「そんなものか。アリシアも似たようなことを言っていた記憶があるな」
全く、お父様ったら。
もう少し女心の勉強が必要だね。
でも今はそんなことよりお昼のお店を決めなくてはならない。
事前情報だけでも決めきれないというのに、あちらこちらからいい香りはしてくるし、可愛い洋服や雑貨のお店も私を誘惑してくるのだ。
これは魔物なんて目じゃない強敵ですよ。
あっ、あの女の子が食べてるケーキ美味しそう。
もうあのお店にしちゃおう。
テラス席がおしゃれだし、街並みを見ながらお昼なんて素敵じゃない?
「あそこ、あのお店にします!」
お母様の袖を引っ張って初めてお父様の姿が消えていたことに気付く。
「あれ、お父様は?」
「後で合流するそうです。色々と仕事もあるのでしょう」
ふーん、そんなものなのかな。
折角と言えば親子三人での外食の方が折角の機会だと思うんだけど。
……お店選びが長くなりそうだから逃げたんじゃないよね?
「あのケーキが気になるのですか?」
まぁお母様と二人で外食というのも滅多にない機会だし、いいか。
お母様の視線の先では先程見た女の子が幸せそうな顔でケーキを口に運んでいた。
いい顔して食べるなあ、あの子。
「はいっ! 私が思うに、あれは以前アンジェから聞いた特濃チーズケーキではないかと――」
話しながらも、頭の中は既に特濃チーズケーキがどれほど美味しいのかでいっぱいで。
寝不足の疲れなんて吹き飛んでいた。
初来訪、自領の街。アイゼンとはお隣さん。