大岩を捕まえよう
「おおう、でっかい」
山賊砦をあとにして向かった先は魔物によって道が塞がれたという渓谷だ。
岩が道を塞いでいるとは聞いていたけど、山でありがちな土砂崩れとかではなく本当にひとつの大岩が道を塞いでた。
うちの倉庫くらいあるんじゃないかこれ。どこから来たんだこんな岩。
でもこれなら大岩さえどかせば通れそうっていうか、丸いし、ものすっごく転がしたくなる形してるよね。ていうか転がせるんじゃないかな。
転がすといえぱフェルの出番じゃないかな。
「フェル、ゴー!」
「……キュウ」
あれ、なんか嫌そう。
あれか、生き物じゃないと嫌とかそーゆーこだわりがあるのか。
でもあの大岩が転がる様が見てみたいから頑張って欲しい。
「キュウ〜」
渋々と動いたフェルが立ち上がって両手を広げた。
なにそれ、威嚇行動かな? うーん、かわいい!
だけど、それだけでゴゴゴン!! という轟音と共に地鳴りがしたと思ったら、大岩が崖下の川に向かって転がっていく。
ちっちゃい姿のままででっかいフェル3匹分くらいの直径があった見上げる程の大岩を本当に転がせちゃうんだから、フェルはすごいね。すごすぎるくらいすごいね。いやマジですごいよ。
「ソフィア! 岩! 岩が転がってるぞ!?」
大質量の物体が転がる様は圧巻だ。
坂がいいのか玉がいいのか、よく転がること。お父様も大興奮だ。
「何をのんびりしていますか! 早く止めなさい! 川下には街だってあるんですよ!」
なんで二人が焦ってるのかようやく理解した。そりゃ焦るわ。ってか気付こうよ私。
「行ってきます!」
慌てて飛翔魔法で転がる岩のあとを追った。
高きから低きへ。
当たり前のことだ。
坂を転がって加速をつけたら、今度は川に沿って街に向かう。
あの質量が街に突っ込んだら外壁だって意味を為さないだろう。
幸いまだ加速はついてないし、崖下の森にすら到着していない。
ここで止める!
「アイテムボックス・最大展開!」
岩は物だ。入るはずだ。だけど、いくらなんでもでかすぎた。
なんでもかんでもアイテムボックスに突っ込んでるけど流石に建物サイズのものは入れたことは無い。
利便性の向上には腐心してきたつもりだけど、こんなでかいものを入れることになるなんて想定外だ!
――いけるか!?
狙いは過たず、大岩の進路上に黒い渦が現れ、それはすぐに大岩よりも大きく広がった。
坂を転げ落ちることで破壊の力を増した大岩が黒い渦に触れるとそのまま溶けるように姿を消し、辺りには静寂だけが残る。
……なんか楽勝だった!
フェルのすごさに驚いたりもしたけど、そのフェルを捕まえたの、アイテムボックスなんだよね。
アイテムボックスすごい。
でもいい加減、アイテムボックスの用途じゃないと思う。
これはもう《異次元の檻》とか呼ぶべきなんじゃなかろうか。
……痛いかな?
玉があったら転がすし、スイッチがあれば押しちゃう。
目の前に現れた面白そうなものを無視するなどとんでもない!