大剣の適性はなかったようだ
短剣。長剣。大剣。
この中でどれが一番私に合っている武器かと言えば、それは間違いなく短剣だと答えるだろう。
筋力は魔法でカバーしてるからどんな武器だろうと扱う分には問題ないんだけど、ほら、私ってば体重が羽根のように軽いじゃない? だから重い武器を振り回すと身体がそっちに流れちゃうんだよね〜。
ああっ、ほらまた! 身体が勝手に!
あ〜れ〜。
大剣をブオンと豪快に振り回し、その遠心力を楽しんでいると、ゲンツさんの「これは無理そうだな」と呟く声が聞こえてきた。
そうなんです。死角の多くなる大剣なんて私には向いていないのです。
これはこれで楽しいけど、大剣の最大の利点である「重量による破壊力」が魔法による強化で解決できちゃう以上、大剣をわざわざ選ぶ理由ってロマン以外のなにものでもないんだよね。
私も前世では、ネットという広大な海に飛び込んで、大剣を装備した幼女でモンスターを一狩りしに行ったりしていたものだ。
狩るより狩られた事の方が多かった気もするけどそれはそれ。
今では懐かしい思い出である。
「やっぱり大きいのは扱いづらいみたいです」
「そうか」
とりあえず見様見真似でゲーム内の動きを再現してみようかと思ったりもしたけど、まず大剣を真上に持ち上げる段階で諦めたよね。身体強化なんて魔法のない一般的な女子がこんな鉄の塊持ち上げられますかっての。
一応怪しまれない程度に筋力を強化して振り回してみたけど、なんかね、それでも微妙でした。
自在に動かす為には魔力を余分に使わなくちゃならないのに、その余分に見合った成果は見込めないかな……って感じだった。
「ソフィアがあんなに非力なわけないだろ……」
あーあー、聞こえなぁい。カイルの戯言なんて聞こえなーいー♪
ぐるんぐるんと大剣に振り回されてたのはカイルの言う通りわざとだけど、扱いづらいと思ってるのは本当ですから!
だからそそくさと近寄ってきたカレンちゃんから「良かったら大剣の使い方、教えようか……?」と控え目ながらも熱烈にお誘いされても、断固として断るしか無かった。誤解の余地なく断る他になかった。
ごめんよカレンちゃん、でもこればっかりは、本当に無理なんだ!!
落ち込むカレンちゃんを見て胸は傷むが仕方がない。
だってこれ、了承したらその先で絶対、カレンちゃんと模擬戦する未来が待っているから!!
カレンちゃんが悲しくなると私だって悲しい。できればずっと笑顔でいさせてあげたいとも思う。
でもね、無理なんだ。私の身の安全を守る為には、こうするしかなかったんだよ。
どうか我が身が可愛い私を許しておくれ。
これだけ逃げ回っててもどーせいつかは戦う羽目になりそうだから、その時に免じて、何卒いまは、今だけは……。まだ覚悟が足りていないので……。
てゆーかね、そもそもこのお店にちゃんとした短剣があれば私が大剣を手に取ることもなかったんだ。
短剣って聞いて普通何を思い浮かべる?
なんか盗賊っぽい人達が持ってそーな包丁よりちょっと大きいくらいの短い剣を思い浮かべるのが普通じゃないかな?
脳内では完全にその短剣のイメージで話してたのにさ、実はこのお店に置いてある短剣って長剣の刀身が七割くらいになった「短い直剣」しかなかったの。そのせいで「別の武器も試してみよう」的な話になっちゃったんだよ。
しかもその、無駄に長い短剣ですら見た目に大差ない物が五本あるだけ。
短剣ってちょー不人気の武器ジャンルだった。
そもそもね、どうも私のイメージする短剣って物がないっぽい。
このお店にじゃなくて、この世界に。
私が当初イメージしてた刃渡りが短めの短剣ってね、武器じゃなくて道具なんだって。食肉捌く時用の解体用ナイフ。あのフライパンの横にあったでっかい包丁と同じで「あれは武器じゃねぇぞ」ってことらしい。
ならなんで武器屋に置いてあるんだろうね。武器じゃないならさっさと片付けておきなさいよと、私は声を大にして言いたい。言わないけど。
……まあ、確かに? 短剣の用途を考えれば、訓練以外の対人戦が発生しないこの世界で、短剣の発展は望めなかったのかもしれないけどさ。
ならミュラー達の対戦好きもどうにかしといて欲しいと心底思った。
こう、女神様のアレでさ。悪意吸い取る仕組みと一緒に、戦いの欲も抜き取る感じでさ。しおしお〜って戦意が抜けたらいい感じじゃない?
ヨルは戦争の原因となり得る悪意さえ取り除ければ良かったのかもしれないけど、人って悪意なくても他人に迷惑掛けれるからね。むしろ悪意がない分、逆にえげつなかったりもするんだからね! すごいよマジで!
ヨルにその辺を懇切丁寧に説明したら、もしかしたら何か対処をしてくれたり……いやでも、私との戦いを望まれてる現状には影響ないかな……ないな……。
「あの、ソフィア……」
「ん、カレンちゃん?」
変えようのない現状に内心で一人落ち込んでいると、カレンちゃんに声を掛けられた。
「今は下手でも、練習すればきっと上手く――」
「ごめん。大剣の件で落ち込んでた訳じゃないんだ」
そうだね、紛らわしい態度は良くなかったよね。
意識して楽しい気分を作る為、私は直近で一番嬉しかった時の事を考えた。
――わぁい、私って大剣扱う才能ないんだなぁ! やっぱり戦いなんて向いてなかったんだ! 嬉しいなあ〜!!
武器屋に着いて来た時点で既に同類と認められている事に全く気付かないソフィアちゃんなのでした。




