夜だけど出発しよう
エッテと一緒にフェルを探して外に出てみると、空になった荷台のところにヴァルキリー様と一緒にいた。
なんて気が利くんだ。
ヴァルキリー様に気遣いはいらないですよ〜って村人の皆さんに言っておいたんだけど、人だと思ってれば普通気遣うよね。
私がいないとヴァルキリー様はただの人形だ。
話しかけられるとボロが出るけど、フェルみたいな大型の獣が傍にいることで人避けになる。
何も言われずとも主のフォローまでこなすペット達。
優秀すぎて飼い主の肩身が狭い。でもありがとう。
お礼に頭を撫でてあげてたらアンちゃんがやってきた。
「あの、今日は本当にありがとうございました」
これはどう答えるのが正解だろうか。
「どういたしまして」
無難に返してみた。
貴族的には「領民を守るのは当然だ!」が正解な気もするけど、偉そうだよね。
貴族とか領民とか関係なく、困ってる人がいたら助ける。
それでいいんじゃないかな。
「みんなお腹いっぱい食べられて、こんなに明るくなれたのはみなさんのおかげです」
まぁ気付いたのも助けたのもフェルなんだけど。
それが分かってるからかアンちゃんのフェルを見る目は感謝と崇敬の籠った……神様を見る目、だよねえ。否定したんだけどな。
いや、私が知らないだけで神様的存在の可能性もあるか。
むしろ妖怪なんて、地方によっては祀られることで神となり、疎まれることで祟りとなるくらい、人の信仰と密接に係わっている存在だ。
アンちゃんみたいにフェルを神と崇める人が増えれば、生き物としての格が上がって神成りを果たす……かもしれない、かな? どうかな?
そんな目で見れば、フェルは確かに神獣っぽい雰囲気はあるように思う。
でも人に手入れされた上に知性まで持つんだからそれも当然というか、ぶっちゃけでっかいってだけで無条件で崇められたりするよね。
その証拠にちっちゃいエッテはかわいいけど別に崇めたくなったりはしない。
白い身体は神秘的ではあるけど、神秘とか神性とかどうでもいいから撫でさせてー! ってなる。小さいとはそういうことだ。
ところで私の目の前にでっかいけどかわいいフェルの他にちっちゃくてかわいいエッテと、同じくちっちゃくてかわいいアンちゃんがいるんですけど。さっきからずっと頭が丁度よさそうな位置に置いてあるんですけど。
これ撫でてもいいかな? いいよね?
じゃなきゃこんなちょうどいい高さに差し出さないよね頭。よし撫でよう。
「ソフィア、酔い覚ましをお願いできますか?」
ひいぃっ!
お母様がなぜここに!
未遂で良かった。
頭を撫でるくらいで怒られない気もするけど、あービックリした。
「酔い覚ましですか?」
「ええ、お願いします」
はいはい、酔い覚ましの魔法ね。
以前お母様に掛けたことがあったね。
簡単に酔いが覚ませるから飲み放題! ひゃっほう! とかならない自制心の強いお母様好き。
えー、領主としての務めが残ってるのに酔っ払い化したお父様は好きかってー? うふふ、どう思いますー?
「す、すまん」
今日は結構格好よかったのに自らオチをつけにいくお父様も好きだよ。見てて飽きないからね。
そんな心の声はおくびにも出さず話の続きを聞けば、今日のうちに次の場所に移動して一泊するらしい。今日帰らないんだね。
家でプロポーズ強化特訓をしてるはずのロバートさんのその後が気になるけど、数年ももたついてたんだし急がなくても良い場面には間に合うよね。
「それじゃあアンちゃん、またね」
「はい、また来てください。みんなで歓迎しますから」
村長さんや村人さんたちのお見送りを受けて森に去る私たち。
秘密を守るためとはいえ、暖かい宴会場から夜の森に向かうのは格差が酷いんじゃないかと思う。
「次はここへ向かって下さい。今日はそこで休みます」
「分かりました」
とはいえ私たちの助けを待っている人達がいるのなら急がないとね。
お母様に見せられた地図も頭に叩き込んだし、夜間飛行といきますか。
もちろん、安全運転でね。
お母様にこってり絞られたお父様は、その場面を見ていた男衆にめっちゃ気に入られてめっちゃ仲良くなった。