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お兄様のレア顔を見逃したらしい


 家に帰ったら、アネットから報告を受けた。


「ロランド様が約束を取り付けたというメイプルシロップ。明後日には届くそうですよ」


「早くない?」


 近々お菓子のストックを増やさなければと思っていたから、助かるには助かるんだけど……早くない? あの街からどう運べば明後日までに……早くない?


 いや距離的には可能なのか?

 私達が行ったその日の内から運んでいれば、一週間足らずで王都にまで届くってことも……いや、それでもやっぱり、ちょっと厳しくないかな……?


「なんでも可能な限り早く届ける為に、各街で余らせていた在庫を集めながら向かっているとか」


「あ、そうなの」


 それなら身軽な分、移動速度も早くなるか。早いことは早いけど、不可能な範囲ではないのかもしれない。


 ……でもなんでそんなに急いでるんだろう? お兄様もメイプルシロップが欲しかったのかな?


 私の表情から疑問に思ったことでも読み取ったのか、アネットは苦笑をして「ソフィアさんのせいですよ」と、まるで仕方の無い妹でも見るような表情で呟いた。


 え、私のせいなの? ……すぐ欲しいとか言ったっけ?


「ソフィアさん、ロランド様からも贈り物を頂いたのに、アリシアさんから貰ったブラッドメイプルに大層ご執心だったそうじゃないですか。ソフィアさんは普段からロランド様を最優先にしているので、ロランド様が珍しく弱ってましたよ。まあそれもほんの少しの間だけで、すぐに『まさか姉上に負けるなんてね……』と不敵に笑っていましたけど。昨夜から何やら頑張っていたのもきっとこの為だったんでしょうね。ソフィアさん、相変わらず愛されてますね」


「お、おおう……愛されて……」


 やめて? そーゆーこと改めて言うのやめて? ソフィアちゃん照れちゃうぅ〜ん!!


 お兄様が私の為に頑張ってくれたことも嬉しいしお兄様が私のせいで心を痛めていたことも申し訳なく思いつつも嬉しいんだけど、それよりも何よりもお兄様ファンクラブ名誉会長の私としては、今の会話の中で聞き逃せない部分がありました!


 私を煽てて追求を逃れようったってそうはいかんヨ?


「ところでアネット。今アネットの口から『お兄様が弱ってた』とか『不敵に笑っていた』って言葉が出たけど、そう言うってことは、つまり……」


「ああ。……はい♪」


 誤魔化しも、否定もせず。


 まるで私が気付くことをあらかじめ想定していたような、自然な笑顔で微笑むと、アネットはそのまま何かを思い出すように斜め上へと視線をやり――


「もちろん、私はその全てを見ていました。最近のロランド様は表情を隠すことがとてもお上手になっていますが、あの時のロランド様は素に近い状態で。どこか子供っぽさを窺える表情や、困ったような、弱ったようなお顔などがもう、とても愛らしく感じられて――」


「いいいなあぁぁぁああ!!!」


 う、羨ましいぃぃぃいい!!

 お兄様の素の表情、羨ましいよぉぉおおお!!!


 羨ましさのあまりアネットの言葉を遮ってしまった。


 その時のことをどれだけ詳細に思い出しているのか。アネットはそれはもう、嬉しそうに、楽しそうに、ニマニマとしながら火照った頬を押さえている。その顔のなんと幸福そうなことか。


 アネットの頭の中身で展開されてる光景、ちょぴっとでいいから覗かせて欲しい……!


「あー……あー、いいなー。羨ましいなー。そんなお兄様の表情を私は見逃して……あ、止めてごめん。続きどうぞ?」


「はい」


 魂の本音ダダ漏れ状態から現実に回帰すると、アネットが己の優位を誇るでもなく待っていた。恐らく私がアネットの話を聞くことで擬似的にでもその時の喜びを追体験できるようにとの気遣いだろう。この子のこーゆーとこホント好き。


「ソフィアさんもご存知の通り、ロランド様はあまり人に弱みを見せません。ですが私は商会長という立場もあって、以前から様々な道具や薬などを用立てていて――」


「え、お兄様が薬? それっていつの話? なにか病気とかがある訳じゃないよね?」


 何度も止めてごめん、と謝りつつ、ここだけは引けないと意志を示す。


 お兄様なら私に秘密にしている持病があったりしても不思議ではない。


 本人がいないところで探るような真似をするのは心苦しいが、気にしたままじゃ夜も眠れなくなっちゃう。


「すみません、誤解させてしまいましたね。私がロランド様に渡している薬は、主に栄養剤などですよ」


「お兄様ってあの歳でもう栄養剤常用してるの!?」


 なんか思ってたのとは違う感じの返事がきた!!?


 栄養剤? 栄養剤ってあれでしょ? 前世でお母さんが「徹夜明けにはこれがないとツラいのよねぇ……」って言いながら飲んでたブラック企業御用達のアレでしょ? お兄様まだ二十歳にもなってないのにもう薬漬けの日々送ってるの? 嘘でしょう??


 私の剣幕に驚いていたアネットは、すぐに慌てた様子で。


「常用という程では……」


 と弁明してたけど、私には分かる。これは何かを誤魔化そうとしている時の顔だ。


 まさかお兄様が、そんな激務環境にあっただなんて……。


 お兄様が忙しいのは誰のせいだ? 王様か? 王様がお兄様に無茶振りをしているのか?


 これはちょっくら調べてみないとならないだろうね!!


ソフィアからの好感度が低い人物は、ソフィアの近辺に何かが起こるとすかさず第一容疑者として疑われます。

でも大抵は冤罪なので、ソフィアが飽きるまで放置するのが良いでしょう。

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