お兄様の癒し担当、ソフィアです!
お兄様って、ちょっと理性が強すぎるんじゃないかと思うんだよね。
日が落ちてから帰って来たお兄様を労うため、たっぷりと甘えた後に疲れを癒すマッサージをしてあげてたのだけど、お兄様の我慢強さは並じゃなかった。
普通のマッサージもメチャクチャやりごたえあったし、魔力の流れを改善する独自のマッサージだって効果はバッチリあった。普段からどれだけ疲れることしてんのってくらい手応えありまくりだった。
もうね、マッサージ前とは比べ物にならない程に身体が軽くなっているだろうことは確定的に明らか。
それ程までにじっくりねっとり施術を施してあげたってのに、お兄様ってば私が身体を弄ってる間にも声のひとつもあげないんだよ信じられない! カイルなんか秒で情けない声あげてたのに、お兄様は最後まで耐えきってて!!
力抜いてってお願いすれば一時は抜いてくれるんだけど、それでも固いガードは崩れなくてね。すぐにまた力を入れて我慢しちゃうの、抵抗するの!!
……まあその抵抗する様子も中々味わい深い感じだったんですけどね?
私が硬いところを解す度に「ふぅ……っ」って鼻にかかった色っぽい声とか出してくれるし。良さげなトコ押すと「んっ……」なんて声が出るのももうなんと言いますか色々妄想が捗っちゃう感じでして。
初めに期待していたお兄様のああんな声は聞けなかったけど、結果的には大変満足に事を終えられたのではないかと。ええ、もちろんマッサージの話ですが。
……可愛い妹にみっともないところは見せられないと頑張るお兄様の姿も、もちろん脳内フォルダにはずらりと保存済みなんですけどね?
やー、お兄様尊い。尊いわー。
立派なお兄様であろうとしてくれてるお兄様はいつまで見てても飽きないくらい尊いんだけどー。だーけーどぉー。
まあそれはそれとして。
「お兄様、随分とお疲れのご様子ですね?」
お兄様の身体を隅々まで確かめて確信した。
――これ十五歳の青年が溜め込む疲労じゃないでしょ。
「そうかな。……ああ、でもソフィアに背中を押してもらうのは本当に気持ちが良かった。これだけ身体が軽くなるということは、知らないうちに疲れが溜まっていたのかもしれないね」
ぐいぐい身体を動かして、調子を確かめつつもあくまで「疲れなんて感じていない」と言い張るお兄様だけど、それは正直無理があるんじゃないかと思う。これだけ疲れてて自覚がないわけないよねぇ。
強がるお兄様も可愛いけれど、無理はして欲しくないとも思う。
私のこの気持ちはどのように言えば伝わるのだろうか。
「……お兄様、夜はきちんと休めていますか? お仕事の方も大事なのかもしれませんが、身体を壊さない為にも、夜はしっかりと睡眠の時間を――」
言いながら、ハッ! と気付いた。
――お兄様ってば、もしや夜に忙しいからお疲れなのでは……!?
「夜はしっかり眠っているよ。ちなみに、アネットとの寝室は別だからね。今まで一緒に寝たことも無いからね?」
「あ、そうなんですね」
なんだ違うのか。良かった。危うく「そのベッドの上でお兄様が……!!」とか妄想するところだった。直前で踏みとどまって本当に良かった。本人目の前にしてとかどんな変態だよって話だ。
「それじゃあ単純にお仕事がとても大変ということになると思うのですけど……。……そんなに大変なんですか?」
ブラック? 隠れブラック企業なの? お兄様を定時に帰してホワイトを騙るブラックなの??
なんとかこじつけてみようと可能性を挙げてみたが……まあ、ないよね。
子供を働かせるのは悪!! みたいな日本的感性とズレる部分はあるものの、ここの人達は基本的に善良だ。人を使い潰すような働かせ方は絶対にしないと断言出来る。
それにお兄様って、案外悪知恵が……んっんー。
とっても頭が良いからもしもブラック企業になんか勤めていたらその会社を乗っ取るくらいはするだろうね!! なんたって私の自慢のお兄様だからね!!! 素敵!!
「ああ、確かに楽な仕事ではないかな。でもだからこそやりがいがあるよ」
そう語るお兄様は、言葉の通り、とても満ち足りた表情をしていて。
私なんかが心配する必要のないくらい、今のお仕事を誇りに思っているんだと――そう、痛いくらいに伝わってきた。
「――お兄様がそう言うのでしたら、きっと素敵な仕事なんでしょうね」
だがその素敵な仕事の本日の業務内容は、どこぞの商会に行って偉そうな立場の人を相手に「このお薬あげるから協力してね?(強制)」と育毛剤をチラつかせることである。
髪を求める人に救いを与えるという意味では、一部の人たちにとって正に神が如く素敵に見える仕事なのかもしれないが、私としてはあんな訪問セールスみたいなことをしてるお兄様は見たくなかった。あんな誰でも出来る下っ端みたいな仕事を、お兄様が……。確かに新成人は下っ端だけども……ッ!!
……でもまあ、お兄様が訪問販売員だったら商品がなんだろうと間違いなく買っちゃうとは思う。そういった意味では、最善の人選であるとはいえよう。
「お仕事で疲れたら私がいつでも癒して差し上げますから。すぐに言ってくださいね」
「ありがとう」
短いやり取り。でも、そんな簡素な言葉もお兄様らしい。
夕食までの短い時間。
私達兄妹は、二人でまったりとした時間を過ごした。
ソフィアのマッサージをなんとか耐えきったお兄様。
とても余裕そうに見えたが、実は結構ギリギリだったらしい。




