謎が深まる創造主
「……ソフィアはもう少しご飯をしっかり食べた方がいいんじゃない?」
「リンゼちゃんもね?」
リンゼちゃんに抱きつきの刑を執行したはずが、なぜ憐れまれる立場になっているのか。激しく納得がいかない。
それもこれも、私の真似をしてリンゼちゃんに抱きついたヨルのせいだ……!
私は子供で、なおかつヨルみたいに余分なお肉が付いてないから、抱かれ心地はイマイチだったかもしれない。肉感的に、ちょっぴり物足りなく感じられたのかもしれない。
でもね、それはむしろ健康の証なんだ。私が日々自分を律して鍛錬をし続けてきた結果なんだよ。
魔力で構成しただけの偽肉で構成された女神なんかと比べてはいけない。
傍目にも弾力とか包容力とか、そりゃあ一目で分かるほどの違いはあったけども、そもそもあれはリンゼちゃんを気持ち良くするために抱きしめていた訳じゃなくて、無神経にも人の心を凌辱したリンゼちゃんへのお仕置だったんだからね。気持ち良かったら罰にならないじゃないか。
むしろそう考えれば、ちょっと痛いくらいでちょうどいい……って、別に私に抱かれたからって痛くはならないでしょ。誰の胸が洗濯板だって? ああん?
接触面には常に魔法の防壁が存在してるから、もしも本当に痛みが発生していたとしても、それは私のあばらによる痛みじゃないんだわ。固くなった魔力の塊なんだわ。だから私の胸は、別に洗濯板ではないんだわぁ!!
……いや、いや。落ち着け私。誰もそんなことは言っちゃあいない。
リンゼちゃんはただ、私に抱かれた後にヨルの胸に抱かれた事で「……あれ? こっちの方が柔らかい?」という当たり前の感想を生じさせただけだ。その感想を、オブラートに包んで私に伝えてくれただけなのだ。
……私の薄い胸を見ながらという、余分な行為はあったけども。
いやでも、ほらさ。私もほら、成長が止まっていた原因も無事に判明した事だし? きっとこれからスクスクと育ちますって。いちいち目くじら立てるなんて余裕がないのを証明してるよーなもんだよね。
だからその話は置いておいて。創造主様の話をしようじゃないか。
ヨルの話からは緊急性は感じられないけど、一度ヨルを消滅させたことは確かみたいだし?
その神様はどんなことを嫌がるのかとか、どんなことに関心があるのかとか、そーゆー情報を知りたい。
そしてヨルやシンがいらぬちょっかいを吹っ掛けて神様大戦争が勃発しないように陰ながら祈りつつ、慎ましく穏やかに暮らしたい。
だから体型の話なんぞスポーンと忘れて、話を本筋に戻しましょう!
「それで、……ヨル! その創造主とはどんな話をしてきたの!?」
見つめ合う形になっていたリンゼちゃんから視線を外して見れば、ヨルがリンゼちゃんを抱き締めた自分の手を眺めながら「……人の営みも悪くないわね」なんて恐ろしいことを言っていたので、慌てて無理やり話を振った。
リンゼちゃんだけならまだしも、ヨルまでもがホームステイになんて来たら私の生活が壊れる。なんとかヨルの意識を別のものに逸らさねば!
「え? ……話と言っても、本当に簡単なものだけよ? 私が彼女から生まれた存在だと言う話を聞いたり、世界の境界を壊しても彼女の居る場所に繋がるだけだと言う話を聞いたり……」
……簡単って、なんだろうね。
哲学的な問題からは敢えて目を逸らし、今は会話を続けることだけに尽力しようと心に決めた。
「え? 居る場所、って、直接会って話してたわけじゃないの?」
「そうよ。彼女が閉じ込められている世界は、この世界よりも遥かに狭隘で堅固な世界らしくて。何より魔力の濃度がとても濃い場所らしいから。世界の境界は、私に扱える全ての魔力を一点に集束したところで傷ひとつすら付けられない強度になっているみたいよ」
「いやでもさっき、穴がどうとかって……え、嘘でしょ? ヨルの攻撃でも、傷ひとつ?」
「試してみたけど無理だったわね」
「試したの!?」
どうしよう。ヨルの意識を外そう作戦だったはずなのに、気付けば私の方が意識を誘導されてる。
誘導っていうか、翻弄されてるって言った方が現実には近そうだけど。
ヨルが「生みの親」だなんて言うから、私の脳内にいる創造主の姿は現在のヨルをそのまま更に成長させたような外見で、なおかつザ・適当を地で行く怠惰な美人という神様像だったんだけど、神様としての格はやはり圧倒的らしい。宇宙に存在する全ての魔素を独り占めできるヨルの魔力量ですら脅威にならないとは、もはや凄すぎて想像すらできん。
んで? そのちょーすごいその神様が、ここよりも狭い世界に閉じ込められてるって……?
誰に? なんで? どーしてそんなことに?
っていうか、ここと地球との間にまた別の世界があるの? もしかして地球に辿り着くためにはいくつもの世界を通り道にしなくちゃいけなかったりする?
あああ、もうわけがわからーんッ!!
「……とりあえず、リンゼちゃん。私にもお茶をくれない?」
もう考えるの疲れた。こんな時は休憩するに限る。
既に我関せずと元の姿勢に戻ったリンゼちゃんは、私の言葉を聞いて――。
「ああ、忘れていたわ。ごめんなさい」
え、忘れ……?
いや、いいです。なんでもないです。
そうよね、ヨルの方がご主人様っぽいもんね。部屋の主って感じがするもんね。
でもね、知ってた? その人、不法侵入しただけの余所者なんだよ?
メイドさんならメイドさんらしく、私の給仕を最優先にしてくださいお願いします!!
人伝だと情報の精度が下がるけど、自分で会いに行きたくはないジレンマ。
そこでソフィアちゃんは考えました。
「そうだ。もう面倒だから、全て忘れてしまえばいいんだ――」




