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喧嘩するほど仲がいい


「ごめんなさい」


「悪かった」


 喧嘩両成敗と、促されるままに頭を下げ。


 握手を交わして仲直り! ――と、そこまで単純にはできてない私達は、とりあえずは仲裁に来た先生の面目を保つために形ばかりの仲直りはしたが、その内心は未だ和解とは程遠い場所にあった。


 ニコリと胡散臭い笑みを互いに浮かべながら、小声でひそひそと言葉を交わす。


 多少は落ち着いたものの、まだまだやり合う気は満タンだった。


「……で、カイルはなんであんなに怒ってたの? いつも落ち着いててかっこい〜いカイルくんの態度じゃあなかったよねぇ?」


「ソフィアこそ、なんであんな悪戯仕掛けてきたんだ? つい我慢ができなくなって……なんて、そんな言い訳が俺に通じるとでも思ってんのか?」


 傍から見れば、すっかり仲直りしたように見えたかもしれない。


 固く握り締めた手を互いに離そうとせず、それどころかさりげなく顔を寄せてボソボソと密談を交わす姿は、女子たちがにんまりとした顔で邪推しているように、まるで仲の良い男女の関係のように見えるのかもしれない。


 だが、私達の心情は全く異なる。


 普段とは様子の異なる幼馴染みの行動に警戒し、同時に自身の内心を悟らせないようにと笑顔の仮面を貼り付ける。


 お互いに何かを隠していると承知の上で、どうすれば相手の仮面を剥せるのかと隙を伺うやりとりの応酬。


 わざわざ来てくれた先生には悪いけど、私とカイルはこの件をなあなあで済ませる気などさらさらなかった。


「カイルがあんなに怒るのって珍しいよねぇ。怒りの琴線はリチャード先生、かな? リチャード先生からの評価を気にしてたの?」


「残念、外れだ。で、話題を逸らすってことは、やっぱりあれはただの言い訳だったんだな。お前が隠したがるってことは、お前の本音に関わることだろ。これはお前の兄貴に報告が必要かもな?」


「…………ふぅん、そっか。カイルはそう思ったんだぁ」


 苦し紛れに惑わす言葉を吐いてみても、カイルは騙されてはくれない。むしろ私の負け惜しみに己の優位を確信したようで、貼り付けた笑みの裏から邪悪な本性が顔を覗かせ「おう、今のうちに降伏した方がいいんじゃないか?」と視線でひたすらに煽ってくる。


 その表情を見て逆に闘志を燃やした私は、意思を表明するように笑みを深めた。その仮面の裏では当然、余裕を脱ぎ捨て罵倒を叫んではいたが。


 ……だぁああーっ! 幼馴染みってやりづれー!!


 昔はもっと素直で無邪気でかわいくて、乱暴なところもあるけど扱いやすい、私の言葉でころころ簡単に転がされる単純おバカだったはずなのに。いつからコイツはこんなに生意気になったのだろうか。


 つーかお兄様を出すのは卑怯だろ!! 私身動き取れなくなるじゃん!


「それじゃあ二人とも、仲良くね」と言い残して先生が去り、それに続いてストーカー乙女達が「私達はいないものと思って続きをどうぞ!」「いや二人きりにしてあげなさいよ」とコントを繰り広げながら退室し、私達は再び二人きりとなった。


 静かな教室に二人きり。けれど、その状況は初めの時とは大いに異なる。


 他人の目が消失し、誰かが乱入してくる確率が著しく低くなった。

 カイルは冷静になった分、私の態度から真意を読み取る能力が劇的に向上。


 そして私は自ら叱られることを受け入れていた初めの時とは違い、今や脅されていいなりにさせられるという瀬戸際だ。ソフィアちゃんの貞操がピンチの予感。


 あ、そうだ。


「私がここで『襲われるぅー助けてー』って叫んだら、カイルって社会的に死亡するんじゃ?」


「……お前は本当に発想が悪魔的だな」


 私の発言に、カイルが「嘘だろお前」と見るからにたじろいだ。なんか効果バツグンな感じ。


 そんなドン引く程のことかね? あと、どうせなら小悪魔的と言って欲しかったかな。


 なんとか立場をイーブンに持ち込めたことに満足していると「まあ、それもいいか。ロランドさんにバラせる情報が増えるだけだし」と、カイルが恐ろしいことを呟いているのが耳に届いてしまった。


 なんも良くない! 発想が悪魔的なのはお前の方だろ! と思わず突っ込みたい気分になったのは言うまでもない。


「……何が目的?」


 本当に。本当に悔しいのだけど、ここは大人しく降伏してカイルの要求を飲む他ない。


 これは敗北ではない。戦略的な交渉なのだ。


 そう自分に言い聞かせ、断腸の思いで切り出したってのに。


「いや、もういいや。あとはロランドさんと相談することにしたから」


 と、カイルは何故か晴れやかな顔をして言い切った。


 ……冗談、だよね?


「……本気?」


「え、なにが?」


 ――これは本気だ。


 理解したと同時、本気でお兄様へ相談しようとするカイルを止める手段が驚くほど少ない事実に気が付いた。


 ……あれ? これやばくない?


「――ねぇ、カイル? ちょっと私の話を聞いて欲しいんだけど……」


 なんとかカイルの考えを変えなければと、意識を改めた私にヤツは言う。


「なんだよ急に猫撫で声出して。気持ち悪っ。また何か企んでるのか?」


 むっ、ムッカつくぅううぅぅぅ!!!


 ムカつくけど、反論はできない。


 私はその後、尊厳をズタボロにされながらもカイルに懇願し、なんとかお兄様への報告を取りやめさせる事に成功したのだった。



 ……この恥辱、いつかぜったい晴らすから覚えとけよ…………?


懇願してくるソフィアを見下ろし、カイルくんはそれはもう、嬉しそうに笑っていたとか、いないとか。

楽しそうにドSする幼馴染みを見てたら感染っちゃったのかな?うん、きっとそうに違いないね!!

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