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フライパンという可能性


「……あれは武器じゃないぞ?」


「分かってます!」


 フライパンは武器じゃない。そんな事は、わざわざ言われなくても分かってますって!


 フライパンは武器じゃなくて、どちらかと言えば盾に近い分類だよね。


 飛び道具を防いだり、面を使って相手の視界を塞いだり。あ、あと突っ込んできた魔物を叩き落とすのにも良さそうかも。ハエたたき的みたいな感じで、ベシッて。


 剣だと受け流す時も逐一受け方を考えなくちゃならないんだけど、フライパンだったら面で受けられるからさ。受けるにしろ逸らすにしろ、選択肢が広がりそうだなー、なんて思ったり……。


 ……あれ? そう考えるとフライパンって案外、武具として有能?


 有効射程(リーチ)は短いけどその分防御には使い易いし。

 一考の余地がなくもない……かな?


 どうしよう。なんだかフライパン、アリな気がしてきた。


 ソフィア流フライパン術がどの程度有効なのか。

 フライパンに可能性を見いだした私はちょっとだけ思考を深め、フライパン片手にミュラーと対峙する自分の姿を想像してみることにした。



 ――顔に向かって真っ直ぐに伸びてくる切っ先。


 フライパンで横に弾くと、次の瞬間にはミュラーの姿を見失っていて。


 体勢を整えようと一歩下がった矢先、右手に持ったフライパンの影から勢いよく飛び出してきたミュラーが、私の首筋に向かって剣を一閃――



 ――ダメ過ぎでしょこれ。


 私の妄想のはずなのにびっくりするくらいスムーズに負けたわ。妄想ですら善戦さえ出来ないとか論外もいいとこすぎる。


 フライパンはダメだ。視界が制限されるのがダメだ。自ら弱点を作る行為にしかならないわこれ。実戦に持ち出そうなんて馬鹿な考えをする前に早々に気付けてホントによかったー。


 フライパンは武器には使えません!!


 相手の視界を塞ぐということは、同時に自らの視線をも遮るということだ。

 ミュラーみたいに一人だけ時間の流れが加速してるような相手に死角を多く提供するというのは、自らの死期を早める事にしかならないと悟りました。


 ついでにカレンちゃんが相手だった場合の想定もしてみたけど、こちらもね。ミュラー以上に相性が最悪でもうどうしようもなかった。


 攻撃の軌道を逸らそうとすれば圧倒的な力で押し通られ、視界を塞いでみても関係無いとばかりに防御の上から力押し。


 フライパンで甘いお菓子でも焼いてた方がよっぽど効果ありそうだったね。なんなら甘い香りが暴力的なアップルパイなんかを貼り付けてた方が戦意を削ぐ効果はあるんじゃないかって気さえするね!


 ……そんな冗談を考えていた事が伝わったわけではないだろうけど、気付けばカイルから呆れたような視線を向けられていた。幼馴染み鑑定によれば、その表情の意味するところは「お前、武器って何するモノか知ってる?」とのこと。明確な宣戦布告である。


 カイルは相変わらず、私のことをよく見てるよね。そして私の考えることを、よぉ〜く理解しているよね。


 ただ……ねぇ?

 その知り得た情報を使って、私をバカにする必要、あるかな? うん? どうかな〜?


 ミュラーやカレンちゃんが相手ならともかく、カイル相手なら我が家で使ってるフライパンでも圧勝できる自信があるのだけれど、ヤツは自分の実力を把握していないのだろうか?


 たった数体の魔物を相手に、あれだけ苦戦してたくせに。色んな武器を見ただけで強くなった気分にでもなっちゃったのかな? それともまだ初めての魔物退治の興奮が冷めやらなくて「魔物にも勝てた俺なら、ソフィアにだって勝てるはずだ!」なんて勘違いでもしちゃったとか?


 どちらにせよ、愚かすぎて言葉もないね。


 名剣だろうとその辺に落ちてる棒切れだろうと、同じだけの魔力を通せれば同じような強度になる。だから、私と同じ土俵に立とうとするのなら、まずは魔力操作に慣れる必要があるんだ。


 私は剣技がヘボくて魔力操作が超得意。ミュラーは両方ともめっちゃ上手。

 カレンちゃんは魔力操作が独特だけど、剣に魔力を流す速度は随一だ。


 ……でもカイルはなー。


 別にどっちも下手なわけじゃないんだけど、普通に毛が生えた程度っていうか、格別に上手いわけでもないというか……。


 私があれだけ魔力を流しやすい身体にしてやったってのに、なーんかイマイチ効果が出てないんだよなー……。


 元から較べれば、イワシが小アジになったくらいの進化はしてるのかもしれないけどさ。身体的には、ハマチくらいのポテンシャルは出せるようになってると思うんだけど……。


 …………まあ、カイルだしね。


 ヘタレて魔力を流さなかったら、どれだけ通り道を整備してても意味なんてないよね。


 バカにされたお返しに、私も視線だけで「武器くらいは良い物を選びなよ……」と伝えると、眉を顰めた後にそっぽを向かれた。


 今更だけど、幼馴染みってすごいよね。セルフ念話状態だよこれ。


 ともあれ、カイルから視線を外し、フライパンからも意識を外した私は、ようやくマトモな武器選びへと舞い戻るのだった。



 ……フライパンだって、別に選んだわけじゃなかったんだけどね!


なお鍋の蓋シールドは見渡せる範囲には無かったようです。

武器屋なんだから当然ですよね。

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