帰り道はペットと一緒に
あのね、知ってる?
集団で行動してるはずなのに気付けばひとりぼっちになってるのって、びっくりするほど寂しいんだよ??
魔物討伐からの帰り道。お兄様が王子様と秘密の話があるとのことで、遮音結界を作って欲しいと頼まれまして。
要望された通りの遮音結界を張って「何のお話するんだろ?」なんて気にしつつも元の位置に戻った時には、私の居場所はきれいさっぱり消え去っていたのでありました。オーマイガーだよ!!
ほんのついさっきまで私と楽しくお話をしていたはずのお姉様は、僅かに離れただけの時間で一体何が起こったのか、あのカイルを相手に喧嘩しながら私の美点を語りまくるという謎行動に全力を傾けている。しかもよくよく聞いていれば、カイルまでもが私を褒めている様子すら見受けられる。
正直訳が分からなすぎて逆に興味が無いことも無いけど、あの二人の間に突撃し、わざわざ話題の種になりにいく蛮勇なんて私にはなかった。むしろ変に目をつけられないよう、そっと存在感を薄くしたくらいだ。
お兄様は王子様と一緒。お姉様はカイルと一緒。
となれば残るは、ミュラーとカレンちゃんの女の子二人組よね。
古来より「女三人寄れば姦しい」という格言があるように、女は三人集まれば無限に喋れる。楽しくおしゃべりさえしていれば、時が一瞬で過ぎ去っていくことは想像にかたくない。
さぁて、私も楽しい会話に混ぜてもらおーっと♪ なんて軽い気持ちで踏み出した足は、しかし二人の会話が耳に入った瞬間に、まるで地面に縫い付けられたみたいに動かなくなった。
「ソフィアはとても目が良いのよ。それに反応速度も素晴らしいわ。正攻法で捉えるのは難しいでしょうね」
「やっぱり、顔を狙うのが良いのかな。それとも、足? 足場を崩した方が、効果的、かな?」
「悪くは無いと思うわ。カレンの場合はとにかく力任せに物を破壊し続けて視界を塞ぐ手段が有効かもしれないわね。もしくは、天井を崩落させるとか……いえ、建物を壊すのはあまり良くないわね……。やっぱり目を先に潰さないと……」
――友人が自分をぶちのめす計画を立てていました。私はどうしたら良いのでしょうか?
つーかやっぱミュラーだわ。ミュラーの作戦がえげつないんだわ。
なんだ目を潰すって。比喩表現だよね? 本当に潰したがってる訳じゃないよね? 潰せる機会を虎視眈々と狙ってたりはしませんよね?
カレンちゃんのパワーで目なんか狙われたら間違いなく脳まで貫通するわ。
もうやだ。この二人怖い。
ここで私が「やっほー、何の話してたの?」なんて脳天気に姿でも見せたら、二人の頭の中では今話してた戦術でボッコボコにされた私がボロ雑巾の様に転がったりするんだろうなあ……。それはちょっと、なんて言うか……やだなあ……。
そんな風に思ったらあら不思議。これだけの人数がいるというのに、私は何故かひとりぼっちになってしまいましたとさ。ちゃんちゃん。
――どこのグループにも属せない。
いや、属したくないというのが正確なところなんだけど、それでも誰からも興味を抱かれないこの状況は、考えてみると本当に久々のことで。
……こんなに空気みたいな扱い受けるの、案外前世以来なんじゃないか?
お兄様に内心に触れるような話題を出されたからか、どーにも余計な事まで考えてしまう。それでも、不安になってた気持ちは、割りと落ち着いてはいるのだけれど。
「……ふーむ」
偶には一人で過ごすのも悪くは無い。
悪くは無いが、わざわざこの状況の中で一人で居続けることを選ぶのは良くもないと、私の直感が告げている。
こんな状況にあるのをお姉様との会話から抜け出したカイルあたりに見つかり「ああなんだ、お前ソフィアか。迷子になった子供かと思った」とか言われたら間違いなく喧嘩になる。大人の落ち着きと慈愛の心を持つ聖女たる私がカイルなんぞと喧嘩するのはとても良くない。お兄様やお姉様に呆れられない為にも、避けられる争いは避けるべきなのだ。それが私の心の平穏にも繋がる。
……さて、ではこれからどう行動するのが最善だろうか?
考えた私は、心のゆとりを増やすため、癒しパワーを補充することに決めた。
『エッテ、おいで』
念話で呼べば、既に小型化していたエッテがすったかたーと何処からともなくやって来て、私の身体をスルスル登る。肩から覗いた頭を撫でれば「キュ〜ィ」と愛らしい鳴き声。寂しさを覚えていた心が満たされていく。
これよ、これこれ。
ひとりぼっちを回避しながら心の安寧にも貢献する究極の解答。やっぱりペットって素晴らしいわ。生き物の温もりってなんでこんなにも落ち着くんだろうね。心に火が灯ったように温かくなるよ。
「エッテ、今日は楽しかった?」
「キュイッ!!」
今日の感想を聞けば、「大満足!」と叫ぶような元気な返答。
そっかそっか、楽しかったか。それは良かった。
私が家にばかりいるせいで、エッテたちにはあまり外で遊ばせる機会もなかったし。これを機に、定期的に森で散歩するのも良いかもしれない。
朝の訓練をこの森で行うことも考慮に入れながら、私たちはゆっくりと、魔物の気配が失われた帰路を進んでいった。
優秀な聴力が常に役立つとは限らない。
時には聞きたくもなかった話が飛び込んできてしまうという事も起こり得るのだ。




