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お菓子屋巡り


 魔物退治に武器屋での物色。


 特に後者で、思いのほか気力と体力を消耗した。


 正直、魔物相手に魔法でビシュッてやってる方がよっぽど楽だった気がする。


 とはいえ道らしき道も無かった森の中を歩くのは、相応にしんどかったのも確かなのだけど。


 フェルやエッテが魔物の誘導を引き受けてくれていなかったらどれだけ面倒くさいことになっていたかと想像しただけで、私はもう、お菓子のことしか考えられなくなってしまうのだ。


 ――フェルとエッテが大活躍。


 ――ご褒美には当然、お菓子が必要。


 実に合理的な結論である。論理の美しさを極めていると言ってもいいね。


 というわけで、私たちは今、頑張ってくれたフェル達のためにお菓子屋さんを探しているのだけれど。これがまた残念なことに、良いお店に巡り会えない事態に陥っているのだ。


 オススメの品を試したお店は既にこれで三件目。

 だというのに、このお店のお菓子もまた、王都の物に比べて明らかに劣っているのだ。


 これじゃあご褒美として差し出したところでエッテに満足してもらえるわけがない。また次のお店を探しに行かなくちゃあならないじゃないか、まったくもう。


 みんなでもぐもぐ試食タイム。四人と一匹の口が仲良く動く。


 店員さんにオススメされたもみじ饅頭(もど)きは、なんか、餡がやけにボソボソしてて……やたらと口に残る感じだった。


 ……うん、やっぱりイマイチだなー。


 不味いわけでもないんだけど、特別美味しいわけでもなく。


 このお菓子を評価するのなら、やっぱりこの言葉が適当だろう。


「普通だね」


「普通だな」


「普通なの?」


「普通、かな?」


「キュー」


 人の良い女子二人組が言葉を濁した意味をぶち壊すような、あまりにも憂いを帯びたフェルの姿から、このお菓子の味を想像していただけるだろうか。


 ほらほら、フェルの食べる速度を見てくださいよ。この子がこんなにゆっくり食べてるとこなんか家じゃそうそう見られませんよ。お菓子を食べる時は常に口を動かし続けてるようなこの子が食べるのに力を尽くさないって相当ですよ。


 って、あ! しかも食べてる途中で手を離しただと!?


 フェルが食べるのを放棄するのって、私初めて見たかもしれない!!


 普段ならお残しなんて叱るところなんだけど、フェルの悲しげな顔が、むしろフェル自身が一番食べられないことを悲しんでいるという事実をありありと伝えてきてて、叱る意思を失ってしまった。


 行き場の失った手を、迷った末に、フェルが落としたお菓子へ伸ばす。


「これ、好みじゃなかった?」


「キュ……」


「じゃあ私が貰うけど、いいのね?」


「キューゥ……」


 その鳴き声やめて。めっちゃ物悲しい気分になるから。


 二個に増えたボソボソ菓子を消化していると、その隙を待ってましたとばかりに横から手を伸ばしてきたミュラーが、落ち込んでいるフェルの頭を撫で始めた。


「単純にお腹いっぱいなんじゃないの? こんなに小さな体でここに来るまでにも二つも食べてるんだから。ね、お腹いっぱいなのよねー?」


 ねー? と愛らしく小首を傾げているミュラーは見ていて大変微笑ましいが、発言の内容は見当違いも甚だしい。


 私が動物虐待をしていないという証明のためにも、ここは毅然とした態度で、きっちりと事実を伝えておくべきだろう。


「フェルがあの程度で満足するはずないでしょ」


「キュ!」


 私の言葉を聞いて、フェルが「そのとーり!」とでも言いたげに、力強く頷いた。


 フェルさえも同意したことにミュラーは若干戸惑ってるみたいだけど、前にミュラーの家で勉強会してた時も、この子めっちゃ食ってたからね。よーく思い出してみるといいよ。


 ペットは飼い主に似るを地で行くフェルは、甘い物には本当に目がないから。なんならご飯が入らなくなるまで食べ続けるからね。


 あ、ちなみにエッテの方は、私の「お兄様ラヴ!」なところが実によく似ていると思います。


 今日もさりげなくお兄様と行動を共にしてて、ぶっちゃけかなり羨ましい。一日立場交換したいとか何度思ったか覚えてないくらいにはお兄様の事が大好きだからね、あの子。ペットに嫉妬を覚える日が来るなんて、前世で私、想像すらしてなかったよ。


 でも、まあ。そんなところも含めて、可愛い子達だ。


 かわいくて優しくて優秀で、ついつい甘やかしてあげたくなっちゃう愛しい子達だ。


 だから良い事をしたらちゃんと褒めてあげたい。ご褒美をあげたい。


 それには美味しいお菓子が適当だと思ったのだけど――。


「これじゃご褒美にはならないよねぇ……」


「キュ!!!」


 ようやくひとつを食べ終えたところで零した独り言に、力強すぎる肯定の鳴き声を頂戴してしまった。


 あはは、分かってるって。ちゃんと別なのを用意するから。


 これは帰ってから自分で作る羽目になりそうかな、なんてことを考えながら、飲み物で口の中をリセットした。


「ソフィアも今日は、食うのが遅いな」


「そう? ……そうかもね」


 ミュラーと戯れるフェルを横目に、カイルの言葉を反芻する。


 ペットと飼い主。


 私達の行動は、傍目にはとてもよく似て見えるのかもしれないね。


 キュー。


「次は私の行きたい所にいこ!」というソフィアの言葉に、軽い気持ちで頷いた結果がこれである。

解放されるまでにはもう暫くの時間が掛かりそうだ……。

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