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勝利へ導く戦略


 カイルに重大な疑義が発生しました。


 ミュラーの「カレンと一緒になにかしてるんでしょう!」という質問を何事もなくやり過ごそうとしたカイル。しかし、カレンちゃんがその質問を聞いて、明らかな動揺を見せたのです。


 うーん怪しい。これはとっても怪しいねー。


 容疑者はカイル。容疑は「カレンちゃんに何かしたっぽい」罪。


 さあさあ、楽しい尋問の時間の始まりですよー?




 ――男女が手を取り合い歩いていれば、普通はこう思うかもしれない。「あら、あの子たちは恋人同士なのかしら」と。「男の子のことをじいっと見つめて、他の人は目に入らないのね」と。


 けれど現状は全く異なる。


 手を繋いでいるのは手のひらからの発汗量や脈拍、体温などから発言に嘘がないかを見極めるためだし、カイルの顔を観察し続けているのも同様の理由だ。


 昔から私の相手をしてきたカイルは嘘をつくのが異様に上手い。


 肌に触れ、瞳孔の動きを観察してようやく、隠そうとしている嘘の存在を看破できる。


 これはわたしとカイルとの、真剣勝負におけるスタイルなのだ。


「カイルさぁ……さっさと白状しちゃった方がいいよ? どうせ早いか遅いかの違いでしかないんだからさ。早く諦めて楽になろ? ね?」


 きゅっ、と僅かばかり手に力を篭める。


 魔力で強化もしていない純粋な握力。

 その気になれば簡単に振り払えるだろうその力は、しかし尋問の最中に行うことによって「逃がさないよ?」という意思を伝える手段に変わる。


 ――逃げられない。


 カイルがそう感じるようになるまで。様々な手段で、少しずつ、少しずつ、微弱な毒を流し込むように抵抗力を削いでいく。


 するとやがてその感情は恐れへと変わり、カイルは「ソフィアには絶対に敵わない」と心から理解し、屈服するようになるのだ。生意気なカイルが終了し、従順な奴隷が誕生するのである。


 ふ、ふふふ。

 カイルが許しを乞う瞬間が今から楽しみ……って、おお?


「お前って本当に、自分が少しでも優位になったと思ったらすーぐ態度が変わるよな。もう少し猫被ってた方がいいんじゃねえか?」


 呆れた目で見返すカイルは、なんと私の手を軽く振り払ってしまったでは無いか。


 私みたいな美少女から繋いでもらった手を自ら振り解くとか信じらんない。

 あれか、後でカレンちゃんに繋いでもらうから私からの施しは要らないと、そーゆー訳か。カレンちゃんの豊かなお胸に腕ごと抱かれることと較べたら、私の手のひらなんぞ芋虫握ってるよーなもんだとそーいう訳かい。って誰が芋虫だコラァ!!


「……ふーん。そういうこと言うんだ」


 おーけー分かった。もう怒った。そっちがその気なら、私だって容赦はしない!!


 カイルからの挑発を受け、私は戦略目標を変更した。


「ね、カレン。実際のとこ、カイルと何があったの? 何か人に言えない事とかされた?」


「ふええ!?」


 すすっとカレンちゃんに近寄り、パーソナルスペースを侵略する。動揺から回復する前に、開いた心の隙間に付け込んだ。


「カイルって案外気遣いは出来るんだけど、それでも男子特有の無遠慮なところもあったりするからね。もしも人に言いづらい事をされてたりしたら……」


「さ、されてないよ!」


 うん、カレンちゃんならそう言うよね。


 いい子だ〜。すごくいい子だな〜。


 カイルが呆れた目で見てるのとか気にしない。

 ミュラーはまだ、私がズルい言い回しをしたことに気付いていないみたいだけど、どうかミュラーはその純粋な心のままで育っていって欲しいと思う。今以上に策謀に長けたミュラーとか私の身が持たない予感しかしない。人ってちょっと抜けてるくらいがかわいくていいよね。


 あまりにも迂闊かわいいカレンちゃんにほんわかしながら、私はカイルの隠し事を暴くのに必要な、最後の鍵を開けた。


「そっか、それなら良かった。じゃあ、カイルと何があったか教えてくれる? 人に言えないような事じゃあないんだよね?」


「そ、それはそうだけど……え、あれ……? う、うーん、えっと……?」


 わあかわいい。

 気付いたら八方塞がりになってることに気付いたカレンちゃん、とってもとってもかわいいわー。


 見なさいよカイル。これが人を疑うことを知らない、純粋な子供の姿ですよ。罠に気付いて抜け出すなんて生意気なことするのカイルだけだよ?


「人には言えないような事」なんて言い方をすれば、カレンちゃんは否定するに決まってる。でもそれを否定しちゃうってことは、それは「人に言える事」ってことだよねぇ。うふふ。


 カレンちゃんの慌て様に対して、カイルがそれほど必死に隠そうとしていないのが気になるけど、はてさて。真実はどれほどの価値を秘めていることやら。くふふ。


 勝利の確定した私を見て、カイルがこれみよがしな溜め息を吐いた。


「ソフィアってほんっと……性格悪いよなー」


 ガシガシと頭を掻きながら敗北を受け止めるカイル。


 その姿のなんと気持ち良いことか!


「なぁに、負け惜しみ?」


「ちげーよ。……バーカ」


 ……うん? 本当に違うのか? ……まあいいや。


 カイルとカレンちゃんの秘密エピソード、とぉ〜〜っても楽しみだなぁ!


 ふふふのふ!


「性格が悪い」


ソフィアが産まれるまで善人しか存在しなかったこの世界において、その言葉が「特別」と同等の意味を持つとソフィアが気付くのは、もう少しだけ先の話。

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