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安心と信頼の幼馴染み


 女の子の涙は最強説、あると思います。


 カイルとわたしが連れ立って教室を抜け出したのを面白いことが起こる前兆とでも思ったのか、バレバレの尾行をしてきた好奇心旺盛な彼女たちを利用させてもらった。


 激昂するカイル。黙って項垂れる私。


 私と同じように、このままではカイルが喪神病を発症する可能性が高いと思ったのかは定かではないが、結果的に彼女たちは先生を呼びに行き、そうして急かされるままに到着した先生は目の当たりにしたのだ。空き教室で泣かされている少女と、その前に立つ少年を。


 良かったねカイル。怒りが収まったみたいで。


 喪神病になって寝たきりになる可能性から救ってくれたんだもん。先生を呼んでくれたお友達には感謝しないといけないよねぇ? うふふ。


 私だって、初めはちゃんと反省するつもりだったのにさ。何か知らないけどカイルってばメチャクチャ怒ってるんだもん。私にだって我慢の限界はあるよ。


 それでも、今も理不尽に先生からのお叱りを受けているカイルを見ると、ちょっとかわいそうかなと思わないでもない。


 でもカイルの過ぎた言葉がこの結果を招いたんだから、これも因果応報ってことだよね。うんうん。


「ソフィア、大丈夫だった?」


「何があったのかは分からないけど元気だしてー! ね? ね? えっと……ほら、飴! 飴あげるから!」


「そんな、あんたじゃないんだから」


「なにおう!? 飴様のことを舐めてもらっちゃあ困るよ!?」


「……飴だけに?」


「飴だけに!!」


 ちょっと、慰めるなら真面目に慰めてくれないかな。クスリとしちゃった私がチョロいみたいじゃん。


「あ、笑った!」


「良かった。じゃあほら、こっち向いて。そんな顔してたら運気が逃げちゃうわよ?」


「運気と顔関係なくない? むしろ泣いてた方が男とか寄ってきそうだけど」


「あんたはちょっと黙ってて」


 涙で濡れた顔を丁寧に拭かれる。


 この歳にもなって家族以外の人に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのは物凄く恥ずかしいのだけど、これも私が招いた事態だ。甘んじて受け入れよう。


「……二人とも、ありがと」


「あら」


「しょげてるソフィアちょーかわいい!」


 素直にお礼を言ったら何故か抱きつかれた。解せぬ。


 というか、別にしょげてませんし。カイルなんかの言葉で傷付いてないから。嘘泣きだからこれ!


 まあ未だ先生もいるこの場所で真実を明らかにすることはできないし、私がしょげてるように見えるのなら好都合。その状況を利用させてもらおう。


 ご要望通り、今だけ私は、とてつもかわいいしょげしょげソフィアさんになろうではないか。


「しょぼーん」


「口で言ったー!」


「口で言ったわね」


「しょぼしょぼーん」


「また口で言ったー!!」


「案外余裕あるのかしら……?」


 おっ、そうなのそうなの。実は案外余裕があるのですよ。


 カイルにいじめられてたのが事実だとしても、綺麗に反撃が決まったからね。今はわりと心晴れ晴れって感じ。


 ……そういえば、騙し討ちみたいなことしたのにカイルが私に文句言ってこないのって珍しいね? 完全敗北を認めて諦めたのかしら。


 先生に滔々と博愛精神を叩き込まれているカイルをちらりと観察すると、ちょうどこちらを見ていたカイルと目が合った。じとーっと音が聞こえてきそうなくらいの見事なジト目。ジト目選手権で優勝も狙えること請け合いだね。


 折角目が合ったのだからと、負け犬カイルに幼馴染み間でのみ伝わる目線会話を試みてみた。


 ――ねぇねぇカイル。今どんな気持ち? さっきまで反論も出来ずに反省させられてた私の気持ちが分かったりした?


 ピクリと眉を動かすカイル。


 一度瞑目し、再び開かれた瞳には、思わずドキリとしてしまう真摯さがあった。


 ――いや、あれは俺が悪かったよ。ごめんなソフィア。今は言いすぎたって反省してる。


 ……反省すんなー! なんだその余裕!! これじゃ私の方が聞き分けのない子供みたいじゃないか!!?


 さっきあんだけ馬鹿にしてたくせに手のひらくるっくる回しすぎだろ!! 反省するくらいなら初めから突っかかってくんな、面倒くさい!


 心底から湧き上がってきた怒りに目の前が赤く染まる。私は何故こんなにも怒っているのだろうか。


 カイルが、カイルだけは、私のことを理解してくれているのだと思ってたのに。結局お前も同じか。私の外見(みてくれ)しか興味がなかったのか。


 長年面倒見てきたのも全部無駄で。結局、私の理解者は、お兄様だけで――。


 ――寒い。怖い。自分でも驚くほどの絶望が這い寄っている感覚がする。


 信じていたものに裏切られる前に。

 いっそ私から切り捨てなければと、怯える心の防衛反応に囚われる間際――カイルからの視線での会話に、まだ続きがあったことに気が付いた。


 ――本当にごめんな、ソフィア。俺がバカだったよ。ソフィアが自分の欲に忠実な考え無しで、何度も同じことで叱られてる様なアホな子だって知ってたはずのに、俺はついソフィアにも反省する頭くらいはあるんじゃないかって思っちまった。無理に決まってるよな。だってソフィアだもんな。叱られてたって、叱られてるってことすら理解出来てないんだもんな。ごめんな、そんな簡単なことにも気付いてやれなくて――


 …………びっくりした。


 人ってこんなにも真摯に人をバカにできるのかって、びっくりした。


 驚きすぎてもはや怒りすら湧いてこないが、やられっぱなしは性にあわない。


「……カイルが睨んでくるぅ」


「なぬぅ!?」


 とりあえず、女子の強みを押し出して。


 不安定に揺れる心の波から目を逸らし、カイルに仕返しすることに尽力しよう。


 結託した女子の怖さを、思い知れ、カイル!!


「(……この子達、喧嘩してたのよね?え、もしかしてただの痴話喧嘩だった?私っておじゃま虫だったりする?)」


喧嘩の仲裁に来たはずが、急に見つめ合い始めた二人に何かを感じ取った女性教師。

呼び出した女生徒から嘘を吹き込まれるまであと五秒。

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