皆で武器を選びましょう
現れるやいなや、慌てた様子で私に飛びついてきたゲンツさん。彼が魔力視を使っていることはすぐに分かった。
目元周辺に集まっている濃い魔力。
その濃度から、彼は普通の人よりも微細な魔力感知が得意なのだろうという予測を立てれば、唐突にも思える発言の真意も分かろうというものだ。
――この世界の生き物は、魔力を全て失うと生命活動を維持できない。
つまり魔力を一切身体の外に漏らしていない私は、ゲンツさんからしてみれば、目の前で今まさに死を迎えようとしている無力な少女にでも見えたのだろう。
実際には無力どころか、他の人たちがお漏らししてる魔力も全部有効活用してるから、むしろ元気なくらいなんだけどね。
でも勘違いとはいえ、女性である私の身に失礼を働いた事は、覆しようのない事実。
その非礼のお詫びとして私達の武器選びには最善を尽くすことを約束してくれたので、遠慮なく厚意に甘えることと相成ったのだった。
実の所、私自身は武器を買う予定は無かったんだけど……。
折角良くしてくれるって言ってるんだもん。人の厚意は素直に受け取っておくのが正解だよね!
――と、いうわけで。
現在は武器選びの前段階。
先程見た、剣が満載された樽から重心が少しずつズラされた剣を適当に取って振りまくり、各々が自分の手に馴染む剣を選んでいる真っ最中なのでありました。
ミュラーもカイルも、カレンちゃんも。自身に合ったものを選び終わり、後は私を残すだけという段階なのだけれど……。
「これなんていいかな〜」なんて感覚も一切なく、まるで流れ作業のように着々と減っていく樽の中身を見て、私はとある予感を覚えずにはいられなかった。それ即ち。
……この中にあるの、全部大人用だったりするんじゃないか?
という、真っ当な感想である。
……いや、いや。諦めるにはまだ早い。
ここ最近でタケノコみたく伸びてきたカイルはともかく、ミュラーとカレンちゃんは精々大人になり始めた少女と呼ぶのが相応しい体格だ。
その二人にも合う物が見つかったのだから、私にもきっと。私サイズにピッタリな剣が、きっとこの残りの剣の中に、あると思う……思って……、…………はい、ありませんでしたね。まあそんな予感はしてたけどさ。
学院で貸し出される剣も重心はやたら遠いし、自宅で使ってる練習用の木剣だって見るからに既製品じゃなかったもんね。うん、知ってた知ってた。実は探し始めた時からこうなるんじゃないかとは思ってたんだ、はははー。
……どーせ私は規格外にちっちゃいですよ! ふーーんだ!!
「やっぱり合うのが無かったか……」
ミュラーから欲しい剣の要望を聞いている最中も私の方を気にしていたゲンツさんが、ボソリと呟くのを、私の耳は聞き逃さなかった。
やっぱりってなんだ。分かってたんなら最初から別の武器をお勧めしてくれればいいでしょうに!
……とはいえお勧めされるまでもなく自ら両手剣やらドデカい斧やらが置いてあるコーナーに足を運んでいるカレンちゃんセレクションと同じようなものをお勧めされても困るので、それなりに私の外見に似合った、それでいてカレンちゃんが選びそうな武器からも身を守れそうな武器だと嬉しいんだけど……。
……いや、そんな無い物ねだりしても仕方ないかな。いっそ盾でも探すべきか……?
カレンちゃんが使用感を確かめたり、武器を元の場所に戻すのに伴って耳に届く、ブォン、やら、ズシン、やらといった明らかに重量物しか立てないような音を意識の外に追いやりながら、私はそれ以上の考えを放棄した。今は、ほら。対魔物用の武器を見繕ってもらっている最中だから……。
ゲンツさんに「私の手に馴染む武器はありませんでした」と報告をすれば、すぐに次の提案に取り掛かってくれた。
「ああ、そうみたいだな。これ以上短いとなると他には短剣くらいしかないんだが、相手は魔物だろ? お嬢ちゃんは手が小さいから、槍を使うのも難しいだろうしなぁ……」
言葉の端々から、ゲンツさんの人の良さが伝わってくる。
この人、本当に優秀な武器屋さんなんだろうなって感じはする。ミュラーへの対応やカイルへのアドバイスを聞く限り、その人に合った武器を提供する事に特化した、ザ・武器屋の店員であることにはもはや何の疑いもない。が、その技能が魔力視を根底にしている以上、私への的確なアドバイスが出来ないのもまた道理である。
魔力の漏出量。揺らぎ。濃さ。
そういった情報から、その人がどれだけの技量を持っていてどんな戦い方を得意とするのか。その判別をするのは私にだってできることだ。っていうか、戦闘中には常時頼りにしている感覚でもある。魔力の動きは、人が相手だと特に顕著だ。
そんな分かりやすい情報が、私からは一切読み取れない。
ゲンツさんが困惑するのも仕方の無いことなのだ。
「一応聞くが、使いたい武器はあるのか?」
「特に無いですね」
そう答えながらも、つい例のドデカフライパンに目がいってしまった事を感づかれた。
待って、違うの。あれが武器とか思ってる残念な子な訳じゃなくてね。
あれならミュラーやカレンちゃんの攻撃も無理なく受け流せるんじゃないかなって、つい考えちゃっただけなんですよぅ……!
脅威にならない魔物より、脅威的な友人たちから身を守れる武器に目がいくソフィアさん。
ついでに「野外でパンケーキが作れるかも……」などと考えているご様子。
だがフライパンは、武器じゃないんだ。




