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深夜テンションの成果


 私はつくづく思うのだ。


 ……深夜のテンションって怖いな、と。



 昨夜。お母様に邪魔されたせいで時間を大きく削られた私は、それでもお母様を見返したい一心で魔法の開発を急ピッチで進めていた。


 昔よりは大分マシになったとはいえ、私の身体はまだまだ子供。


 夜が深まるにつれて段々と重さを増していく目蓋をなんとか押し留めながらあれこれと問題を解消して、一段落したところまでは覚えている。そのまま泥のように眠りにつき……。


 爽やかな目覚めから一転。

 昨夜の記憶を思い起こした私は、自分の創り出してしまったモノを思い出して戦慄した。


 ……なんで私ってば、声を遠くに届ける魔法を改良した果てに、擬似生命体なんて作っちゃってるの……?


 憶えてる。記憶はしている。

 眠さでボケボケになった脳ミソで「そうだ! 声が保存できないなら声を出すものを中に入れておけばいいんだ!!」なんて、まるで天啓でも得たかのように自信満々で吼えていたのを憶えている。


 天啓を得るどころか理性すら失っているぞと、昨日の私に教えてやりたい。


 が、そのとち狂ったとしか思えない発想は何故か成功。


 魔力で生み出した謎生命体は、私の意図した通りに目標地点で発生すると「眠気覚ましにはバナナ!」と深夜テンションで吹き込んだ意味不明な発言を私の可愛らしい声で再生。そのまま霞のように消えてしまった。


 その様子を確認し、「流石は私」と自画自賛した後、私は速やかに眠りについた。そして目覚めた。今ここね。


「……はああぁぁ〜」


 重く、深い溜め息を吐き。

 私は自身が取った昨夜の行動の中で、最も気になった点を反省することにした。


 …………バナナは眠気覚ましにはならんのと違うか?


 寝る前に甘い物を食べたらまた歯を磨き直さなくてはならない。

 そういった意味でいえば、なるほど。深夜に何かを食べるという行為が眠気覚ましに繋がると言えなくもないだろう。でもそこで何故にバナナを選んだ、私よ。


 バナナも好きではあるけれど、イチゴの方がもっと好きだし、リンゴだって好物だ。バナナなんて安く手に入るからよく買っていただけで、事実バナナの価値がバカみたいに高い今世では味見程度にしか口にしたことは無い。今の好物でいえば種類が豊富でどれもが美味しい各種ベリー系が上位にあがるし、それ以外にも柑橘系や原産品の高級果実など、他にも美味しいと感じられるものはいくらでもある。


 ……いや、だからなのか? 最近口にしてないから、本能が求めていたってことなのか?


 バナナと言えば生クリーム。生クリームと言えばバナナ。


 酸味と甘味の奏でるハーモニーではなく、甘味と甘味の蕩け合う二重奏が恋しいと、そういうことなのか? 私は知らないうちにバナナさんの虜になっていたと、そういう事なのだろうか?


 擬似生命体などという非常識から目を逸らした結果、私は朝目覚めると同時にお腹を空かす食いしん坊お嬢様へとジョブチェンジを果たしてしまったようだ。なんてこったい。


 ふわふわスポンジにバナナと生クリームをぎっちりとサンドしたコンビニスイーツが、今は無性に恋しい。


 でも大抵の物は常備している私のアイテムボックスといえど、流石に入れてない物は入ってないので。バナナは入れた記憶が無いから、残念だけど私の望みが叶うことは……。


 あ、でもドライフルーツならあった気がする。

 お菓子作りに使った残りを、確かアイテムボックスに保存してたような……お、あったあった。


 舌が求めていたものとはだいぶ違うけれど、口寂しいのを紛らわすには悪くない。


 机の上に包みを広げ、バナナの乾燥したものをより分けていると――。


「……キミたち、今日は早起きだね?」


「キュウッ!」


「キュイッ!」


 いつの間に起きていたのか。

 寝床から抜け出したフェルとエッテがドライフルーツを食い入るように見つめつつ、どれを食べようかと吟味していた。


 なんて食い意地の張った子たちだ。まだあげるとは一言も言ってないんだけど……まあ、あげるけどさ。


「ひとつだけにしときなね」


「キュッ!?」


 そんな!? とでも言いたげな雰囲気でフェルが振り返っている間に、エッテがドライフルーツの山から一番大きくて肉厚な干しレーズンを確保していた。その抜け駆けに気付いたフェルがまた「キュ!?」と一鳴き。まるでコントでも見ているようだ。


 絶望してるとこ悪いんだけど、早く選んでくれないかなぁ。どれでも味は大差ないって、きっと。


 乾燥したバナナをひょいっと口に放り込めば、独特の強い甘味が舌の上に広がる。……ああ、ダメだこれ。次は紅茶が欲しくなるやつ……!


「キュ〜……、……キュ!!」


 君に決めた! とばかりに自らが選んだ欠片を捧げ持つフェル。


 愛らしくも食い意地の張ったボディランゲージを横目に、選ばれなかったドライフルーツをそそくさと回収。これ放置してたらいくらでも食べられちゃうからね。


「じゃ、それ食べたら日課行こっか」


「「キュ!」」 


 ん。いいお返事だこと。


 窓から射し込む陽光の中。ペットがお菓子を齧る音を聞きながら着替えを進める。


 魔法は出来たし、美味しいお菓子で気分も上々。


 今日も良い日になりそうだと、自然と笑みの浮かぶ私だった。


いくら現実逃避をしようと、現状は変わらない。

……なら現実逃避をしなければ損ではないか?(錯乱)

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