表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
872/1407

研究者は新しい魔法に目がないらしい


「――ズルい。アイリスばっかりズルいわっ!」


 一日の授業が終わり。待ちに待った自由を得て。


 カイルとちょっぴりぎこちなかったものの、そんなことより魔法の可能性を追求せねばと授業中に数々の発想を生み出していた私が、さあ何処でどの魔法から試そうかと、ドキドキワクワクで迎えたその放課後。


 何はなくともまずはおやつだと、今日も今日とてヘレナさんの研究室に来てみれば。ヘレナさんが何かを期待する目を隠しきれないままに、膨れっ面で私のことを責めてきた。


 ほっぺたをぷくうと膨らませて。

 指で突けと言わんばかりに、まんまるく膨らんだほっぺたを見せびらかして。


 ……いい歳した大人の女性が、その行動はちょっと。あの、若干、見ていて痛々しいと言いますか……。


 正直見ていられなかったので、素直に欲しがってる情報をあげることにした。


「《しゃべる君》が見たいんですよね? 見ますか?」


「あ、ちょっと待って! 今準備するから!!」


 おそらく無理やり作っていたのだろう、不機嫌顔は一変。

 簡単に喜色に染まった表情で、ヘレナさんは魔法陣の刻まれた羊皮紙や魔力を視覚化する魔法の詠唱など、観察する為の準備を整え始めた。


 そして急遽待たされる側になった私の前には、ヘレナさんの慌ただしい準備模様とは比べ物にならない、実に洗練されていていっそ美しい程のメイドの嗜み術で瞬く間におやつの準備が整えられた。


 シャルマさん、多分メイド道の免許皆伝とか持ってると思う。

 若しくは早く動いてもホコリを立てない魔道具とか使ってるんじゃないか? 物理の法則が一部乱れているように思えてならない。


「待っている間にはこちらをどうぞ。本日は人参のケーキとレモンジンジャークッキーをご用意しております。紅茶はミルクティーでよろしいですか?」


「お願いします!」


「はい、承りました」


 まあそんなことどうでもいいね。


 完璧なタイミングで目の前に差し出されたお菓子にテンションが上がらない人なんかいないと思う。しかも私の好みを把握して紅茶も既に準備済みとか、仕事が完璧すぎて感謝しかない。


 嬉しさが込み上がり、ついつい元気に返事をしたらクスクスと笑われてしまったけれど、シャルマさんの笑顔は可愛らしいだけで嫌味なところが全くないので全く気分を害さない。むしろ私の行動で笑ってくれたことを誇らしく思うくらいだ。


「おいしいです」


「恐れ入ります」


 いつも通りの、お決まりのやり取り。


 けどそれ以外に何か言える?

 本当に美味しい物って下手に言葉を尽くすと逆に貶めてる気分になってくるんだよね。だって説明なんかしなくても美味しい物は美味しいもの。問答無用の美味しさだもの。


 無意識の内にやってきた二口目をゆっくりと咀嚼し、味の余韻が残る口内に香り豊かなミルクティーをそっと流し込む。にんじん農家のおじさんが健康的な汗を流す後ろで、乳牛が「モォー」と鳴く光景が頭に浮かんだ。


「おいしいです」


「お気に召したようで何よりです」


 はー、幸せ。美味しくてリラックスできて最高〜。


 この部屋に来る度に思っちゃう。シャルマさんも私のメイドになってくれればいいのになーって。


 リンゼちゃんも可愛さ全振りで文句なんてあるわけもないんだけど、やはり癒し力という点においてはシャルマさんの方に軍配が上がる。


 お菓子を作るだけなら一応、リンゼちゃんも作れるは作れるらしいんだけど、前に食べてみたいと頼んだ時は「ソフィアは料理人をクビにしたいの?」と脅されたので未だ腕前の方は不明なのだ。


 まあシャルマさん以上ってことはないと思う。

 メイドたちの間で噂とかにもなってないから、信じられないほどマズイってことも……ないんじゃないかなと。多分だけど。


「ソフィアちゃん、準備できたわよ!」


 そんなことを考えている間に、ヘレナさんの用意ができたようだ。


「その魔法陣」「魔力に反応する」「やつでしたよね?」


 ご要望どおりに《しゃべる君》を三連発。


 高さを少しずつズラして全て魔法陣の上に配したが、反応はなし。やっぱりあれ、直接触れないと検知しないタイプだよね。魔法の検証には不向きだと思うんだけど。


「んえっ……!? な、なに今の。今のがそうなの!?」


 一方至近距離から私の声が次々聞こえたヘレナさんは見るからにあわあわと驚いていた。


 あのお母様がイタズラに使ったというのも納得の性能である。声を別の場所から出すのって面白いわ。


「今、ソフィア様の声があちらの方から……。……なるほど。またすごい魔法を編み出されたのですね?」


「編み出したのはお母様で、私は似た魔法を作っただけですけどね。……ちなみに」


「こんなこともできるのよ?」


「えっ!?」


 感心するシャルマさんの背後にヘレナさんの声を飛ばしたら、お手本のような「えっ!?」いただきました。


 驚き方もウルトラかわいい。これがメイドの頂きか。


「ソフィアちゃん、こっちにももう一回おねがい! 今度はひとつでいいかゆっくりめに飛ばして!」


「はーい」


 この部屋の主様の要望に応えつつ、美味しいお茶とお菓子を堪能。


 私はまだまだこの部屋の研究対象として、居座ることが出来そうだった。


研究好きのヘレナとしても、ソフィアを魔力タンクとした研究はシャルマの機嫌が悪化するので、やりずらいようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ