恋バナかと思ったらホラーでした
事実は小説よりも奇なり、という言葉がある。
が、これは別に、現実が常に小説を上回るほどの体験に満ちているという保証をする言葉でもなんでもないので、期待感は程々に留めておくのが正しい。
……それでも、時として。
現実が物語のように色付いて見えることは、あると思うの。
――カイルとカレンちゃんの、秘密の関係の始まり。
それは以前、カイルがカレンちゃんの相談事を解決して少し経った頃から始まったらしい。
「なんか恩返しがしたいって言うから、なら勉強でも見てくれって頼んだだけだ。ほら、ミュラーの家でやった勉強会の時。結構分かりやすかったからさ」
待って? ねえ、ちょっとだけ待って欲しいのだけど。
その相談事って、私の記憶が確かなら、ほとんど私が解決したやつじゃなかったかな〜? うん? 記憶違いだったかな??
貢献度順で言えば次点はミュラーで、カイルなんて精々、私達へ相談するのを躊躇ってたカレンちゃんの背中を押したくらいじゃありませんでしたっけ?? いやカイルの働きがなければ解決しなかったと言われれば「それはそうだね」としか言いようがないんだけどさ。
私へのお礼がカレンちゃんとの模擬戦で、カイルへのお礼がカレンちゃんとの個別勉強会って、ちょっと扱いの差が酷過ぎません? 私ね、それって同じお礼の枠組みじゃなくて、罰ゲームとご褒美くらいの差があると思うの。
私もカレンちゃんとイチャイチャしたい。
穏やかでお淑やかな非戦闘モードのカレンちゃんと、優雅な午後の一時を過ごしてみたいよ!!
「……それで? その頃からカイルは、カレンの家で勉強を教わってたと?」
羨ましさが視覚化できていたとしたら、きっと今の私は、カイルが引くくらいの羨ましさで溢れていたと思う。けれど、当の本人は私の嫉妬心なんて何処吹く風。
カレンちゃんからのご褒美を何食わぬ顔して独り占めしていた裏切り者は、さらに私を羨ましがらせる情報を暴露した。
「え? いや、大体学院で教わってたけど……あ、そういや一回だけ家にも来たっけ?」
「……う、うん」
……そういえば、ってレベルの出来事じゃないでしょぉおおお〜!?
なんなの? リア充なの? 爆発するの??
カレンちゃんが初めて見るくらい乙女な顔してて、こちとらうっかりトキメいちゃいそうなんですけども!!!
「へー。ふーん。ソウダッタンダー。二人がそんな関係だなんて全然気付かなかったナー」
むしろ一生気付きたくなかったなー。
私とカレンちゃんとの友情度が、カイルとのそれよりも下だなんて事実には、できれば永遠に気付かないままでいたかったなー!!
あーあーちくしょうめ!! カイルなんてシンの理不尽砲にでも当たってリアル爆発してしまえっ!!
……なんて、不貞腐れた気分になっていた私の腕を、ぐいぐい引っ張る可愛い天使が。
「ち、違うから……っ! カイルくんとは、そのっ、……ち、ちがう……っ」
なんだ違うのか、そっかあ。
ならこの天使、私がお持ち帰りしても何の問題も発生しないね?
「そっか。勘違いしてごめんね、カレン。そうだよね。カイルみたいな意地悪な男子、好きになる女子なんているわけないよね」
だよねだよねー、うん知ってたー。とばかりにカイルを貶める発言をしてみれば、人の良いカレンちゃんは即座にカイルを庇い始めた。
「えっ……? ……そ、そんなこと、は、ない……かも」
「カレン、まともに相手しなくていいぞ。そいつお前のことからかって遊んでるだけだから」
「人聞きの悪いこと言うのやめてくれる?」
「事実だろ」
ほら見ろ、やっぱり意地悪だ。こんな意地悪なカイルにカレンちゃんみたいな良い子はもったいないね!
「女の子を家に連れ込むような人に言われてもなぁ……」
どうせ家にカレンちゃんを連れ込んで、変なことでもしようと企んでたんじゃないのー? と、さりげなくその時の状況を聞き出そうと煽ってみれば、思いもかけなかった事実が明らかになった。
「連れ込んでねーし。ただちょっと、模擬戦の相手をしただけだっての」
「えっ」
えっ、聞き間違い? 今、カイル……模擬戦、って言った?
カイルが? 誰と? カレンちゃんと? 模擬戦???
……。
…………。
………………じ、自殺志願者、かな?
「……え?」
確認するようにもう一度聞き返せば、カイルは苦笑しながらも、本当に、なんでもない事のように笑った。
「驚きすぎだろ」
……そ、そうかなあぁ? 至極真っ当な反応だと思うのだけど……。
確かに。確かに私は、カイルの魔力を調整して死ににくいように手を加えた。けど、それは対ミュラーを想定したものだ。カレンちゃん相手とか下手したら私でも死ぬ。
ミュラーよりも魔力操作が拙く。ミュラーよりも瞬間魔力放出量が膨大で。ミュラーよりも戦闘経験の少ないカレンちゃんを相手に。私のいない所で、模擬戦。
……カイル、生きてて本当に良かったね。本当に本当に、良かったねぇ……!
「……いや、マジでどうした? え? まさか泣いてる……?」
「や、泣いてない……」
泣いてないけど……うん。
……カレンちゃんを家に連れ込んだって話。全く羨ましくなくなっちゃったよ……。
彼女たちにも常識はあるので、人を殺めるほどの力は、その力に耐えられると思った相手にしか使いません。
つまりソフィアは、彼女たちにとって安心して全力を出せる理想的なお友達ということになるんですね。
……当然、ソフィアの考える理想の友人関係とはかすりもしてません。
人間関係って難しいですね。




