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戦う理由


「ソフィアを魔物と戦わせるだなんて納得できるわけないでしょ!?」


 お姉様が吼えていた。


 席を離れ、お兄様と二人っきりというシチュエーションを堪能してきた私は大層幸せそうに見えたらしい。


「二人だけで何してきたの〜?」とにまにましながら聞いてきたお姉様に魔物退治に行く事になった旨を説明すると、楽しげだった顔はみるみるうちに険しい表情へと変わり、先の言葉が叩きつけられたというわけだ。


 私を心配してくれる気持ちはとても嬉しい。最近じゃお母様なんか、私に魔物退治させる事を何とも思っていない節があるし。


 だけどそれはそれとして、魔物はやっぱり、そう警戒するような相手じゃないとも思うのだ。


 確かに魔物は怖い。対面すると、本能的な恐怖を呼び起こす何かがある。


 でも魔法を放てば大体一撃で倒せちゃうし、なんならフェルとエッテに任せちゃえば姿を見ることすらなく駆除することだって可能なのだ。


 お姉様はきっと、自分で魔物を退治したことがないのだろう。


 魔物は威嚇する能力にだけ長けた野生の獣みたいなもので、殺す事に躊躇う必要のない凡そ生物には見えない外見をしている分、下手したら動物よりも倒しやすい部類の相手なんだけど……。


「お姉様が心配するほど、魔物って強くありませんよ?」


「そーゆー問題じゃないでしょ!?」


 お、おおう。心配を取り除こうとしたら逆に怒りを煽ってしまった。


 子供を酷使する大人という構図に文句を呈したいのであれば、全面的に同意したいんだけどな。


「ロランドは何も思わないわけ!? ソフィアにそんな危険なことをさせようとしてるなんて見損なったわ!!」


「姉さん、落ち着いて。この話を断り切れなかったのは確かに僕の責任だけど、本当に危険は少ないんだよ」


 おお、最近はすっかり大人っぽい顔になってしまったお兄様が珍しく困惑しておられる。お姉様ナイスだ。その調子でもっとお兄様のレア顔を引き出してください!!


「少なくても危険はあるんでしょう! 魔物なんて危険な生き物を――」


 勢い込んで話していた勢いがピタリと止まる。


 言葉に詰まったお姉様の視線が捉えていたものは、机の一角で呑気に寝そべるフェルの姿だった。


 元々は魔物だったフェルさんは、大きな口を開けて無防備な欠伸(あくび)なんかしていらっしゃる。危険な生き物さんはその大きなお口で何を食べようと言うのか。私のお菓子を食い尽くすのだろうか。


 わー、なんておそろしいんだー。


「……学院生を魔物の元に送り出すなんて、陛下には失望したわ!!」


 あ、さらりと論点をすり替えた。


 こーゆーとこ、流石は私のお姉様って感じがするよね。都合の悪い話をまるっと無かったことにする手口とかさ。もーお母様にそっくり。


 お母様に似た容貌も相まって、感情を制するのにまだ慣れていない若かりし頃のお母様って感じ? あ、もちろんお母様は今でもとてもお若いということは、賢く優秀なソフィアさんは当然理解しておりますけどね?


 だがお姉様の意見には全面的に同意せざるを得ない。


 子供を守るべき大人が、子供を危地に送り出すとはなんたることか! 一国の王として恥ずかしくはないのかー! 恥をしれーい!


 そんなふうに思いはするけど、この話を持ってきたお兄様も成人したてとはいえ今や大人の一員であり、私を魔物の元へと送り出す側の人間であると言えなくもない。優しくて責任感の強いお兄様に罪悪感を抱かせない為にも、私は「魔物? 最近運動不足だったから丁度いいね!」くらいの軽い調子で請け負わなければならないのだ。


 はー、良い妹やるのもつらいわー。お兄様に気遣われながら魔物退治請け負うのも楽じゃないわー。お友達やお兄様と一緒に魔物退治旅行だなんて今から不安でいっぱいだわー。考えることがいっぱいで大変だなー!


 今度こそ、正真正銘お兄様との旅行。友人もいるとはいえ環境が変わる意義は大きい。


 旅行の所要日数は。道中の宿は。部屋割りは。


 修学旅行でカップルが誕生した〜、なんてよくある話だ。今回の件だって似たような状況で、お兄様との仲が急接近する可能性だってあるかもしれない。今からわくわくが止められない予感。


「確かに褒められたものではないかもしれない。でもね、この件に関していえば、むしろ話を請けるのはソフィアの望みでもあるはずなんだよ」


「ソフィアの望みぃ?」


 お姉様に「本当?」と視線を向けられたので、少し悩んでから「そうなのですか?」とお兄様に投げ渡した。お兄様を疑っていた訳では無いが、「そうだよ」と頷かれたことで確信を得る。


 この依頼は私の望みと合致している。お兄様が言うなら間違いないよね!


「ソフィアは知らないみたいだけど?」


「メイプルシロップっていう希少な甘味料があってね。魔物が出た場所はその――」


「その魔物は必ず滅ぼさねばならないようですね。ええ、一刻も早く滅ぼす為に私が協力しましょう。出発はいつの予定ですかお兄様?」


 そいつか! 私の手元にメイプルシロップが届かないのはその魔物のせいなのか! 許すまじ!!


 旅行以外にも魔物退治に行く明確な理由が増えた。


 その魔物たち、絶対にたおーす!!


ソフィアのやる気がぐーんとアップしました。

ソフィアの食い気もぐぐっとアップしました。

メイプル……。

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