神様は会話下手
神様との初遭遇がシンで、次がヨルだったから誤解してたけど、神様ってみんながみんな傲慢な訳では無いのかもしれない。
初めこそ「創造神ちゃん超こわい! 時々黙って見つめてくるのはなんなの!? 処分しようか検討してるの!?」なんて思って恐々としてたけど、この子はあれだ。単に人と話すのに慣れていないだけだ。
そういえばリンゼちゃんだってうちに来たばっかりの時は「正論でソフィアを打ち砕く為に来た」みたいな感じだったし。神様って基本的に対人能力が低いんだと思う。機会もなければわざわざ相手に合わせる必要も無かっただろうしね。
「それにしても、まさか創造神まで日本人だったなんて……」
「意外だった?」
いやまあ、黒髪黒目って時点でなんとなく察するものはあったけどさ。
でも自分で自分のことを「日本人」だと自称するってことは、この子は元から神様だったんじゃないってこと……だよね? 生まれながらに神様やってたんだったら、たとえ日本が発祥の神様だって自分を指して「日本人」とは言わないもんね?
「意外だったし、混乱してる。神様って生まれたときから神様だと思ってたから」
「そうね。私もそう思ってたわ……、…………」
答えたきり、口を閉ざした創造神ちゃん。
これがリンゼちゃんだったら「え? さっきので会話は終わりでしょう?」みたいな認識でいる可能性が激高なんだけど、顔は似てても性格は大分違うと分かってきた創造神ちゃんなら、この沈黙はきっと自身の記憶にでも潜ってるタイムラグなんだと思う。
さっきも思い出すような必要がある事柄の時に突然動きを止めちゃって、すわ何か気に障ることでもしちゃったかと慄いてたけど、再起動した創造神ちゃんは何事も無かったようにふつーに話を続けてたし。これが彼女の話すペースなんだと思えば会話のテンポが悪いくらいじゃ苦にもならない。……読み間違えてなければだけど。
実は私の認識の方が間違いで、会話が不自然に止まるのは私の返答が気に入らないせいだったりしたらどうしようね。仏の顔も三度までって言うから、あと一回くらいは見逃してもらえるのかな? いや出会い頭のお漏らしも含めたらもう……、……いいや。過ぎたこと考えるのはやめよう。無益だ……。
それに会話のテンポが遅れるのは悪いことばかりでもない。
普段から魔法を使って思考速度を加速させてた私からすれば、取り返しのつかないこの状況で相手を待たせることなく返事をしなければならないというのはかなりのストレスなのだ。
相手が何を望んでいるのか。私が求める情報を引き出すにはどういった返答がいいのか。
表情から、仕草から。
時には特定の単語に対する反応を見てから話す内容を変えるような会話をしていた私にとって、返事を即座に決めなければならない会話というのはもう本当に辛い。辛すぎて胃に穴があきそうなくらい辛い。いっそ開き直って返事を「ああ」とか「うん」だけで済ませちゃおうかと考えちゃうくらい辛い。
例えるなら、銃弾飛び交う戦場に寝巻きのままで飛び込む感じ?
あるいは槍が降ってる外へビニール傘で突撃するような感じだろうか。
どっちも体験したことは無いけど、あまりにも無防備だという心情だけはよく理解してもらえるんじゃないかと思う。
それに、創造神ちゃんの反応だって――
「あなたは神様って、どうやって作るのか知ってる?」
っと、考え事は終わったらしい。会話の続きが――?
ん、聞き間違いかな? 今、神様の作り方を聞かれたような……。
「ううん、知らない」
とりあえず当たり障りなく答えたけれど、聞き間違いではなかったらしい。
「神様はね、『感情豊かな子供』から作れるんだって。『無邪気で夢見がちなほど仕上がりは良くなる』みたい」
…………いきなり何の話をし始めたんだか知らないけど、これは私が聞いていいやつなんだろうか。
創造神でもまだ神様たちのトップじゃないの? この世界の神様は少年マンガ並のインフレ業界なの?
誰から聞いたのか知らないけどなんで私に話すんだろう。ってか聞いたら帰れなくなるパターンじゃないよねこれ?
もーー別の意味でも怖くなって来たんですけど!
「じゃあ貴方も、無邪気で可愛い子だったのかな」
「そうみたい」
…………。
……………………会話の選択肢を間違った気がする!!
元は日本人で、神様になりたくてなった訳じゃなくて、それでえっと……?
神様は「感情豊か」で「夢見がち」な「子供」からできると。ふむふむなぁるほど……ソウダッタノカー。
……どうしよう。これって「今からあなたも神になってね☆」的な展開なんだろうか。回避不能の強制イベントが起こる予感をひしひしと感じる。
そうよね、でないと神様が私なんかに用事あるわけないもんね。
それで勘づいた私が逃げ出さないように魔力を封じて謎空間にまで閉じ込めてるって訳なんですね。準備万端過ぎて涙が出るわ。
「……私、神様になるの?」
半ば諦めながら問うと、創造神ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「何故? 神になりたいの?」
……ん? 会話が噛み合ってない……? よね?
……………………んん??
気軽に話せるようになったつもりでも、圧倒的弱者である立場は変わらない。
その事実がソフィアの深層心理にあった「せめて対等にならなくては」と望む願望を覗かせた……のかもしれない。
若しくは、単に調子に乗りやすいだけか。




