お風呂で恋バナ
あの後も三人で色々と話して判明した事実。
なんとお姉様は、こないだ連れてってもらった神殿に勤める事が内定しているシスター候補生だったのだあー! ババーン!
つまり私には卒業後、お兄様とお姉様に見守られながら友達と一緒にお仕事をするという天国のような職場環境が約束されているらしい。
こんな贈り物、結婚指輪より嬉しすぎない? お兄様への愛情が膨らみ過ぎて破裂して死んじゃう。
お兄様はどこまで私を喜ばせれば気が済むのだろうか。ソフィアちゃんの好感度ゲージはもはやカンストを通り越して「∞」である。
「それにしても、ソフィアってばロランドに懐きすぎてない? 学院にカッコイイ男の子とかいないの?」
久々に一緒にお風呂に入りましょう、ということで、お姉様とアジールくんと一緒にお風呂でのんびり過ごしていたら、お姉様が不意にそんなことを聞いてきた。お風呂が気持ち良すぎてボケちゃったのかもしれない。
「お姉様……。お兄様以上にカッコイイ人なんて存在するはずがないでしょう?」
「これは重症ね……」
失礼な。客観的に判断したってお兄様以上のスペックを誇る男性なんかどこにも存在しないでしょーに。
学業優秀、魔法も優秀。
齢十五という若さにして王様の覚えもめでたく、お父様の仕事も宰相の仕事も代行できる水準で熟す事ができる人材など果たしてこの国に何人いるのか。
それに加えて私に超絶優しくて、忙しいだろうに私のことを物凄く気遣ってくれて、顔も声も超タイプとなれば惚れない理由など欠片ほども存在しない。同棲している婚約者がいようと私はお兄様の唯一の妹。甘えることを天に許された唯一の存在なのだ。
ならもう、全身全霊でお兄様に甘えるのはもはやこれ、生まれた時からの運命と言っても過言ではないよね。むしろお兄様に甘える為に私が生まれてきたとすら言える状況だよね。なんせ生まれた時からお兄様の妹なんだもん。これで甘えないのは天への冒涜、運命への叛逆ですらあるだろう。
つまり私は、お兄様に甘えるべくして甘えているわけです。
お兄様は妹である私に、甘えられるべくして甘えられているわけです。
私も幸せ、お兄様も幸せ。
この完全無欠の関係に、一体何の問題があるというのか。
兄妹だから結婚できない事くらいしか問題ないよね。むしろそれが最大の問題とも言えるんだけど。
「お姉様だってお兄様がとても優秀なことはご存知でしょう? お姉様はお兄様にそういった感情を抱いた事はないんですか?」
「ロランドに惚れないのかってこと? あはは、ないない!」
……ほほう。ほーう、ほう。
つまりお姉様は、お兄様にそんな魅力があるわけないと? お兄様に惚れるような人の気が知れないと、そういう事ですか?
まさかお姉様がそんな人だったなんて知らなかったなぁ……。ソフィアちゃん、お姉様のこと嫌いになりそう……。
私の中で馴染みのない感覚がふつふつと沸き立ち始めたことにも気付かないまま、お姉様は楽しげに言葉を続ける。
「ロランドは昔っからソフィア贔屓だったからねー。そりゃロランドは可愛らしい弟だったけど、ソフィアからロランドを盗っちゃうわけにもいかないし? 二人のお姉ちゃんとしては、愛くるしい妹と可愛らしい弟が仲良くしてるのを眺めてるのが幸せーって感じかな」
「私、お姉様の妹で良かったです」
なんだよもー、分かってるじゃん! そうなの、お兄様ってば可愛らしくて私贔屓で最高なの! 眺めてるだけで幸せになれるの!
全く全く、あやうくお姉様が人を見る目のないヘタレ好きなのかと思っちゃうところだったじゃんー。そうよね、お姉様は私とお兄様のお姉様だもんね、やさしくて家族想いなのも当然だよね!
アジールを見る目なんてもう聖母みたいな慈しみに満ちてるし、若くて美人さんなのに母性も兼ね備えてるとかもう最高なんて言葉では足りないくらいの良妻だよね! 女性としての頂点と言っても過言ではないね!! 人類の宝だね!!
「ロバートさんもお姉様のような素敵な女性を妻に迎えられて、鼻が高いでしょうね」
「な、なぁに急に……照れるじゃないの」
おうおう、流石お姉様は照れた顔もかわいいですねー。素直度がアップしたお母様みたいで破壊力がバツグンですねー。こんな顔を見せられちゃったらロバートさんなんてイチコロだね!
なんかこうしてお姉様と恋バナみたいな話するのも久々でめっちゃ楽しい。私の周りってほら、ミュラーとウォルフのせいで恋バナが軽く地雷原みたいになってるし、迂闊にそーゆー話できないんだよねぇ。そうでなくても過剰に反応する人達が多くて……。
下手に教室で恋バナなんか振ったら「ソフィアも遂に!?」とか言って外堀から埋められそう。男女の秘め事の手順を秘めることなく叩き込まれそう。聖女は結婚しないって決まりがあって本当に良かった。
「お姉様が幸せそうで良かったです」
「え〜、本当にどうしたの〜? ソフィアだってロランドといられて幸せでしょ〜?」
「はい!!」
本当にそう。お兄様といられて幸せ!!
この幸せがずっと続くように、私はお兄様からの寵愛をできるだけ長続きさせなければいけないんだ。
その為にも今は、お姉様のセクシーボディを目に焼き付けておこう。
いつか変身魔法をマスターしたら、この姿で、お兄様に……。
むふふ。
「……ロランドってば、ちゃんとソフィアの将来のこと考えてるんでしょうね……?」
実の兄にメロメロ過ぎる妹を見て、お姉ちゃんはちょっぴり心配していた。




