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お姉様のお友達と遊ぼう


 魔法には想像力が何より大切だ。


 さて、想像力を鍛えるにはどうしたらいいだろう?


 私はとりあえず、脳内に時計を作ってみることにした。

 零時零分零秒を指した針時計だ。すぐに秒針がカチカチと動き出す。


 時計は放っておいても勝手に時間が進む。

 当たり前だ。

 三分後には零時三分になるし、五時間後には五時を指す。正確に時を刻むのが時計の機能だ。


 想像の中の時計は時を刻み続けている。

 意識を外しても秒針は動く。

 だが常に正確な時を指し示すには、無意識下での想像力が必要になるんじゃないかと思ったのだ。


 だから時計はこれで放置。しばらく後に誤差修正。これを繰り返す。

 想像力がうまく鍛えられますよーに、と名前も知らない女神様に願を掛け、今日も鍛錬に励んでいる。



 さて、もはや日課となった脳内時計だが空き時間が多いのが難点だ。その空き時間を使って、新たなる魔法の研究を並行して行っていく。


 こんな言い方をすれば聞こえはいいけど、やっていることは普段の妄想と変わらない。


 あんなことができたらいいな、こんなことができたらいいな、と鼻歌交じりに前世のアニメや漫画の記憶を掘り起こし、どんな魔法を使いたいか、もし使えたらどうするのかと想像の翼を広げているだけだ。


 そして今私の脳内では、仮題「光の聖女と聖剣の勇者」が物語の終盤を迎えていた。光の聖女と呼ばれ人類の希望であった私が人類を半分にまで減らした伝説の大魔王アクダイカーンに捕らわれていたところを、聖剣を手にした勇者様によって救い出され、共にこれを打ち倒し、勇者様から愛の告白を受けている場面だ。


 なお勇者様はお兄様ベースになっている。お兄様は美少女かと見紛う幼少期を過ぎ、今は優しげな微笑みが似合う綺麗な男の子といった雰囲気で、性格も良い。物静かで紳士的。チャラい外見に加えすぐ調子に乗っちゃうチャラチャラお父様の血を引いているとは思えない。


 溢れる想いを情熱的に語る勇者様の声に、光の聖女は悲しげに首を振る。女神様に遣わされた私は、使命を果たしたらもうこの地にはいられないから、と。


 僕も共に在ろう。

 まっすぐに注がれる熱い視線を振り払うように、先ほどよりも大きく首を振る聖女。唇を噛み締め、零れそうになる涙を勇者に気付かれまいと距離を取ろうとした彼女の頭上に突如光が降り注ぐ。天まで続く光の中、舞い踊る羽と共に顕現した女神が――。


 コンコン。


 ノックの音に現実に引き戻される。


 物語も大詰め、というところで入った邪魔につい溜息が出た。


 今日は何も予定が入ってないから久々の長編を堪能できると妄想の海に深く潜っていたのだ。だいぶ堪能できたとはいえ、結末が曖昧なままでは様式美に欠ける。


「ソフィア様。アリシア様から、時間があれば部屋に遊びに来られないかとお誘いをいただいております。お返事はいかが致しましょう」


「行きます。すぐに仕度をしましょう。入って頂戴」


 現実の女神様がお呼びでした。


 物語の結末?


 女神様に呼ばれた聖女は喜んで受け入れ、天使と共に女神様の元へ向かい幸せに過ごしましたとさ。ちゃんちゃん。





「あなたがソフィアちゃん? 初めまして、私はミランダ。アリシアから聞いていたけれど、本当に可愛らしいのね!」


 お姉様の部屋には笑顔が眩しい金髪ゆるふわウェーブのお嬢様がいた。


 そうでしょうと胸を張るお姉様に楽しげに声をかけるミランダ様。


 青い長髪を煌めかせ淑やかに笑うお姉様と溌剌な笑顔で周囲までもを明るく照らすミランダ様が二人並んで談笑する様は、さながら海の女神と太陽の女神の御歓談。

 この光景を切り取って絵画にしたら宗教画として歴史に残るに違いない。


「ごきげんよう、ミランダ様。メルクリス家次女、ソフィアと申します。いつもお姉様と仲良くして下さってありがとうございます」


 最近使うことが増えた貴族風の挨拶にニコリと笑顔を副えれば完璧だ。


 ドレスが美しく見えるよう摘んだ裾にちらりと目を落とす。

 レースやフリルがふんだんに使われたゴシック調の紫紺のドレスは家で着るには派手すぎる物ではあるが、お母様も自慢する一品だけあり、銀髪の私にはかなり似合う。

 そのためお母様とお姉様の知り合いに紹介されるときにはこれを着てくるようにと厳命されているのだ。


 お姉様は特に私を友達に自慢したくて堪らないようで、部屋に友人を呼んでは私を紹介することを繰り返している。

 かと思ったら、むしろ私を見せびらかす為に友人を呼びつけているのが実態らしく「あまりにアリシアが妹の話ばかりするから来てみたのだけど、これだけかわいければ彼女があんなに自慢するのも納得ね」と前に来た人が苦笑しながら教えてくれた。


 それにしても、貴族社会だからかもしれないけど美男美女の知り合いが随分と増えた。未だに心が小市民だから美男美女に囲まれると気後れしちゃうんだよね。今の私も十分美少女なんだけど、この環境に慣れるまでにはもう少しかかりそうだ。


「まぁ……、もうきちんとした挨拶ができるのね、偉いわ。ごきげんよう、ソフィア様。アリシアと仲良くさせてもらって、こちらが感謝を言いたいくらいだわ。そのおかげで、今日はこんなに愛らしい妖精さんとお近付きになれたのだから」


 貴族風の挨拶を返し、ほう、と息を吐くミランダ様。手を添えた頬が赤く色づいているのも私を見る眼が妖しく潤んでいるのも、うん。正直またかって感想しか浮かばない。お母様の知り合いみたくいきなり抱き寄せられないだけマシだ。

 女性の可愛い物好きは遺伝子に組み込まれた反応で、これはもうどうしようもないものだと早々に諦めている。


「うふふ、貴女に会えるのを楽しみにしていたのよ? さぁ、こちらにいらして。一緒にお話しをしましょう?」


「はい、ソフィアはこっちに座って。ミランダの家は格上だけど、大人がいない場所なら口調を崩してもいいからね。でもこれからは社交の機会も増えるだろうし、ミランダを練習台にした方がいいかな?」


 お姉様に示された椅子に座る。

 部屋の中には既にお茶会の用意がされており、先ほどから紅茶の良い香りが漂っていた。


「アリシアったら。私を練習台に使おうなんて思うのは貴女くらいのものよ?」


「友達だからね」


「ふふ、えぇそうね。友達だものね」


 お互いの顔を見て笑いあう二人。

 本当に仲良しみたいだ。



 いいな、こういうの。


 前世で仲の良かった友達の顔が浮かぶ。

 彼女たちは今も元気にしているだろうか?



「ソフィア? どうかした?」


 感傷に浸っていた私がどのように見えたのか、お姉様が気遣ってくれる。ミランダ様も、口には出さかったけど心配そうな顔になっていた。


「いいえ。お二人は、とても仲が良くて羨ましいなと思いまして」


 そうだ、仲が良いのはいいことだ。それも美女同士ともなれば眼福以外の何物でもない。感傷? 違うね、今の私がするべきはこの微笑ましい光景を目にできた幸福を世界中に誇ることだ。もちろん想像の中でだけど。


 そう思えば、自然と笑みが零れた。


「もしかしてミランダに嫉妬してたの? 大丈夫よ! 私の一番はいつだってソフィアだからね!」


「あら、寂しいことを言うのね。私は入れてくれないの?」


 抱きついてきたお姉様の温もりを感じながら、笑う。二人も笑っていた。そこに広がっているのは幸せな風景だ。



「ミランダ様。私、あまりお屋敷の外に出たことがないのです。お外の話を聞かせてくれませんか?」


「そうね、なら学院での話をしましょうか。春の初めにアリシアが……」


「ちょっと!? それは誰にも言わないでって――」


 慌てるお姉様の姿に、また楽しげな笑い声が響く。


 その後も学院での話や流行のお店の話で盛り上がったお茶会は、とても楽しいものだった。


「お姉様って呼びだした理由? おねえちゃんはダメだって先生に言われたからね」

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