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怒れるカイルの鎮火方法


「ソフィアって本当にバカだよな」


 カイルの容赦ない罵倒。それに、私は反論することが出来ない。


 カイルには怒るだけの権利があり、私には怒られるだけの理由がある。


 流石に今回は悪いことしたかなーと思っているからこそ、私はカイルの怒りを粛々と受け止めているのだ。普段何もしていない時にこんな調子で突っかかって来られてたら私だって反論する。思う存分反撃する。トラウマを植え付けるレベルで間違いなく返り討ちにする。


 が、今回ばかりは私が悪い。


 だからどれだけ強い言葉で(なじ)られようと、私には反省し続けることしか出来ない。カイルに頭を下げたまま、その溜飲が下がるまで、じっと耐えて待つしかないのだ。


「少しでも考える頭があったら分かんだろ普通。やっていい事といけない事の区別もつかないのか? そんなんだから身体もいつまでもちっこいままなんだよお前」


 おうなんだと?


 ……っと、いけないいけない。私は今叱られている真っ最中。非が私にある以上、逆ギレするにはまだ早い。


 そりゃあね、我慢できなくて授業中に新魔法《しゃべる君》を使ってちょっかい掛けたのは私が悪かったよ。


 教壇に立っているリチャード先生の声が突然耳元から聞こえたら、誰だってさっきのカイルみたいに「うおおっ!?」なんて悲鳴をあげてびっくり仰天、椅子から転げ落ちるようなことだってぷぷぷ。

 ……いや、そんな醜態を晒してしまうこともあるかもしれない。


 全責任はイタズラを仕掛けた私にある。それはもう、逃れようのない事実である。


 でもそれにしたってさ? いくらなんでもカイルってば、ちょっと怒りすぎではないだろーか。


 あまりの剣幕に「呼んだー?」とばかりに反抗の芽が顔を出してしまったけど、今回の責任は明らかに私にある。だから甘んじて受け入れるしかあるまいと、そう思って必死で我慢してるのに。


 カイルは私の心情など露知らず。今が好機(チャンス)とばかりにヒートアップ。


「大体さ、ソフィアって昔っから頭おかしいんだよな。庭師が整えた花壇に突然腕を突っ込んだり。料理人が丹精込めて作ってくれた料理をいかにもまずそうに吐き出したりしてさ。誰かが自分たちのために整えてくれたもんをどうしたらそんな蔑ろにできるんだ? 周りが甘やかしてくれてるからって何しても許されるとか思ってたら大間違いだからな?」


 ちょっと待てい。後半はともかく前半の話は身に覚えが全くないぞ。それ私じゃないでしょ誰の話だ。


 花壇に腕を? 本当に私が? それっていつ何処であった話??

 状況が分からないからなんとも言えないけど、少なくとも私に花壇を荒らすような趣味はなかったぞ。幼児の頃から中身の年齢が高校生だったんだから当たり前だけど、そこらの子供よりよっぽど分別のある子供だったからね。


 あと料理の方はよく覚えてるけど、あれは料理という名のナニカであって料理ではなかった。よって私は悪くない。


 確かにその場で吐き出したのは見ていた人からすれば気分が悪くなる行為だったかもしれないけどさ、あれは身体の防衛反応であって意志がどうこうって話じゃないんだわ。


 礼儀に厳しいあのお母様でさえ後でこっそり吐き出してた一品だからな? その意味をよーっく理解して、ついでに丹精の意味を調べ直してこい? 


 心の中では反論が嵐よりも激しく吹き荒れているが、辛うじてまだ表情は取り繕えている。だがこうも一方的に言いたいことを言われていては、いくら仏のソフィアちゃんでもチクリとした一発くらいはお返ししたくなってしまうではないか。


 てかカイルってば、ちょっとイタズラしたくらいで怒りすぎじゃないかな。


 そりゃ私だって学院で一番真面目なリチャード先生の授業中にふざけるリスクは承知してるよ? でも喪神病が発症しそうな程に怒り狂う事でもなくない?


 いっそカイルが喪神病になったら一転して命の恩人になれるのに……とか考えちゃうくらいには一方的に怒られてる現状に嫌気がさしてきた。


 カイルって嫌味とか言うのが天才的に上手いんだよね。ムカつく言葉選びが神がかってるというか。


「おいソフィア。聞いてんのか?」


 今だってほら、私が不満を持ったタイミングで的確に表情とか確認してくるしさ。人の嫌がることする才能私よりあるよ。お墨付きあげちゃう。


「……おい、お前全然反省してないだろ。素直に着いてきて珍しく黙ってるから、少しは反省してんのかと思ってたけど……お前そんなことばっかしてると友達失くすぞ」


 うるせーやい。カイルに何が分かるってんだ。


 前世で仲が良かった友人たちの顔が脳裏にチラつく。

 どれだけ望もうと、もう二度と会うことの出来ない彼女たちの姿を思い出してしまい、一瞬殺意にも似た激情が感情を支配した。が、それもすぐに落ち着く。


 ……なるほど。友人、ね。


 カイルにこの空き教室に連れてこられた時から、尾行されてた事には気付いていた。その内の数人がカイルの様子がおかしいことに気付いて、人を呼びに行ったのも把握している。


 そして今。彼女たちの呼んだ援軍が到着しつつある。


 ……ふふふ。この状況で友達を失くすのがどちらか、試してやろうじゃないか。


「……反省、してるのに。カイル、ずっと怒って……っ。ふぇ、ふえあぁああん……」


「…………は?」


 感情を操作し、涙を零す。


 きちんと扉の向こうにいるクラスメイトにも分かるように、声を上げ、顔を上げ、涙に濡れる顔をチラ見せながらさめざめと泣く。


「は、おい、ちょっと待て……」


 は? 誰が待つか。


 ようやく現状を認識したカイルを無視し、私はとりあえず、泣けるだけ泣いてみた。


 ……追い詰められて、嘘泣き。


 それが私らしい、カイルの撃退方法だよねと、言い聞かせながら。


やってはいけない。今だけはダメだ。

そう思えば思うほど、やりたい欲求は高まっていくのだそうで。

哀れ生贄に選ばれたカイルくんは、今日も今日とて貧乏くじです。強く生きてね。

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