かつて居た友人
――私にはかつて、友人がいた。
ゲームと漫画をこよなく愛するオタク女子。オシャレ女子を自称するもメンタル豆腐なハリボテギャル。ウルトラマイペースで歯に衣着せぬ辻斬り女。
リバーシブルドSと呼ばれた私を含めた私達四人は、趣味も考え方もまるで違うのに、何故か面白いほどにウマが合った。
お菓子を持ち寄り分け合おうとしても、好みは全然合わないし。
好みの男性の話をしようもんなら理解できないと一蹴されて、罵りあいになるのだって茶飯事だ。
それでも、私達はいつも一緒にいた。バカアホマヌケと言い合う毎日がたのしかった。それが私の日常だった。
だけど、そんな永遠に続くと思っていた毎日は唐突に終わりを告げる。
深夜の買い物。
自宅アパートとコンビニを繋ぐ、徒歩五分にも満たない通り慣れた道。
そこで私の人生は終わった。……終わらせられた。
通り魔か、はたまた私個人を狙った犯行か。
誰が、何故、何の目的で。
理由は不明でも結果はひとつ。
私はその日、私が持っていた全てを理不尽に奪われたのだ――。
「だから〜、言葉にするのは本当に難しいんだって〜」
脅され降され屈従させられた不幸な私は、カイルにちょっかいをかけるまでに至った心の動きをカイルが納得するまで詳細に説明させられるという、心を丸裸にされるも同然の変態的な恥辱を受けていた。
女の子を裸に剥こうだなんてカイルってば本当に最低だよね。
いつか絶対天罰がくだると思う。いや、むしろ私が直接手をくだすべきか。
「それ、嘘じゃないけど本当でもないだろ。やっぱりロランドさんに報告した方がいいか?」
「すぐそうやって脅すの、良くないと思う」
「ならぐだぐだ言ってないでさっさと話せ」
しかもなんかまたイライラし始めてるし。カルシウム不足か? カルシウムが足りていないのか?
理由はどうあれ、今のカイルは情緒不安定だ。いつまた「話す気がないならもういい」と切り上げてお兄様へ告げ口しに行くか分からない怖さがある。時間稼ぎすら許されない私には、カイルの要求に諾々と答えるしかないのだった。
「えーと、だからね? 新しい魔法を使ってみたいと思ってたのも確かなんだ。実験台にはやっぱりカイルが最適だし――」
「お前がそーゆーことしだす時は、大体が何か不安を感じてる時だってのは調べがついてる。だから今聞いてんのは、お前が何に不安を感じたのか、ってことなんだけどな?」
どこの誰調べだそれこのストーカー野郎が。
私の敵意溢れる視線を受けたカイルが「ちなみにロランドさんに聞いた話だぞ」と付け加えたことで、私の怒りはみるみる消沈した。
怒りの矛先を失ってしまえば、残るのはカイルに嵌められたという事実だけだ。
返事の確約を取られた上での、重要な情報の後出し。
睨むようにカイルを見ても、返ってくるのは「それだけ心配してるんだ」という強い意志の篭った瞳だけで。
その力強さに、むしろ私の方が耐えられずに目を逸らす羽目になった。
……そういえば、今ではすっかり生意気な言動が板についたカイルも、元は善良で純粋な、この世界の住人だもんね。
どれだけ似せようとしても、結局は別物。
欲に塗れて自分勝手で、互いに互いを利用し合っているだけみたいな友人関係なんて、そもそも作れる訳がなかったんだ。
水清ければ魚棲まず。
だからって、ただ清水を汚しただけで住めるようになる訳もなく。
私の心はいつだって、きっと不安でいっぱいだった。
「そっか〜、カイルは私が何を不安に感じてるのか知りたいのか〜。そっかそっか〜」
「……おい。俺は真面目に――」
文句を言いかけたカイルが、私と目を合わせただけで動きを止める。
本当、見透かされてるなあ、なんて。もう笑うしかない心境になってくる。だから笑った。
「あはは、さっすがカイル。目を合わせただけで通じ合えるんだから、幼馴染みってすごいよねぇ」
ポッカリと大穴の空いた心を久しぶりに自覚したまま、空虚な心のままに声を上げて笑う。嗤う。
ああ可笑しい。
カイルだって、薄々気付いていたくせに。気付いていたから聞いたくせに。何を今更驚いてるんだか。
「お、お前、それ……」
「カイルが感じた不安の原因はこれだと思うよ。最近ちょっと色々あってね」
てか久々に自覚したら、私を殺した犯人に対する殺意が再燃してきた。やっぱできるならどうにかしてお礼とかしてあげたいよねぇ。
丁寧に、じっくりと、不意打ちのお礼も兼ねて……ね?
「まあ私も気になってたとこだったから、そろそろどうにかしたいと思ってたんだ。もうちょっと待っててよ。そしたら多分、ある程度は回復するから」
なんて。回復するってのは、まあ分かりやすい嘘なんだけど。そろそろ会う必要があるかなとは思っていた。
ヨルより上の神様で。私よりも地球の情報を持っている唯一無二の存在、創造神。
会うくらいで私の心に空いた穴ポコが回復するなんて到底思えないけど、何かしらの情報は得られるはずだ。……多分、きっと、恐らくメイビー。
……帰ったらリンゼちゃんに、会えるようお願いしてみよ。
「だから、まあ、なんだ。今日はちょっかい掛けちゃってごめんね? おかげでいい気分転換になったよそれじゃあ!!」
言うが早いか、何か言われる前に空き教室を飛び出した。幸いカイルが追ってくる様子はなかった。
……うーむ、カイルにバレたってのに思ったよりも冷静だな、私。
まあカイルには勘づかれてるとは思ってたし、話も有耶無耶にできたし上出来でしょう! 流石は私、ナイスだね!!
リバーシブルドSと仲間内で呼ばれる彼女は一見、特徴のない優等生なのだが、一度情け容赦のないその内面に気付くとあら不思議。普段の言動もドSに見える表裏一体の純ドS。
命名は辻斬り毒舌斎さんの提供でした。




