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死体じゃないです


「俺がゲンツだが……なんか用か?」


 カウンターの奥から出てきた人物。


 自らをゲンツと名乗った、褐色肌で筋肉質なこの男性は当初、室内の明かりを反射してテカテカと光る無防備な頭皮を撫でながら、億劫そうに私達を見下ろしていた。


「なんでこんな所に子供がいるんだ?」とでも言いたそうにしていた表情は、しかしその気怠げな視線がミュラーを捉えると同時に怪訝な表情へと変化し、やがて間を置かず、活力に溢れた楽しそうな顔へと変わっていった。


「……おー、おーおー、こりゃあ本物だ。あんた【剣姫】さんだろ。若いのに良い腕してるな」


「ありがとうございます。数々の名剣を生み出された名匠に褒められるとは、嬉しいものですね」


 お、おおー……。ミュラーがめっちゃ余所行きの雰囲気になってる……。こんなミュラー見たことないよ……。


 そういやミュラーって大分イイトコのお嬢様だったね。

 剣さえあれば他は何もいらない的な印象が強すぎてすっかり忘れてたけど、家格で言えばうちなんか比べ物にならないレベルの天上人だった。私より猫被りが上手いのも当然といえば当然か。


 ……ん? でもさっき、はしたなくも大声上げてたよーな……あれはいいのか?


 そんな私の疑問は、続くゲンツさんの言葉で解消された。


「そーかい、喜んでくれたなら何よりだ。……で、用件はなんだ? まさかそんな硬っ苦しい挨拶をするためだけに来たわけじゃあねぇよな?」


「ええ、そうね。私はセリティス家の【剣姫】としてではなく、一人の剣士としてここへ来たのだから。……私達は良い武器を探しに来たの。何点か見繕ってもらえるかしら?」


 成程、剣士のミュラーさんなら大声も納得だ。


 戦闘前にも戦闘中にも「勝て!」やら「はああぁ!!」やら叫びまくるもんね、ミュラーってば。大声をあげることはきっとミュラーにとって、己の意気込みを形にするのに必要な、大切な儀式になっているのだろう。


 ……でもぶっちゃけ、ミュラーって黙って剣振ってた方が圧倒的に怖いんだよね。ミュラーの剣技って速度特化だから、初動の反応が遅れただけでも取り返しのつかない致命的な隙になるし。


 もしもミュラーが音の出ない移動法とか呼吸のフェイクとか使いだしたら、それだけで私、手も足も出なくなる自信がある。いやそもそも再戦する気とかないんだけどさ。


 剣を変えるのもいいけど、ミュラーは隠密性を高める訓練した方が劇的に強くなるんじゃないかなぁ……。

 練習相手にでもされたら堪んないから言わないけどね。


「ああ、それはもちろん構わねぇが……ん? そっちの子達も剣士志望か? いや、これは、戦士……? ……んんん!?」


 カイルを一瞥しただけでスルーし、カレンちゃんを訝りながら見ていたゲンツさんが、不意に私を視界に入れたかと思ったら、綺麗な二度見の後に目を剥いた。


 なぁにその化け物でも見たみたいな反応。失礼しちゃうね。


「お、お、おま、おお、お嬢ちゃん! アンタ身体は大丈夫なのか!? 生きてるか、生きてるよな!?」


 なんてのんびり構えてたら、カウンターの向こう側からがっちりした手が伸びてきて、私の意識が物理的にガックンガックン揺さぶられた。突然の事態にちょっとビックリ。


 でも、理解した。この人が何に驚いているのか理解した。


 状況を正確に把握した私は、完全に制御化に置いていた魔力を一部解放し、ゲンツさんにも見える状態で身体の周りに纒わり付かせた。


「大丈夫です、生きてますよ。……えっと、もう一度よく見て貰えませんか? 今なら多分、ちゃんと大丈夫だって、分かってもらえると思うのですが……」


「はああ!? だってあんな、死体みたいな……、…………え、なんだこれ。え? は!? どうなってんだ!?」


 これで離してもらえる、なんて考えていたのが甘かった。

 むしろカウンターなんて邪魔だとばかりに乗り越えてきて、超至近距離からマジマジと私の身体を検分された。その距離感はもはや肌を舐め回すような密着度だ。無論、比喩じゃない方のやつね。


 ……ていうか、ちょっと。あの。

 服越しで気付きにくいのかもしれませんが、今貴方が凝視している位置、胸なんですよね。手が置かれている位置も、かなーりギリギリのラインなんですよね。


 嫁入り前美少女の大切な身体に何してくれてんですか? このおっさん、もう殴り飛ばしていいかな? いいよねぇぇえ??


 一撃で昏倒させて記憶でも消すか、と腕に力を込めた瞬間、「わああー!! なにやってるんですか!?」と慌てたミュラーとカレンちゃんが二人がかりでゲンツさんを引き離してくれた。


 ちっ、運の良い奴め。エロ目的だったら問答無用で攻撃してたぞ。つーか今からでも攻撃したい。


 魔力に殺意が混じったのでも感知したのか、我に返った変態は慌てて言い訳をし始めた。


「あ! いや! 悪い!! なにか勘違いしたみたいだ! それに――ッ!」


 ふうん、それに……?


 咄嗟に引っ込めたみたいだけど、今私の胸、ディスろうとしてませんでした……?


 私を心配しての行動じゃなかったらホント、今頃床を舐めさせてたからね……?


死人と間違えられるのも過去に経験済みなソフィアさん。

着々と色んな経験値が貯まっていきますね。

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