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ブラッドメイプル攻防戦


 とりあえず。


 とりあえず……家に帰った。


 元々その為に合流したわけだし、ブラッドメイプルを使ったお菓子を皆に提供することを約束して、魔法で手っ取り早く王都に戻った。


 移動用のアイテムボックスを通じて神殿に帰り着いた時には「常識外れにも限度があるだろ」だの「飛んで帰るんじゃなかったの!?」だの「ソフィアはやっぱりすごいね……!」だの、友人達が何だか騒がしかったけど。私としては、もう、ちょっと、余裕が無くて。


 申し訳ないのだけど、適当な理由を付けて家に帰らせてもらったのだ。


 その家に帰るのだって本当は、魔法で直接帰りたいくらいだったのだけど。お兄様がそれは困るって言うから馬車で帰った。


 その間も、考えることはずっと、ブラッドメイプルの活用方法で……。


 ……七人。

 50mlもなさそうなブラッドメイプルで、七人分のお菓子を……。


 どうすればいいのか。どうするのがいいのか。


 頭から煙を出しそうな程に考え続け、「キュッ」「キュイッ」と抗議するような声を上げる二匹への分配も考慮に入れながら、帰り着いた愛しの自宅。


 旅の疲れも後回しに、まずは調理場で味見から――なんて考えは、エントランス(玄関ホール)にお母様が待ち受けていたことで消失した。


 更に一人分追加ですね!!! 分かっております!


「三人とも、お勤めご苦労様です。ソフィアはこちらへ」


「待って下さいこれは私が貰ったもので独り占めするつもりはありませんが所有権は私にあって――」


 ってゆーかお母様情報早すぎでしょ!? どこかに私専用のスパイでもいるんじゃないの!!?


 なんとかブラッドメイプルを守らなくては! と全力で警戒する私に対し、お母様は怪訝そうな表情を向けた。


「……何の話かは知りませんが、その話は後で聞きましょう。ソフィア、移動しますよ。続きは私の執務室で話しましょう」


「えっ……と…………。………………はい」


 ……あれ? これ自爆したかな? 自爆したよね?


 いざとなったらお兄様に貰ったメイプルシロップの権利の方を隠れ蓑にしようと、自分の意識に思い込みをかけて自分すら騙す準備を始めながら。


 私はいつになく強引なお母様に大人しく連行されて行った。



◇◇◇◇◇



 ――部屋の扉を閉める。


 バタン、という音と共に部屋の中に二人きりになると、私の意識も切り替わる。そう、自信すら謀る思い込み工作は、扉を閉じることによって完了したのだ。


 私はこれから、隠し事を暴かれるのだろう。


 だがお兄様から過大なプレゼントを貰ったことは、なんとしてでも隠し通さなければならない! バレて取り上げられたりなんかしたら、お兄様に申し訳が立たない!!


 扉の感触を手に感じながら、心をゆっくりと落ち着けてゆく。


 決して負けられない戦いが、今、始まろうとしていた。


 ――さあ、いざ尋常に! 勝負を! 


 ……と、意気込み振り返ったところ。そこには想像とはあまりにも掛け離れた表情をしたお母様が居たので、思わず気勢が削がれてしまった。


 ……え、なぜ笑顔? ……もしかして、嬉しいの?


 満面の笑みを浮かべそうになるのを「はしたないから」という理由のみで無理に抑え込んでいるような、そんな表情。


 それはつまり、「これからソフィアを言い負かせるのが楽しみで堪らない」という意思表示に違いなくて……。


 ………………私、既に勝てる気が微塵もしないんですけど。


 お兄様、折角くれたのにごめんね……。


「まずは私の話からさせてくださいね」


「はい……」


 もう「はい」以外の言葉が言える気がしない。


 これだけ勝ちを確信してるお母様に余計な足掻きなど通用しないだろう。変に抗って罰が増えるのは、耐え難い苦痛を伴う――。


「ソフィア」


「はいっ!?」


 顔の真横。息がかかるのではという距離から、声がした。


 思考にのめり込んでいた私のすぐ近く、斜め後ろの方向から突然、お母様の声が響いた。


 えっ、ちょっなんで!? だって今……! と、慌てて振り返るも、そこにあったのは私がついさっき、私自らの手で閉ざした扉だけ。というか、私の真後ろに人が立てるだけのスペースなんかなかった。混乱が思考を侵略する。


 ……え? 今、声が、扉で……。


 …………えええ?


「ふふ、こちらですよ」


「ふあっ!? あっ、ぐはぁ!」


 今度は逆の耳。囁くような超至近距離から声がしたので、思わず慌てて飛び退いてしまったら、思いっきり扉に体当たりをかましてしまった。防御力はあっても攻撃力のない私の身体は不動の扉様に無情にも跳ね返され、反動で身体が床に投げ出される羽目に。……ていうか、なんだ「ぐはぁ」て。芸人か。


 うう、魔法のお陰で痛くはないけど、間抜けな声を上げてしまった。


 けれどその甲斐あってか、ようやく何が起こっているのかが理解できた。


「ごめんなさい、ソフィア。大丈夫ですか」


 俯いた視界の中に、近付いてくるお母様の足先が見える。

 つまり先程から聞こえていた声は、()()()()()()()()ということなのだろう。


「ええ、大丈夫ですが……今のは?」


 差し出された手を取り、立ち上がりながら答えると、初めは申し訳なさそうなにしていたお母様の口元がニンマリと嬉しそうにつり上がった。


「ふふ、ええ。私もソフィアと同じように、二つ以上の魔法の創作に成功したのです。その名も《遠声》! 遠くの位置に声を届ける魔法です!」


 うわ、うっわ。お母様が超嬉しそう。お母様ってこんな顔もするんだ。超かわいい。


 ……って、んん? 用件がそれってことは、私、叱られる訳じゃないのかな?


 なんだ、心配して損したな。

 なら初めから、素直に嬉しそうな顔してればいいのに!


だが、ソフィアは知っている。

母は意外と、甘い物が好きだということを……!

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