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武器屋さんが案外楽しい


 カイルが私の知らないところで死線を乗り越えてました。


 いくら記憶が無いって言ってもさ、模擬戦で一回死んだら普通、深層心理にトラウマ的な情報が焼き付いて本能的に似たような状況は回避するようになるもんだと思ってたんだよね、私は。


 それがまさか、何の危機感もなく、自ら危険を招き入れるとは……。


 カイルの命って、実は私が思ってるよりもよっぽど散り易いのかもしれないね……なんて、身近にある生命の尊さを噛み締めている間に、当初の目的地だった武器屋さんに到着しました。


 とはいえ、外観からそれと分かる情報は得られない。


 看板すら出ていない、どこかの商会の倉庫と間違えているんじゃないかと疑うような建物の中へとミュラーに先導されるまま踏み入れば、しかしそこには確かに、確かに武器屋と呼ばれるに相応しい光景が広がっていた。


「おお、すごい数の剣だな……!」


「これだけあったら、いくら壊しても大丈夫だね……!」


 何かがおかしいカレンちゃんの感想をスルーしつつ、圧倒的な金属の臭気を遮断して周囲を改めて観察する。


 全面の壁には、所狭しと飾られた剣がずらり。

 直剣や曲刀は当然のこと、カレンちゃんの大好きなバカでっかい大剣もいくつもあった。不覚にも「これなら確かに、壊してもすぐに代わりが出てきそう」とか考えてしまったのは、きっと先程のカレンちゃんの発言が頭に残っていたせいだろうな。


 私自身は、剣とかそんなに壊したことないしね。


 そもそも剣は相手の剣を受け流す為の道具であって、受けたり攻撃したりして壊れるんならそれは「造り手に想定された使い方じゃない」ってのが、私としての認識だ。


 ……まあ、私が本気で魔力を込めたなら、どんな荒い使い方をしても決して折れない丈夫な剣が簡単お手軽に出来上がるんだろうけど。


 その代わりに、魔力抜いた瞬間自壊するのは間違いないね。カレンちゃん並に剣が消耗品になるのが確定事項になっちゃうね。


 初めて武器に魔力を流して壊した剣は、そういえばこんな形だったなあ……なんて、手近にあった剣を弄びつつ。店内の物の配置から、私はようやく、このお店の用途を理解していた。


 ここはきっと、外観から受ける印象の通り、倉庫という面が強いのだろう。


 カウンターがあるからお店としての役割も一応は担っているのかもしれないが、商品であるはずの剣に一切値段が書かれていない事からも、売るのを重視していないという店側の意図が窺える。


 その証拠に、あちこちに置いてある樽には商品とは思えない雑然さで剣がぎゅうぎゅうに詰め込まれているし、かと思えば奥の方には金属でできた弓やら精緻な模様が刻まれた幅広の剣やら、凡そ実用的ではなさそうな物も何点か見受けられる。この不自然さは、どう見ても売る為に品物を用意したという感じではない。


 その不自然さの理由が、誰かに説明されなくとも、私には分かる。分かってしまう。


 作りたいだけ作って後はポーイなこの感じ。私にはとても覚えがあります。


 その視点で見れば、あそこの樽に突っ込まれた全部が全部似たような剣は、剣のサイズや重量を全て正確に合わせようとしたのかな? という予測が立つし、あっちの樽は剣の重心の位置が全て少しずつズレているので、売り物と言うよりは「どの剣が合うかという測定器」のような役割を持っているのだろうと推察できる。


 ……ふーむ。案外楽しいな、武器屋。


 魔法一発で倒せる魔物用に武器を選ぶ必要性は未だ見い出せないけど、この武器屋の商品を見ているのはわりかし楽しい。


 ……ただ、ひとつだけ。

 ここに存在している全ての作品が「武器」としての用途を持っている物に限定されているという点だけは、少しだけ勿体ないと思い――思い……あ、あれ。あれ、武器じゃなくない? え? 何で唐突にフライパンが飾られてるの?? 目が鉄に汚染されて腐ったかな。


 ………………んー、……うん。何度見てもフライパンですね。


 ピザでも焼けそうなくらいとても大きな、とってもビッグなフライパンですね?


 ……ま、まあ、武器屋さんだって人間だし? 調理器具くらい、作ったっていいけど……え、じゃあ隣のこれ、もしかして包丁か? でっか。(なた)かと思ったわ。


「こんにちわー! 私、ミュラー・セリティスと申しますー! 少し武器の相談をしたいのですけど、ゲンツさんはいらっしゃいますかー!?」


 私たちがそこかしこにある武器……展示物に目を奪われている間に、ミュラーが痺れを切らしたらしい。カウンターの奥にある扉に向かって元気な声を上げていた。


 ゲンツさんというのがこのお店の店主さんなのかな?


 ともかく、私達はミュラーの声に引き寄せられるように、自由行動をやめてミュラーの元へと集まった。


 カイルもカレンちゃんも、沢山の剣に囲まれてとてもご満悦の様子。だが「これは!」という一本が見つかってはいないのか、その手には何も握られてはいない。


 このお店で気に入るものが見つかるといいね〜。


 そんなことを思いながら、扉の奥から聞こえ始めた物音に、なんとなく耳を傾けていた。


カレンの父親が扱うバスタードソードも、予備は常にダース単位で用意されているらしい。

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