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お、お土産が……っ!?


 結論から言えば、絶品の名産スイーツ的な存在にはついぞ出会えませんでした。


 ていうか、お菓子屋さん自体がそんなに多くなかったしね。案外食堂とかを探した方が良いものが見つかったのかもしれないということには後になってから気付いた。マヌケだねー。


 お昼に食べたジョセフィーヌさん特製のお菓子の方が美味しかった事なんて一件目の時点で気付けたハズなのにさ。武器屋での時間が思ったよりも濃すぎたせいで、一部の記憶が飛んじゃってた可能性とかあるかも。


 ……いえ、嘘です。ごめんなさい。まだ見ぬ可能性に期待しすぎちゃっただけです……。


 だって美味しいお菓子の材料が近所で採れるんだよ? 普通期待しちゃうじゃん?


 土地が変われば好みも変わるとはいえ、こうまで嗜好が違うだなんて思ってもみなかったよね。


 そういう観点から考えれば、旅行者が多く立ち寄るだろう宿かその近くにある食堂の方が、王都暮らしの私達には合った味付けになっていた可能性は高いのだろう。そんな簡単なことに今更気付いた。


 だが、今頃気付いたところでもう遅い。


 時間は大抵の場合において有限であり、今回もまた然り。


 お兄様達との約束の時間が迫っていた為に、私達は美味しいお菓子探しという目的を断念し、フェル達へのご褒美探しの旅を目標未達成のまま中断せざるを得なかったのだ。


 ……でねー。そんな落ち込んだ気分の時でも、普段ならお兄様に会いに行くってだけでスキップでもしちゃいたくなるくらいに身体が軽くなってるところなんだけど。今だけはちょっと、元気が取り柄のソフィアちゃんでも、憂鬱な感じだったりするのですよー……。


 だって、だってね。

 お兄様達とは別行動だったのに、私、お兄様用のお土産買えてないの……。


 ゲンツさんの武器屋では「誰に持たせるかも分からねぇ武器は売れねぇ」とか言われちゃってさ、説き伏せるのも面倒くさそうな雰囲気だったから「それは残念ですー」なんて軽く流して、潔く諦めたんだけど。


 まさかその後のご当地グルメ探しが失敗するとか思わないじゃん。こんなの想定外もいいとこだよ。こうなる事があらかじめ分かっていたら、絶対あのハゲ頭くらい言い負かしてやってたのに。


 だからね、私としてはホントにね。悔やんでも悔やみきれない気持ちでのお兄様との再会になったわけですよ。


 こんな気持ちでお兄様の前に立つことなんて今までになくない?


 そしてもちろん、私がそんな憂鬱な気持ちでいれば、聡いお兄様には簡単に見抜かれてしまうわけで。


「……なにか、あったのかい?」


 あ、やっばい。お兄様の気迫に当てられたミュラーが買ったばかりの剣を使いたそうな感じになってる。カイルもなんか、見てるこっちが申し訳なくなるくらい緊張してるし。


「いえ、それが――」


 とりあえず誤解を解こう。


 私の身に何かが起こった訳ではなく、お兄様とお姉様へのお土産を買うつもりだったのにその望みが果たせなかったが為に落ち込んでいたのだと説明すれば、お兄様はすぐにいつもの優しい雰囲気へと戻ってくれた。


 やっぱりお兄様はこうでなくちゃね。


「そっか。でも僕は、ソフィアがそういう気持ちでいてくれたというだけでとても嬉しいよ。だから、どうもありがとう。ソフィアは本当に優しい子だね」


「はひ……」


 はわ、はわわわ。動悸がすんごい。至近距離で見つめあった上になでなでまでセットとかなにこれ。私こんな幸運に見舞われるようなことしたのかな。


 辛うじてお兄様の隣で「そうよ、私もその気持ちだけでとっても嬉しいわ!」と騒いでいるお姉様も認識できているけれど、お兄様のキラメキがやばすぎて正直すぐにも意識から外れそう。お兄様の存在感がパない。恒星並みに光り輝いて見える。


 眩し過ぎて目が焼けたんじゃないかと思った。あ、熱を持ってるのは目じゃなくて顔全体か。


「……それでね。実は僕達も、同じことを考えていて……」


 嬉し恥ずかしの境地から一転、意識が飛びかけてた私を現実へと引き戻したのは、お兄様から渡された一枚の分厚い紙だった。なんかの……証書? の様にも見える。


 内容は……ええと。


「魔物退治の功績として、ソフィアの欲しがってたメイプルシロップが毎月家に届くようにしてみたよ」


 その内容は、なんと我がメルクリス家の御用商人であるアネットの所へ、毎月一定量のメイプルシロップを確実に届けるという契約だった。お兄様やべえ。


「え!?」


 驚いて見上げる私に、にっこりと微笑みが向けられる。そして。


「次は私から! はい、手を出して!」


 間を置かず、お姉様からも注文が。どうやらなにか頂けるらしい。


 言われるがままに伸ばした手の上に置かれたのは、香水の様にも見える上品な小瓶に入った赤い液体。


 それは、王家ですら稀にしか手に入らないと言われるメイプルシロップの上位品。ブラッドメイプルの小瓶だった。


「……え? 個人で入手できるものなんですか?」


「入手できたわよ?」


 なんでも、楽しくお喋りしてた相手が偶々(たまたま)所有していたらしく、頼むと快く譲ってくれたらしい。お姉様も相当に非常識だった。


「あ……ありがとうございます」


 感謝はしてる。それはもう、物凄く。けどちょっと感情が追いつかない。


 ……え? 私の兄姉スゴすぎない?


 私、自分でも気付かない内に夢の世界に旅立ってたとか……無いよね?


「ソフィア甘やかされすぎじゃね?」

「そういう段階は既に超えていると思うわ」


カイル達はロランド(とアリシア)の妹愛の深さを再認識した。

ついでに、ソフィアの困らせ方も学んだ。真似出来ないけど。

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