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魔法開発に犠牲は付き物


「マジカルプリンセス☆アイリスちゃんの大冒険はここから始まる!! ――ん?」


 お母様の編み出した新しい魔法を再現する為に色々と試行錯誤をしていた、その最中にふと気付いた。


 ――これ、声閉じ込められてなくない?


 高らかに名乗りを上げておいて今更だけども、これ思いっきり声が逃げ出しちゃってませんかね??


 お母様が使っていた時は確か、口は動いていても声は一切出ていなかった。まるで《無言》で遮られているかのように静かで、声が私の元に届かないようにする仕掛けが何かしらあったはずだ。


 しかし現状はどうだい。

 私がノリノリでポーズまで決めて放った言葉は、そのまま私の耳にも届いている。閉じ込めるどころか、展開した半球状の《遮音結界》に反射してむしろより存在感を増して解き放っていると言う方が正しい状況に陥っている。


 思い返せば、前回選んだ「アイリスぅ、恥ずかしがり屋さんだからつい意地悪しちゃうのぉ〜」という台詞の時も、前々回に選んだ「可愛い物をこよなく愛する無言の魔女とは私の事だッ!!」という台詞の時も、私の耳は私の声を一切の過不足なく捉えていたように思う。それはつまり、自分で出した声を全く、全然、これっぽっちも捕らえられていなかったことを意味するのではなかろーか。


 ……おかしいなぁ、不思議だなぁ。

 最初のうちは少なくとも、ちゃんと《遮音結界》の中に声を入れられていたはずなのになぁ。いつの間にこんな致命的になるまでタイミングがズレちゃったんだろ。不思議だなぁ。


 休憩がてら、すっかり冷めてしまったお茶で喉を潤しながら考える。失敗の要因は、いったいどこにあったのだろうか、と。


 ……まあ、改めて考えるまでもないか。お母様の悪口を閉じ込める言葉に選んだあたりからですよね。


 結果的には時間を大分無駄にしたけど、ぶっちゃけとても楽しかった。あれらの言葉をお父様やお姉様に届けたらどんな反応をされるのかと想像しながら叫ぶのは、とてもとても楽しかった。


 でも楽しいだけでは新たな魔法は完成しない。


 モチベーションの維持も当然大事ではあるのだけれど、ロスした時間を取り戻してなんとか寝るまでには模倣と呼べる程度の魔法は使えるようになっていないと、明日の朝、朝食の席でまたお母様に煽られる羽目になることは間違いない。それだけはなんとしても避けなければ、私はストレスで学院の授業に集中できなくなってしまうだろう。


 明日はあの真面目が服着て歩いてるようなリチャード先生の授業があるからね。そりゃもう大変なことになりますよ?


 朝からお母様に挑発され、万が一にも授業に集中出来なくなったりなんかしたら。私はきっと授業中に改良した遠声魔法を使って先生にイタズラを仕掛けたくなってしまうことだろうさ……ふふ。


 いやね、リチャード先生ってそーゆー耐性がなさそうでね?


 授業中に、突然! 耳元から声がする!? なんて事態になったら、絶っっ対に良い反応してくれると思うんだよね〜! うふふ!


 まあもっとも、本当にそんなことをしたら怪現象の原因を大真面目に探り出す可能性も高そうなんだけどさ。


 いつバレるのかとヒヤヒヤしながら日々を過ごす趣味なんて私にはないので、そんなリスクを背負うような行為は真っ平御免なのである。


 つまりは私の平穏な学院生活の為にもさっさと魔法を完成させなくてはならないということだね! 初めから分かりきってたことだったね! うん知ってた!!


 さ、気分転換も終わったことだしそろそろ再開しよ。


 ふう、と息を吐いてスイッチを切り替える。

 たったこれだけの動作で欲望に満ちた思考は数を減らし、目的を達成するために必要なら合理性が引っ張り出せるんだから楽なもんだ。


 ……まあその合理性だって、常に最善の結果を選び取れてるわけじゃあないんだけどね。


「……最善、ね」


 最善。

 最も()いと書いて、最善。


 その最善センサーが言うには「わざわざお母様のやり方を真似しなくたって、アイテムボックスに顔を突っ込んで声を出しても同じ結果にはなるよね」と身も蓋もない結論を既に導き出している。私もその通りだとは思うが、それでは《アイテムボックス》の魔法であって《遠声》の魔法にはならない。


 ……いっそオリジナルの《遠声》を真似るのはやめた方がいいのかもしれないなぁ。


 正直ちょっと思ってたんだ。

 あの唇に指を当てて、「きゃぴるん☆」ってやるのは無駄な工程では無いのかと。


 遅延という発想も悪くないけど、遠くに声を届けるだけなら普通は発声と同時に届いているのが理想だろう。つまり、私が再現出来なくて困っていた部分は、冗長な箇所ではないかと思うのだ。


 出来ない部分は大胆に削っちゃって、他の方法でなんとか――



 コンコン。



 ピクリ、と身体が止まる。ついでに心臓も止まりかけた。


 このドアの叩き方はお母様だ。でも一体何故? 夜に私に用事とは珍しいね?


「ソフィア、まだ起きているのでしょう? 先程から、この部屋の中から変な言葉が聞こえると報告があったのです。少しお話をしませんか?」


 変、な、言葉……。…………。


 理解すると同時に、顔面から血の気が引いた。


 やっば。部屋の前にでもリンゼちゃん立たせとくんだった……!!


「何も喋ってなかったので使用人の聞き間違いだと思います」


「いいから開けなさい」


 おこだ。お母様が怒ってらっしゃる。



 その後私は、笑顔で威圧してくるお母様にたっぷりとお叱りを受け、ついでに《遠声》の魔法がまだ模倣できていないことを白状させられた。お母様はとても満足そうなお顔でした。


 ……あ、明日には。明日には完成するから!!!


「自分からあざといポーズだって取ってたんだから、別に台詞くらいで叱らなくても……」

「ソフィア?なにか言いたいことでも?」

「なんでもありませんっ!!」

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