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語ろう、お兄様の素晴らしさを


 格別の気合いを入れて。確実に理解を得る為に。


 さあ、伝えよう。


 私の知るお兄様という存在を。悲しくも現実から目を背けてしまったお姉様に、もう一度現実を見てもらう為に。


 何時間でも、何日かかったって構わない。


 全てはお姉様を正気に戻すためだけに――!!



「お姉様ったら、少しお兄様と離れていただけでロランドお兄様の有り余る魅力を忘れてしまったのですか? 別の方と婚姻を交わされているお姉様に改めて理解して頂くのは酷かもしれませんが、お兄様は成人されてからもお父様のお仕事や城でのお仕事など多方面で大活躍中なんですよ。今日だって王様から恐縮されながらお仕事を頼まれる程の活躍っぷりなんですからね! お兄様がいなければこの国はもはや立ち行かないと言っても過言ではありません!! それを――」


「わ、わかった。わかったから。ごめんねソフィア。ロランドがそこまですごい仕事を任されてるなんて思わなかったよ。ロランドはすごいんだねぇ」


「そうです、お兄様はすごいんです!!」


 流石は私のお姉様!! 一を聞いて十を知るとはまさにこの事!


 そう、お兄様はとてつもなくすごいんですよ!!!


 私たち姉妹はお兄様と血縁という最高の環境と最硬の法的拘束力によって天国と地獄を同時に味わうことが宿命づけられた、言わば生まれながらにして非業の運命を歩むことが決定された悲劇の女性。


 間違いなく至高である男性を最も身近で感じつつも結ばれる相手は別に選ばなければならないという究極の生殺し状態。お姉様のように「ロランド? 確かに昔はロランドのことしか目に入らなかったけど〜」と記憶を改竄してしまうこともやむかたなし! 最も理想に近い位置にいながらその理想にだけは決して手が届かないと知った時の絶望! 嘆きっ!! 記憶でも失わないとやってられない!? ごもっとも!!! それでもっ!!!!


「お兄様の素晴らしさを記憶から消去することでしか幸せな結婚生活を送れないと本能的に理解してしまったお姉様には大変申し訳ないのですが、お兄様の魅力は生涯変わることの無い普遍のものであり、そんなお兄様に向けられている私の愛もまた普遍のものであることだけはどうか記憶に留めておいて欲しいのです。お兄様と私との絆は普通の家族が持つそれとは異なり、喧嘩だ仲違いだ好きな人ができた幼い頃の淡い憧れだったなどのふんわりとした気持ちとはまるで違うもので、何度も破棄してやり直せる婚姻などよりも余程重い、魂の希求とでも言うべき運命に導かれた結果なんです。私とお兄様との絆を否定されることは即ち私自身を否定することであり私という存在の否定にも等しいこととご理解ください。お兄様への愛を証明することができないのが本当に無念でなりませんが、この気持ちはたとえ何をおいても優先される――」


「ソフィアは本当にロランドのことが大好きなのよね」


「そのとおりなんですっ!!!」


 流石は私のお姉様っ!! 物事の本質を理解しておられるっ!!


 小さな声で「こんな子だったかしら……」って声が聞こえた気がするけど、私の大好きなお姉様はそんなこと言わないもんねー!


 ええいっ、私の中にある邪心よ! 去れ!!

 お姉様はお兄様レベルに優しくてかわいくて頭が良くて頼りになって、何処に出しても恥ずかしくない我が家自慢のお姉様なんだからねっ!! 私の悲しむことなんか絶対言わないのだ! 絶対!!


「にしても、陛下から恐縮されるなんて、あの子なにやってるのよ……」


「お兄様が余りにも優秀すぎて恐れてるんですよきっと。知ってます? 王様って人の嘘を見抜く魔法とか内緒で使ってるような小心者なんですよ。お兄様とは人としての器が違いますよね」


「え、そうなの?」


 お兄様の優秀さを強調しまくってたら相対的に王様のことを卑下する形になってしまった。でもしょうがないよね。お兄様と比べたら世の男性が見劣りするのは厳然たる事実だもんね。


 ……ていうか、あれ? この情報って人に話しちゃダメなやつだったっけ? ……あとで口止めしとけば問題ないかな?


 噂話ってこうやって広がっていくんだよねと理解しながら、私はお兄様の素晴らしさを共有することを優先する。お兄様と王様。どちらを優先するかなんて考えるまでもない話だ。


「お兄様はものすごーく心が広いんですよ。私が迷惑を掛けてしまってもいつも『大丈夫だよ』って私を安心させることを優先してくれて、何か困ったことがあったら内容を聞く前から『力になるよ』ってカッコよく断言してくれちゃうんですから!」


 もうね、ドヤ顔が止まらない。「ふふん! 私のお兄様はすごいでしょう!!」と喧伝したくて堪らない!


 お姉様はここ一年のお兄様の活躍は知らないかもしれないし、ここはお兄様の第一人者であるこの私が――と、調子に乗ってお兄様を褒め讃えまくってたところ。唐突にお姉様が背後を振り仰いだ。


「――随分と慕われているみたいじゃない。ねぇ、お兄様?」


 ――お姉様の視線の先。


 そこには、羞恥で顔を赤く染めたお兄様がぎこちない笑みを浮かべていて――


「〜〜〜〜っ!?」


 私の顔も一瞬で赤く燃えあがった。


 い、いいいつから聞いてたんですかっ!? 私ってばかなり赤裸々に話しちゃってた気がするんですけど!!?


慌てふためくソフィアの脳裏に、内なる自分の声が響く。


「あ、今の私、お兄様と同じ顔してるな。……お揃いだな」


重症です。

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