村の宴に参加しよう
美味しいご飯は人を幸せにするよね。
「お嬢ちゃん〜食べてる〜? もっと食べて大きくならなきゃ〜」
魔物のせいで村は食糧難の危機。
しかし事態の深刻さをいち早く察知し自主的に食量制限したことにより被害は軽微。
素晴らしい判断であったことに疑いようはありません。
待つだけという苦難の案を実行に移し、不安に耐えたあなた達は賞賛されて然るべきです。
今日ぐらいハメを外しても女神様だって微笑んで許してくださることでしょう。
「お母さんみたいな美人になったら〜うちの息子の嫁にどうだい? って今でも息子とは釣り合わないっての! うははは!」
でもうっとうしいものはうっとうしいよ。
私は女神様じゃないから何度でも言うよ。
鬱陶しいからこっちに話を振るな。酔っ払いは酔っ払い同士絡んでろ。
「お父様。お酒は食糧じゃないと思うのですけど」
「そう言うな。苦難を乗り越えた者達に報酬は必要だろう?」
そこには同意するけど、私はなんで罰ゲームみたいなこの場に同席させられてるんだ。
つーかお父様も飲んでるじゃん。
ダメだ、酔っ払いには何を言っても無駄だ。助けてお母様。
酔っぱらいに支配された場で唯一の同志足り得るお母様を探して視線を巡らせるとある女性の一団が目に止まった。
「ほーんと若々しくて羨ましいわあ。あたしなんかこないだ、旦那に『おまえも昔は美人だったのに』なんて言われたもんだから、思わずハゲ頭ぶっ叩いてやったわよ! あんたにだけは言われたくないってね!」
「あっははは! あたしもあいつのハゲ頭叩きたーい!」
「好きなだけ叩いてやって! ビックリして髪の毛生えてくるかもしれないしねえ! 奥さんもどう!?」
「うふふ……」
お母様は村の女性たちに捕まっていた。あっちはあっちでやばそう。
この場に救いは無いのか。
いや、そんなことはないはずだ!
困った時のエッテさん! 私を導いて!
ヘイ、カモン! と袖の下を探ったのに反応無し。
っていうか、いないね? 覗こんでもやっぱり居なかった。いつの間に。
「おお、嬢ちゃんも分かってくれるか! そうなんだよお俺だって好きで禿げてるわけじゃねえんだよお。嫁が年がら年中叩くもんだから抜けちまって今じゃこんな立派なハゲ頭! ……俺の髪、もう戻らねえのかなあ」
「お前のハゲはハゲじゃないってみんな知ってるからそんな気を落とすなって!」
「そうだそうだー! 可愛い嫁さんにいじって貰えるだけお前は恵まれていふ! おえにゃんか口もきーてくええーんらろ!」
なんか酔っ払いどもが盛り上がり始めた。
やばい。早く逃げないと面倒くさくなる予感がする。身の危険が危ない。
さっと魔力を広げて探してみたら近くの酔いどれたちのテーブルにエッテを発見。身体よりも大きなナッツの皿を独り占めしてご満悦でした。
エッテも酔ってるんじゃないか? いつもはこの方法で見つけたらすぐ反応するのに。
仕方ない、脱出を優先するか。
「私、追加のお酒をもらってきますね」
「いい子だー! 君はなんていい子なんだー!」
「息子の嫁に! いや、俺の嫁になろう! 今すぐなろう!」
「はっはっは! ソフィアは誰にもやらんぞー。ずっとうちの娘だぞー」
もう無視無視。
あれだね、箸が転がっても笑う大人達。
楽しそうでいいですねー。私はこのままお暇させてもらいますうー。
お父様もだいぶ酔っ払ってたけど大丈夫かな。
見知らぬ男と結婚させられるのも嫌だけど自宅で家事手伝いっていうのもなー。
まあお姉様の結婚話でダメージ受けてるところで願望がポロリしちゃっただけだよね。
酔っ払いの言葉とか信じる方が馬鹿を見るって話。
「ほらエッテ。フェルのところ行くよー」
「キュイ〜」
未練がましくナッツ皿にしがみつくエッテはかわいい。じゃない、豆は太るからほどほどにしないとね。
「あとはフェルの分。美味しいものはみんなで分けないとね?」
私もひとくち。
あ、美味しい。
うん、塩だけの味付けだけどカリカリ美味しい。後を引くけど確実に太るやつだねこれ。もうやめとこ。
「アイリス〜なぜ結婚してしまったんだ〜」
「私たちの結婚にご不満でも?」
「おお、アイリスじゃないか!あれ?アイリスは家で婚約者といたはずじゃ?」
「ああ、アリシアのことでしたか。酔っているんですね」
「酔って……いや、君の美貌で目が覚めた。月すら裸足で逃げ出す美しさだ……」
「確実に酔っていますね」