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聖女の名声


 あまり認めたくはないんだけど、【聖女】って肩書きは、思ってたよりもずっと重たいものらしい。


 それに加えて、この肩書き。

 なんか、結構な範囲に広まっているような……。



 相手方の騎士団長さんとお兄様が「どうやってこれだけの数の魔物を?」「普通に倒しただけですよ」なんて、腹の探り合いみたいな会話をしている後ろで、暇を持て余したカイルが迂闊にも「でもあれ、半分以上ソフィア一人の成果なんだよな」なんて口を滑らせてしまったからさあ大変。


 間違ってはいないけど完全には合っているとも言い難い過剰な評価を聞いてしまった相手方が、喧々囂々となった場を収めたのは、意外にも、私の【聖女】という肩書きだった。


「王都での活躍の噂は聞いておりましたが、何分こことは距離がありますからな。話が大きくなっているものとばかり考えておりました。いやあ、聞きしに勝るとはまさにこの事! お若いのに素晴らしい働きだ!!」


 領主様が褒める褒める。


 騒然とする騎士の人達にね、慌ただしくなった空気も全く意に介さず、相変わらず超絶クールで最高無敵にかっちょいーお兄様がね、「彼女は陛下がお認めになられた【聖女】ですから」って言っただけでもうすげーの。畏敬の念とか尊崇とか、とにかくその場にいる人たちの態度が一変してね、めっちゃ居心地が悪くなったの。跪いて崇めたてる人までいた時はちょっと引いたね。


 中でも領主様の変わりようが凄くって、「出会えた奇跡に感謝を!」とか言って握手を求められた時には表情が変わらないようにするのがとても大変だった。背後で面白そうに笑うカイルのことも含めて、ね。


 カイルは本当に、反省という言葉の意味を脳裏に刻み付けた方が良いと思う。


 偉い人同士が話してる時に平団員が余計な口挟むとか何考えてんの? これが正式なお仕事だってことを理解してないおバカちゃんなの? 学院がお休みを認めたって意味を理解してる? ねえ、してないよねえ、そんなことも理解できないくらいのおバカちゃんなんだもんねえ〜???


 カイルには団員としての心構えをきっちり叩き込んでおいた方がいいと、後程お兄様には強く進言しておくべきだと心に刻んだ。


 バカなカイルのせいで今日以降の旅行が全てキャンセルにでもなったら堪らない。学院での授業を大手を振ってサボりつつ、色んな街を歩いて回れる機会の貴重さを、やつはまるで理解してないんだ。


 もしもこの件が原因で次回がなくなっていたりなんかしたら、私はカイルをボコボコにするよ? 今度ばかりは本気で怒るよ!? うがー!!


 ……と、このように。


 いくら内心では煮え滾るような怒りが溢れ返っていたとしても、その怒りを理不尽にも領主様にぶつけるようなことがあっていけない。


 たとえ今現在も私の手を握りしめて離してくれないことに不快感を持っていたとしても。

 生暖かい鼻息が顔にまで届き、笑顔の仮面を補強しながら防御魔法の調整をする羽目になっていたとしても。


 決して「触んな変態」と手を叩き落とすようなマネはしてはいけないのだ。だって相手が格上だから……ッ!


 何故か敬語でめっちゃリスペクトされてるようにも感じるけど、ここで意のままに行動したら、絶対きっと、十割十分の確率で、お兄様にも迷惑がかかるし……。それにそれに、お姉様も見てるし……。


 そしてなにより、貴族相手の無礼は必ずお母様の耳に届いてしまうという地獄への招待キャンペーンが常時開催されているので、私には完璧淑女のソフィアお嬢様になる以外の選択肢がなかったのだった。


「お褒めに与り恐縮です。ですが、私一人の力では決して成し得なかったことでしょう。ここにいる仲間たちの協力があったからこそ、これだけの短い時間でこれだけの成果を上げられたのだと、私は確信しています」


 淑やかに、穏やかに。

 全ての人々を魔物という悪意から救う、慈愛の権化であるかのように。


 聖女斯くあるべし、という雰囲気を殊更に意識して。強く握りこまれた手にもう片方の手をそっと添え、「世界は助け合いで出来ているんですよ?」と諭すように微笑みかけた。


「ええ、ええ、仰る通りでしょうとも! 最近は暗い話が続いておりましたが、王国の未来はまだまだ明るいのだと私は確信しましたぞ!」


 ぶんぶんと力強く振られる手。

 喜色に溢れた瞳からは、その言葉に嘘偽りがないことが伝わってくる。


 よしよし、なかなか上手く対応できたんじゃないかな? もはや慣れてしまったとはいえ、貴族的なやりとりは疲れるねー。


 ……ところでさ。さっきから後ろにいるカイルが「ひっ、ひっ」って引き攣った笑い声上げてんだけど、あいつあれで隠せてるつもりなのかな。とてつもなく耳障りなんだけど。


 あとね、これはわざわざ魔法まで使ってカイルの様子を確認しようとした私も悪いんだけどね?

 カイルの横にいるミュラーが「ソフィア、すっごい猫被ってる……」みたいな顔してんのが地味にショック大きい。誰だって相手によって対応くらい変えるでしょうよ。ねえ、剣を持つと性格が変わるミュラーさん?


 ……はーあ。なんかもう、いい加減貴族の人たち相手にするの面倒になってきたな。


 さっさと報告終わらせて街へと繰り出しましょうよう、お兄様ぁ〜。


神殿騎士団として初めての任務を終えた結果、ソフィアの中で「魔物討伐任務=合法的な小旅行」の図式が完全に固定されたようです。

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