妄想であれば浮気にはならない
お母様の襲来。そして、お姉様の撤退。
正論を振りかざすお母様に対し、子供を盾にして見事にお説教の回避を成功させたお姉様を見てると、結婚に忌避的な感情を抱いている私でさえ「子供、ありかも……」と思えてくるから不思議だ。
まあ子供を産む為に必要な行為への恐怖心が強い私が、お説教を回避できるから〜なんて軽い理由で結婚するとかありえないけどね。そんな相手もいないことだし。
お兄様とならそんな関係になるのも吝かではないけど、その時はこう、子供を作るよりもまず先に、私自身を純粋に愛して欲しいというかなんというか……。
……お、お兄様との愛の結晶というのも悪くは無いんだけどね!
可愛い赤ちゃんを見て子煩悩になったお兄様とか、絶対確実宇宙一にかわいいこと間違いなしだし!!
お兄様と私の子供だったら名前は何がいいかな? ソフィアとロランドの子供だから、ソフィランドとかロラソフィア? ……いやぁ、ないなぁ。
これは流石に、ネーミングセンスの無い私でも分かるぞ。
もしも天文学的な可能性の乱数によりお兄様と私との間に子供が産まれてきたとしても、私ひとりで名前を付けるのは止めといた方がいい気がします! 子供たちの幸せのためにも!!
私はほら、お母様みたいに家に居ながらにしてお金を稼いで、子供に愛情と教養を与えてさ。子供たちからの愛情とお兄様からの愛情さえ感じていられればそれだけで幸福になれる自信があるし。むしろそれ以外生きていくのに必要なものとかないんじゃないかと思ってるくらいだからね。
ほら、愛って偉大じゃん?
それもお兄様からの愛ともなれば、その価値は黄金よりも闇水晶よりも重いのは当然というか……うふふ♪
そう考えると、お兄様との愛の結晶とか軽く国宝クラスだよね。
子供という一個の人間でありながらその価値はお兄様と同等クラスとかもう考えただけでパない。額面のスペックだけでもうヤバい。
しかもお兄様の子供ともなれば将来優秀になることが確約されてる。
いくら産んでも喜ばれること間違いなしの……って、そんな、子沢山だなんて、そんな、そんな……っ!
お兄様ってば、大胆な!!!
いやもちろんお兄様の優秀な遺伝子がこの世に広く遺るべきだという当たり前の事実に異論なんてあるわけないけど、そうなるとこうほら、あるじゃん。子供が産まれる為に必要な前準備というか、大事な儀式というか、あるじゃん。考えただけで頭が沸騰しそうになる嬉し恥ずかしな避けられないアレが。
…………お兄様って、夜は結構激しそうだよね。子供の五人や六人くらい、案外ぽぽんと……っていやいや、何考えてんの私ィ!!
やめようこの妄想。お兄様と会った時に顔見れなくなる。ていうか、今の段階でも既に目を合わせられる自信ないし。
あ、でも、お兄様似の男の子とか絶対かわいい。
女の子からおば様まで全年齢層の女性を虜にしちゃうこと間違いなしのリトルお兄様はちょっと見たい。微笑みだけで世界を取れるスーパーアイドルの爆誕だね!
まあお兄様の子供だったら、たとえ女の子だったとしてもかわいい事に間違いはないけど……。
もしお兄様の子供が女の子だったらどんな子になるだろうか?
まずかわいい。で、カッコイイ。
落ち着きがあって頼りがいがあって紳士的で淑やかで勉強が出来てっていうか何でもできて、その上父親がお兄様。あれこれ全人類虜にしちゃえるスペックじゃない?
やばい。お兄様やばい。お兄様の血が優秀すぎてやばい。世界を狙える価値の塊じゃんこれ。
お兄様って、実は全人類と天秤にかけても勝てちゃうくらいの価値があるんじゃないかな?
まあ私の天秤ではずっと前から「お兄様」の駒が片側に乗った時点で反対側の皿とか空の彼方にスッ飛んじゃうレベルの比重差あるけど。
「あの〜……。ソフィア、いないの?」
とかなんとか考えてたら、私の中でお兄様に次ぐ第二位の存在価値を持つアネットが、部屋の扉を開けて覗き込んでいた。タイミングがタイミングだけに「私の身体乗っ取ったこと、まさか忘れてないよね?」と言われてるようでドキッとしたわ。超心臓に悪い。
「ああなんだ、いるじゃない。いるんならすぐに返事してよね〜」
「ごめんごめん。ちょっと考え事してて」
考え事というか、正確には妄想だけど。それも恥ずかしレベルが天元突破しそうなくらいの、思い出しただけで顔から火を吹きそうな程のエロ妄想でしたけども!!
しかもそのエロ妄想の最中、お兄様の公式なお嫁さんであるアネットの存在を今の今までスッポリと忘れていたんだから、私の頭ってばどれだけ都合よく出来てるんだって話よね。妄想するには便利っちゃ便利だけど、そのお陰で全てを思い出した今は、この身体の所有権を奪った罪とお兄様の寝取り的な罪のダブルパンチで罪悪感がちょっと凄いことになってる。《平穏》魔法ちゃん助けて〜。
「ソフィアの作ったマンガの権利について、なんか話があるみたいなんだけど――」
魔法の力を借りてなんとか冷静な思考力を取り戻した私にアネットが遠慮なく近付いてくる。
昼ドラとかでありがちな、背徳感が浮気の醍醐味とかいうあの感覚。今ならちょっと分かるかもしれない……。
「その前に、ちょっとあのマンガについて語ってもいい!? 初めは覗き見してただけなんだけど、あれすっごく面白くない!?」
そうね。この茹だった頭はマンガの話でもして冷ますのが良いだろうね。
私の知らないところでどんどん愛読者を増やしているマンガの底力に感心しつつ、私はアネットと暫しの間、マンガの素晴らしさについて語り合ったのだった。
なおソフィアが普段からこき使っている幼いメイド様は、雇用主であるアイリスの来訪により本日は早めの勤務終了と相成ったのだとか。
標的を失った捕食者に狙われる気配を敏感に察知したソフィアの作戦勝ちである。流石は姉妹、他人をダシにするやり口がよく似ている。




