表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
864/1407

復讐心


 私がこの世界に来たのは、創造神ちゃんのお父さんのせい。


 それはつまり、私を背後から突き刺したあの通り魔が、彼女の父だったという事なのだろうか。


 ――とっくに燃えカスになったと思っていた復讐心に、火が、投げ入れられたような感覚。


 まるで暗い炎が、身体の奥底で静かに燃え広がっていくような。


 燻っていた種火が、復讐相手を見つけて歓喜の咆哮をあげたような。そんな気がした。


「……そう、なんだ」


 思い込み。勘違い。

 聞いた言葉を鵜呑みにして、痛い目に遭った経験は幾度となくある。聞いたつもりで先走っちゃう事もしょっちゅうだ。


 だけど、これはどうだ? これは――どうなんだ?


 私は死んだ。死んで蘇った。

 この世界の人間、ソフィア・メルクリスの幼かった身体を乗っ取り、本来の人格を永らく封じて、今日までのうのうと生きてきた。


 その罪の責任さえ(あがな)わず。


 認めたくない事実から逃れるように、殊更に明るく振舞って。


 ……私がこんな状況に陥った原因が、創造神ちゃんの父親のせい?


 つまり、その人物は――創造神ちゃんは――私の敵だな?


 思考が冷えていく。

 指向性を持った感情が、怒り一色に支配されてゆく。


 ……魔力を封じられている今、私の勝率は極めて低い。なら、その戦闘力の無さを逆手にとっての奇襲。一矢でも報いるにはこれしかない。


 油断させて、さりげなく近付いて、一撃で全てを終わらす。


 ……いや、駄目だ。落ち着け。相手は神だ。ヨル達と同じなら、その身体は全て魔力で作られた仮初のもの。目を潰そうが首の骨を折ろうが再生する可能性がある。もっと存在の根底を揺るがすような、致命の何かが必要だ。


「…………」


「…………」


 弱点は、観察することで発見できる。


 その経験則に基づいて創造神ちゃんの様子を伺い――私の意気は消沈した。


 ……人殺しの娘が、なんて顔してんの。


 創造神。この世界を創造した神様。

 今私が反抗しても、すぐさま鎮圧できそうな圧倒的な存在が、申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。


 ……たとえ今更彼女に謝られたところで、前途ある私の貴重なJK時代は返ってこないし。ここで過ごした十三年間も、全部が全部、悪いものでもなかった。


 それにきっと、彼女は私の敵じゃない。


 勘でしかない。本当は、私が復讐するに足る相手なのかもしれない。でも、この世界があったから、私に第二の人生が送れたことも確かな事実で。


 なにより、自分が作られた神だと言っていた時の彼女は……とてもそれが、自ら望んだ事だとは思えない雰囲気だったから。


 だから、まあ。この復讐心はひとまず横に置いておこう。


 復讐する相手が手の届く距離にいないのに、一方的にひたすら想い続けるのって、なんだか私がそいつのこと好きみたいで癪だしね。


 私が常に想い続けるのなんてお兄様ひとりで充分以上。

 お兄様への想いだけで頭の中は満席なんです。嫌な奴の入る余地なんかないから普段は忘れてるくらいで丁度いいね。


 そうと決まれば、さっそく魔法……は、使えないので、最近では補助的な使い方しかしていなかった催眠術で記憶の除去を試みる。


 目を閉じて、思い浮かべるは無風の水面。


 底の見えない泉に向かい、「復讐心」を、トプリ。沈んでいく様を静かに見守る。


 水面を揺らしても復讐心は出てこない。覗き込んでも、もう、何処にも見えなくなった。


 ……うん。これでしばらくは大丈夫でしょ。


 完全に落ち着きを取り戻した私は、ずっと黙って見守っていてくれた創造神ちゃんに視線を向け、感謝を伝えた。


「取り乱してごめんね。落ち着くの、待っててくれたんだよね? ありがとう」


「いえ……」


 気まずそうに逸らされた視線。その態度を見て確信した。


 やっぱりそうだ。彼女は私に対して、罪悪感を抱いてる。


 こんなに分かりやすい反応してるのに一瞬でも彼女を敵側だと見誤るだなんて、私ってホントに見る目がないな。っていうか、感情に流され過ぎね。いつもの事ではあるんだけどさ。


 彼女と彼女の父親は、別の思惑で動いてる。


 少なくとも今は、その認識でいて良いのだと思う。


「で、今の話を私にしたのは、なんで? ……って、聞いてもいいのかな?」


 そもそも私を呼んだのは彼女の方で、恨みを買うだけと分かっていたなら私を呼ぶ必要が無い。


 私がいちいち過剰に反応しちゃうせいで話が進まないのだと分かってはいるのだけど、私はこのとおり、ショッキングな話を小出しにされるとどーしてもこまめに反応しちゃう性格なので。出来るなら、ズバッと目的や結論の方から手っ取り早く話して「な、なんだってー!」ってする機会を一回でも減らして欲しい所存だったり。


 さて、お次はどんな話で私を驚かせてくれるのかなー? なんて、内心ビクビクしながら待ち構えていると。


「その……ね。あなたがここに来たって事は、あなたは私の妹……だと思うの。だから、私はあなたに会いたかったの」


 …………なんか想像以上に予想外の展開きたよコレ!?


 衝撃!! 私の姉は創造神だった!? ってなるか!! え!? うちって実は五人兄弟だったの!? あれでも、世界が先で姉妹が後で、あれー!?


 ちょっと待って!!! これは混乱しない方が無理ってもんでしょ!!?


気が休まる暇がないとはまさにこの事。

ソフィアちゃんのスーパー混乱タイムはまだまだ終わりが見えないようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ