武器に魔力を込める方法
ヒースクリフ王子とカイルの魔物討伐速度の差を「武器に込められた魔力量の違い」と説明したら、騎士組の関心を買ってしまった。
ミュラーたちから「どうやって武器に魔力を込めるの?」と餌を目の前にした肉食獣のように爛々と聞かれ、今ここに、私の休憩時間の消滅が確定したのであった。
これって魔物を消滅させまくった報いなのかな。
お兄様とお姉様と一緒に、優雅な休憩時間を過ごしたかったよ……。
「カレンができてるってことはもっと力を篭めた方がいいってこと? それとも重い剣を使った方がいいの? 剣の材質が関係してる?」
「なあ、俺にもやり方教えてくれよ。俺らが魔物を早く消滅させられるようになったらお前にだって得だろ?」
「ソフィア、僕にも教えて欲しい。剣で魔物を倒せるようになれば、この国の魔物被害はもっと減らせるはずなんだ!!」
「わた、私も……!」
うわーい、ソフィアちゃんってばモテモテねー。人気者すぎて困っちゃうねー。
軽く現実逃避を済ませたら、後に待つのは面倒そうな現実と向き合う時間でございます。
悔しいけど、カイルの言うことにも一理あるし、ここでやり方を説明しない理由はない。みんなの魔物討伐スピードが上がればそれだけ早く帰還することが叶うのだから、長期的に見ればちょっとの手間で大きな利益が見込めるという認識は間違ってない。
仕方ない。やるか。
「うん、分かった。魔物に有効な、武器に魔力を込める方法。ちゃんと説明させてもらうね」
発言しながら、頭の中で考えをまとめる。
魔法。魔力。加護。制御。
学院で習った知識にできるだけ沿った説明。あるいは、理解し易い説明の仕方で。
先程の戦闘で得られた推察を踏まえ、カイルにも再現出来そうな、成算の高い、馴染んだやり方を踏襲する方向性で……。
よし。
「まず、魔力視を使って。みんな魔力視は使えるよね?」
話す内容はまとまった。後は各々の適性次第、かな?
促して、全員の魔力視の発動を確認。精度は違えど、これなら説明に支障は無さそうだ。
――魔力視。それは、魔力を可視化する魔法。
……という学院で習う内容も間違ってはいないけど、より正確に言うなら、これは視覚野の魔力との親和性を高める魔法。まあ今回に限って言えば、身体から漏れ出た一定以上の魔力が見えるようになる魔法、という認識で問題ない。
その魔法を発動したまま、カレンちゃんが振るう剣を観察してもらうというのが、今回のやり方だ。
「はい、カレンはこれを魔物と思って切ってね」
「えいっ!」
可愛い掛け声とは裏腹に、魔物代わりに投げた木材が容赦なく叩き折られた。勢い余って地面まで一部が吹き飛ぶのは、もはやそういうものと思って受け容れる他ない。
「魔力、見えた?」
四人共から「見えた」と言うまで繰り返してもらい、次の段階へ。今度はミュラーが剣を振る役目だ。
「いくよ〜」
「いつでもどうぞ」
先程と同様に宙へと放った木材は、今度は綺麗に断ち切られた。当然、剣が地面を抉りとることもない。これぞ剣技って感じ。
「魔力、見えた?」
今度は全員が見えなかったようだ。まあミュラーは剣速も速いし、こうなる予感はしてた。
洗練された剣技は、魔力の消費も少ない。それはつまり、余分な魔力が出ていないということ。
剣で戦う者としてはこの上なく正しいのだろうけど、魔物が相手となると、その美しい魔力制御では威力が出ない。
ミュラーの剣から魔力が見えなかったことを「《加護》を上手く使うのに慣れすぎているから」と説明し、カレンちゃんの攻撃を例にあげ、武器に乗せた魔力を外に放出する為の練習方法を提案してみた。
その、画期的な方法とは!
「というわけで、魔物に有効な攻撃の仕方を学ぶ為、地面を爆発させてみよー! 地面が爆発するってことは剣から魔力が出てるってことだからね! 頑張って良い爆発をめざしてね!」
「が、がんばる!!」
うん、一番頑張らなくていい人が一番良い返事をしました。君が頑張ると森の地形が変わっちゃいそうで怖いから前言撤回しますね。何事も程々が一番よ?
とりあえず、程々の爆発が一番上手かったミュラーに他二人の指導役を任せて、カレンちゃんのメニューだけ樵の真似事に変更してみたまではいいんだけど、カレンちゃんが剣で幹を叩いた瞬間に「バァンッ!!!」って物凄い音がして木の幹が爆発したのでこの方法も使えなくなりました。
私の心臓も破裂したかと思ったよね。マジでビビった。
幸い怪我人が出るよう事態は防げたんだけど、こうなるとカレンちゃんの練習方法が思いつかない。魔力を叩きつけて爆発以外の結果になる方法って……なくない?
「えっと……どうすれば、いいかな……?」
「えーっと……」
ボコンバカンと地面がプチ爆発する音を聞きながら考え事をしてるせいか、何をやっても爆発オチになる未来が見える。魔物を倒すだけなら放出する魔力の形を変える必要は無いし……でもこのままじゃ練習方法が……森を壊滅させる訳にもいかないし……。
「とりあえず、保留で」
「ええ……?」
いやごめん。でもカレンちゃんの爆発、威力がシャレにならないしね?
こうして、「面白そうなことをしてるわね」と寄ってきたお姉様たちにも事情を説明したりしている内に、貴重な休憩時間は終わりを迎えた。
私、あんまり休憩できなかった気がする……。
ぴえん。
「……なあカイル。剣って地面を爆発させる道具じゃないよな?」
「深く考えない方がいいぞ。アイツら、みんなどっかおかしいからな」
ヒースクリフ王子とカイルは、地面をポスポス叩きながら絆を深めた。




