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みんな剣が好きすぎると思う


 ――長いこと付き合ってくれたゲンツさんにお礼を述べ、私達は武器屋を後にした。


「良い買い物ができたわね」


「うん! 楽しかった……!」


 ミュラーとカレンちゃんが、まるで休日のショッピングを終えた乙女みたいな発言をしているが、その購入した商品は剣である。魔物を叩き切る為の道具である。華やいだ声に騙されてはいけない。


 二人して楽しげに「手に馴染む重さが」どーだの、「鈍い輝きが魅力的で」だの話しているが、剣を手にしてきゃっきゃとはしゃぐ姿は素直に微笑ましいとは言い難い。私のこの感性は、決して異常ではないと思うの。


 ……一人遅れて着いてきてるカイルも、自分の剣を見ながらニヤニヤしているみたいだし。あの武器屋さんはミュラーの推薦だけあって、武器好きの人達にとっては当たりの部類だったみたいだ。


 剣に関心のない私には分からないのだけど、剣にも善し悪しというものがある。


 学院の授業で使う剣を手に、よく「軽いわね」と言っているミュラー曰く、剣には職人の魂が入っているらしい。


 気合いを込めて造られた剣ほど実際の重量以上に重く感じ、けれどやがてその重さが、自分の意のままに操れるようになるのだという。


 魂の籠った重い剣が、意思の命じるまま軽やかな羽根の如く動き回り、衝撃と共にその重さを思い出す。


 相手を翻弄し、相手の剣と対話をする。

 その瞬間が、それはもう最っ高に気持ち良いのだとか。


 ……最初から最後まで、私には理解できない世界だった。


 私に分かることと言えば、精々「それ相手も同じ気持ちで戦ってなかったら対話にはならないでしょ」ってくらいのもので。


 つまり何が言いたいのかといえば、「私はミュラーとそんな対話ができる境地にはいないので諦めて下さい」というお断りの言葉をどのタイミングで言い出すのが最も効果的かと悩んでいた私に、「だからソフィア! また戦いましょうよ!」と逆に迫ってくるようなミュラーとは、永遠に分かり合えることはないんだろうなってことですよ。


 そもそも私ってインドア派だし。


 剣を振って喜ぶような性格してないからね。


 同じ運動ならダンスの練習を万倍マシだと考えるような私に戦いを申し込むのがもうナンセンス極まりない。私のことを全く理解していないと言える。


 剣術はね、一応授業の科目でもあるし練習はしてるけど、必要以上にやり込む気ないから。


 武器屋に入ったくらいで「やっぱり興味が!?」なんて考えるのはとんだ見当違いなのよね。


 だから店内に入ってからずっと、素直になれなかった同類を見守るような目をしてたミュラーが、同士であるカレンちゃんとのお喋りに興じている現状がとても好ましく思える。


 人はやっぱり、在るべき所に収まるようになってるんだよ。


 戦い大好きのミュラーは同じく戦い好きのカレンちゃんと一緒。


 なら私は、軽口が大好きなカイルと一緒にいるのがお似合いだよね。


 少しずつ歩く速度を落とし、カイルの横へと並んだ私は、カイルが購入した直剣を眺めながら声を掛けた。


「ねぇ、それずっと見てるけどさ。そんなに見てて飽きないものなの?」


 持ち手付近が少し格好良いだけの、何の変哲もない鉄剣。


 歩きながらその刀身を眺めてニヤつくカイルは、日本にいたら通報間違いなしの危険人物にしか見えない。


「んー? まあ、これは良いやつだしな……。王都だとやっぱ高くてさ」


 ああ、値段も安くしてくれたのか。それなら私が驚かされた意味もあったかな。


 そんな風に納得したのだが、カイル的にはその程度の理解では物足りなかったようだ。


 私の顔を見て「……その顔は分かってないな? この凄さを、ソフィアにも分かりやすく言うとだな……。んー……」と、頭を悩ませているご様子。


 別に分かんなくてもいいんだけど……なんて考えながら、改めて凄いらしい鉄剣を眺めていると。


「まあ、あれだ。お前にとっての『有名な菓子』みたいなもんだよ」


「なっ!?」


 ん、だとぅ!?


 それは見る! 見るわ! ずっと眺めてられるのも当然だわ!!


 どんな味がするのかとかどんな香りがするのかとか目から鼻からあらゆる方向から全力で堪能し尽くすのがむしろ当然の行いと言えるだろうねっ!


 はー、そっかー。そーいうことだったのかー。


 つまりあの鉄臭くて薄暗いだけのお世辞にも美しいとは言えなかった店内も、剣とかの武器が好きな人達にとっては、ショーケースに並んだケーキを見るようなわくわく気分で眺めてられたってわけね。今完全に理解したわ。


 それじゃあ私達の前方で未だ興奮冷めやらない様子のミュラー達が「これだけの切れ味と強度を両立――」とか「振った時の音がまた綺麗で――」とか喋ってんのは、話してる内容を私好みのお菓子に置き換えると「見た目と味を両立して――」とか「フォークを入れた時の音がまた楽しくて――」と話してる事になるわけだ! ほうほうほうほう成程ねー!


 …………って、なるか?


 人の好みはそれぞれだけど……剣とお菓子が同列は無くないかな?


「カイル、私がどのくらいお菓子が好きか、知ってる?」


 念の為、改めて確認してみると、カイルはぷいっと顔を背けた。


「…………その辺で売ってる美味いお菓子、程度に訂正しとく……」


 うん、そのくらいが妥当じゃないかな。


 ていうか、剣とお菓子を比べるのがそもそもの間違いなんだよ! 比べらんないでしょそんなの!!


「ソフィアの菓子好きの方が異常だろ……」


とは思っていても、決して口にはしないカイルくん。

他人の好みにケチをつける恐ろしさを学習済みの賢い子なのです。

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