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お姉様は勇者様


 お姉様が部屋に遊びに来た。


「やっほーソフィア! お姉ちゃんが遊びに来たわよ……って、なにこれ?」


 部屋に入れば、否応無く視界に入ってくる巨大な質量。


 私の渾身の力作である「戦乙女ヴァルキリーたん全身鎧(フルメイル)バージョン」が部屋の中央にずどんと突っ立っているのを見て、お姉様は至極当然な疑問の声をあげた。


「ヴァルキリーたんです。今ちょっと、お人形遊びをしていた最中でして」


 答えてしまってから「お人形遊びとは少し違うかな?」とも思ったけれど、かといってお姉様に「魔改造してました」と言ったところで通じるわけも無い。


 元の凛々しい顔パーツを付け直し、フルフェイスの兜と装飾品である羽飾りのバランス調整、並びにたなびくマントと抜き身の剣を地面に突き立てたポーズでの美しさの追求をしていたのだから、お人形遊びという文言も決して間違いでは無いのだ、きっと。ソフィアちゃん嘘つかない。


 ちなみに魔改造していたのは、部屋の中で「ダンっ」と音を立てて地面に突き立ててもカーペットには傷ひとつ付けないよう両手剣を保護する魔法の部分の改良と、風がなくても動作に合わせて適切な動きを再現するマントの動作制御という作業である。


 もちろん、マントの方はまだ納得が出来る完成度ではない。あくまで暫定として許容できる範疇に留まっている。


 ……現実はマンガのように簡単ではないと思い知らされたので、いっそ見る側の脳に「美しいものを見た!!」と強制的に働きかける精神魔法が必要なのではと思い始めたところなのだけど……。でもそれを言い出したら、美の追求が全部それで済んじゃうし……ううむ、難しいところだ。


「お人形遊び……。ふーん、そうなの。……それにしてもこれ、カッコイイわね!」


「でしょう!」


 得意気に胸を張り、ふふんと鼻高々になってしまうのも仕方のないことだと思う。

 何せ安易な精神操作に頼らず、わざわざ手間をかけて外観を整えまくっているのはその一点、「格好良い」を追求した結果なのだからねっ!


 そしていつの日にか、私のヴァルキリーたんは世界一カッコよくて世界一頼りになる、世界初の全自動型機械人形となるのだー!! えっへん!


「これは何の役なの? 勇者? 騎士様? それとも正体不明の英雄かしら」


「あ、そういうお人形遊びではないです」


 やっぱり勘違いされてたのね。まああの言い方じゃ当然か。


 製作イメージとしては文字通り「戦乙女」なのでお姉様の推察は全て正解と言ってしまっても問題は無いのだけれど、役とはちょっと違う気もする。何せこれ動かせるし。


 敢えて言うのなら私の操り人形なのだけど、説明するのが面倒になりそうなので「観賞用の美術品みたいなものです」と説明したら「そうなの?」とお姉様。いまいち納得していない様子だったけれど、一応の理解は得られた……と思う。「へー」とか「ふーん」とか言いながらぺたぺたとヴァルキリーたんを撫で回すお姉様は意外と甲冑に興味があったりするのだろうか。共にかっちょいーヴァルキリーたん完成の為のお話が出来たらとても楽しいと思うのだけど。


「それより、暇してたのなら私とおしゃべりでもしない? 離れていた間のこととか聞きたいわ!」


 それよりとか言われてしまった。

 お姉様がヴァルキリーたんにさしたる興味も抱いてないのはよく分かった。


 前からそうだったけど、私ってお姉様よりお母様との方が気が合うのよね。昔からお姉様みたいに女の子同士で遊ぶよりかは一人で本読んでる方が好きな子だったし。


 とはいえいつでも明るくて楽しそうにしているお姉様と遊んだり話したりするのは、私も楽しい気分になれて好きなんだけどね。


 幸い唯ちゃんに出会えたことで最近感じていたホームシック的な感傷は大分薄れたけれど、完全に調子を取り戻せたわけでもない。


 カイルが心配する程ではなくなったとはいえ、万が一地球に戻れてお母さんと再会できたとしても、顔が違って気付かれない可能性が――なんて新しい不安もあったりはした。


 けどまあ、その問題については、ほとんど私の杞憂だろうなって結論に落ち着いたんだよね。


 身体がまるで別人になっていたって、私を私だと証明出来るお母さんとの記憶はいくらでもある。

 ぶっちゃけソフィアの圧倒的外見力を強調しながら「私だけこんな美人に生まれ変わっちゃってごめんね? やっぱりこういうのって普段の行いがものを言うと思うからさあ、お母さんも今から善行を積むといいと思うよ?」とでも言えば余裕で娘認定してくれると思う。あの人との煽り合戦は毎日の日課みたいなものだったからね。


 つまり、私にとってもお姉様とのおしゃべりは歓迎すべきことなのだけど。


「それは構いませんけど、アジールのことはいいのですか? まだ幼い子供には、母親の存在が大切だと――」


「それはお母様に言ってやってちょうだい!」


 あ、やばい。なんか地雷を踏んだ感じ?


 なんでもお姉様ってば、アジールを連れて私の元に来ようとしてたのにお母様に捕まって「幼い子供を軽率に連れ回して云々」って叱られてたらしい。長くなりそうだったから「そこまで言うならアジールの世話はお母様に任せます!」って押し付けて逃げてきたのだとか。


 お姉様のあまりの勇者っぷりにちょっと身体が震えてきた。

 お母様相手にそこまで強気に出れるの、一種の才能だと思うんだよね。


「お母様って相変わらず頭が固いわよね!」


「あはは……」


 肯定も否定もできず、私は乾いた笑いを漏らすことしか出来ない。


 一つだけ言えることは、私の元に争いの火種を持ってこないで欲しかったってことだけかな。



 ……怒ったお母様が攻めてくる確定イベントとか聞きたくなかった。


 せめて私のいない所でやっておくれよう……。


「あ、ねぇねぇソフィア。この鎧人形、扉の前に置いておいたらいいと思わない?扉を開けたお母様、きっと驚くわよ〜」

「私が叱られるのでやめてください!」


ソフィア、魂の叫び。

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