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沢山のマンガを読むために


 マンガの権利は現在、全て私の手の中にある。


 これ即ち、私が一言「世界にマンガの素晴らしさを広めておあげなさい!」と声をあげたその瞬間、この世界に新たな一大ムーブメントが沸き起こり、私の懐に巨万の富が舞い込んでくる未来が確定する事と同義なのである。億万長者ソフィアちゃんが誕生する、運命の決定的瞬間と言っても過言ではないのだ。


 ……むふ。むふふ。


 お金持ちって良いよね。

 お金が沢山あるのって、とっても素敵な事だよね。


 偶にミュラーの家のお風呂とか使わせてもらうと本気で思うもん。「これが格差社会か……っ!」って嘆きたくなるもんね。


 もちろん、設備の違いの話だよ? 間違っても体型の格差がどうとかいう話じゃないよ? ホントだよ?


 家格の違いによる環境の差異や、食事レベルの違いが成長に影響を及ぼしてる可能性とかも考えたけど、お姉様が女性として魅力的な成長を遂げている時点でその仮説には無理がある。


 魔法による影響が無くなった今も私が全く成長しないのは環境に原因があるのではなく、もっと別の、個人的な理由……それこそ私の成長因子が一時の抑制で完全に死滅しちゃったとか考えた方がよっぽど真っ当な……っていやいやいや、そんな恐ろしいことあるわけないね。人間の身体ってのは意外と丈夫に出来てるからね、まだ諦めるような時期ではないはず!


 最悪唯ちゃんのお陰で前より遥かに使いやすくなった魔法を使えば、自分の肉体くらい容易に弄り回せるハズだから……。まだ、まだ諦めるような段階ではないんだ……ッ!


 ――……とか、そういう話では無かったよねぇ。えっと、何の話だったっけ。そうそうマンガの権利の話ね。んでお金持ちがどうとか。思い出してきたぞう。


 そう、マンガの権利を上手く使えば、私はきっと大金持ちになれる。

 でもぶっちゃけお金持ちになりたいだけなら、マンガに頼らなくてもいくらでも方法があるんだよね。


 まだアイテムボックスの中に残ってる使い道のない闇水晶を適当な場所で売り捌いてもいいし、魔石を生成して売り捌いてもいいし。


 あとはほら、例の育毛剤とか?

 アネットと協力すれば儲かりそうなアイディアなんて、まだまだいくらだって思いつくと思う。


 なので私としては、原作者であるアンジェを矢面に立てて「この絵が描けるだけでそんなお金持ちになれるの!?」と思わせるような情報操作をして、マンガを描く側の人口を増やす方向に話を進めたいかなと考えていたりする。


 前世でも、アニメだか映画だかの原作者であるマンガ家が不当に搾取されるだけの立場を嫌って作品自体を凍結したり、雑誌の人気投票で下位だから、なんて理由で面白い作品が中途半端なところで打ち切りになったりとお金の絡んだ問題で良作が立ち消えるのを目にしてきたから、この世界でのマンガ家は稼げる商売にしたいと思う。


 マンガ家はお金儲けの為の材料ではなく、読者を楽しませたいという志を持った人なのだ。


 自らの独創性で他人を楽しませようとする彼らを応援するような仕組みを、私はこの世界に作りたいと思う。


 そうすればほら。良い作品がどんどんと生み出されるだろうし、それらの作品は全て私の目の届く範囲に集まるって寸法ね。私ってば頭いーい。


 もちろんその為にはどうしたらいいのかとか、そーゆーめんどくさいのは全部アネットに丸投げする予定です!


 私はアイディアを提供するまでが仕事。それを現実に落とし込んで実行にこぎつけるのは別の人の仕事。


 これが世界の摂理なのです。


「――マンガを広める構想は、既にあるよ。あのマンガを描いたのはリンゼちゃんの身内だから、明日にでもリンゼちゃんも交えて相談しよっか。売るとなるとやっぱり続編が欲しいもんね」


「続きがあるの!?」


 おうふ、この件にはお兄様も絡む可能性がありそうだから仕事の出来る女性を演じてみたのに、お兄様ではなく表のアネットが釣れてしまった。続編の話は明日にすればよかったか。


 マンガの内容を熱く語ったら満足して引っ込んでたと思ったのに、割とこーゆー話も聞いてるんだね。ちょっと意外だったかも。


「その依頼も含めて、ってこと。今回のは私の個人的なお願いだったから作品の権利自体は私にあるんだけど、これがお金になると知ったら他にも沢山描いてくれるかもしれないでしょ? 色んなマンガを読むためにも『マンガを描くと儲かる』って思う人が増えるような前例が必要なの。続きを描けば描くだけ儲かると知ったら、普通は続きを描きたくなるものでしょ?」


 どう? 流れ理解した? と説明を終えてみれば、アネットは目を大きく見開いていて、なにやらぶるぶると小刻みに振動していた。


 力強い眼力がちょっぴり怖い。

 そんなに目を見開いてたらドライアイになっちゃうぞ?


「ソフィア…………あなたってば本当に天才なのね!!」


 とか思ってたら、唐突に大絶賛された。

 周知の事実でもそう褒められると悪い気はしないね!


「いやいや、まあ……まあね? でもほら、これは面白いマンガを描いてくれたアンジェあってことだから」


「その人ももちろん天才よ! でもマンガを広める方法を簡単に思い付くソフィアも間違いなく天才だわ!!」


 え〜、なになに、やめてよう。照れちゃうじゃないかあ!


 あまりのベタ褒めに照れ照れしてたら、気付いた時にはアンジェからの新作が届いた時にはアネットに一番に見せることを約束させられていた。実に見事な交渉術だった。


 こ、これが商会の娘の本気なのか……?


 アネット、恐ろしい子っ!


メルクリス家の元メイド、アンジェ。

奉公先のお嬢様からされた「絵を書いて欲しい」というかわいらしいお願い事を叶えたせいで、自身が莫大な金銭を得られる立場になったことを、彼女はまだ知らない。

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