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穴あき屋根の貴族街


 王城からの帰り道。


 馬車に揺られながら眺める車窓には、貴族街の美しい街並みが流れている――なんてことはなかった。


「……リンゼちゃん。シンっていつもこんな感じなの?」


「さあ、わざわざ建物を壊して回るような趣味があるとは思わないけれど。絶対にないとも言い切れないわね」


 ――シンが壊してった建物の被害がすごい。


 王城に向かう時は外見てなかったから気付かなかったけど、改めて貴族街を見渡せば、被害は一目瞭然だ。どの家も屋根のど真ん中に穴が空いていらっしゃる。まるでこの街で流行りの建築様式が「いちばん目立つ屋根の真ん中に穴を開ける」ことだと言わんばかりの光景だ。


 ……建物の中心って、大体玄関ホールの位置だよね。人が常駐するような場所じゃなかったのは唯一の救いか。


 人的被害が出ずらい場所に(シン)が落ちてきたことを幸運と思うか、はたまた人が出入りする時に必ず通らなければならない場所を吹きざらしにされた事を不運に思うかは人に寄るところが大きいと思う……が、この世界の人なら案外「神が降り立った家!!」とか言ってありがたがるかもしれない。そうなれば、穴の空いた屋根が本当に流行する可能性も……うーん、あるかなぁ。どうだろうなぁ。ないといいなぁ。


「シンは人の営みに対する理解が足りていないようね」


 私と同じように被害を受けた建築物を眺めていたリンゼちゃんが、唐突にシンのお母さんみたいなことを言い出した。「全くもう、あの子は」と言う時のお母様と同じ空気を醸し出している。


 幼女ママ、リンゼちゃん。ここに爆誕。


 ……わりとアリかも。


「それを言うならヨルもだけどね」


 人間らしい感情をちょくちょく見せてくれるようになったリンゼちゃんを横目に見ながら、「それにリンゼちゃんもね」と心の中でつけ加える。


 現役の神や女神に比べたら、我が家のリンゼちゃんはそりゃもう圧倒的な大差をつけて優勝と断じることになんら疑問はないくらい人間への理解を深めているけど、それでもまだ偶に「え、そこでその感想持つ?」と思うような反応をすることがある。


 人間として過ごし、もうすぐ十年が経とうとしているリンゼちゃんですらそうなのだ。普段は地上にいないヨルたちが人間と乖離した思考を持つのは、至極当然の事なのかもしれない。


 ……いっそ全員まとめて我が家で面倒を見るべきだろうか?


 シンやヨルが好き勝手に動いた場合、後始末を押し付けられるのは大抵私かお母様になるわけだし。問題が発生する前に抑止するよう動くのはとても合理的な案に思える。


 幸いにも、私は人間の中で最も神に近しい存在とされる【聖女】の二つ名を拝命している。ヨルとシンとリンゼちゃん、全員にまとめて人間社会での常識を教え込むことができれば……競争心理や神としての自尊心を上手く煽って、コントロールできれば……被害の極小化を……。


 悪くない。考えれば考えるほど悪くない。


 ただ一つだけ問題があるとすれば、この案をシンやヨルに承諾させるところから常識を教え込む役目に至るまで、おおよそこの計画における大変さが集約された全ての場面に於いて私以上の適任者が見当たらないという点だけは懸念事項として最大限考慮しなくてはならないんじゃないかなとソフィアちゃんは思うんですよ。


 つまり、何が言いたいのかと一言でいえば。


 この計画をお母様に具申すると、私に面倒が押し付けられる可能性がとてつもなく高いってこと。


 問題が発生してからであれば、お母様に報告して大人たちに丸投げすることで済んでいた負担が、全てまるっと幼い私の身の上にのしかかってくるということ。


 大人たちの負担の肩代わりが、全部! 全て!! 私の役割にすげ替わるということ!!!


 ……未成年の子供にね? あまり大きな負担をかけるのはどうかなって、ソフィア思うんだぁ。

 だってほら、大人は子供を守るものでしょ? 子供の役目って、精々お手伝いくらいじゃない?


 だから私は今までどーり、呼ばれてからお手伝いする方が向いてるかなって!


 そもそも呼んだところでヨルたちが来るとは限らないし。人間と同じ生活が出来るかどうかなんてもっと分からないし。万が一二人とも来ちゃっても私が絶対「もう無理!!」ってなるのが目に見えてるのでこの案は破棄です。気の迷いです。私お得意の妄想なのです。


 我が家にはリンゼちゃん一人で手一杯。


 優秀だけどどこか抜けてて、家庭教師よりもよっぽど豊富な知識を持ってて、メイドとしての所作も完璧に習熟してるのに私にだけはメイドっぽく振舞ってくれない恥ずかしがり屋なメイドさんは、リンゼちゃん一人で十分なのです!


 私の元に来てくれたのがリンゼちゃんで本当に良かった。


 もし分身なんて使わずにヨル本人が来てたら、私の生活はきっとこんなに穏やかじゃいられなかっただろう。リンゼちゃんには本当に感謝している。


 ……そんなことを考えてたら、この感謝をすぐに伝えなければいけない気持ちになってきた。


「ありがとう、リンゼちゃん」


 心からの、素直な言葉。


 自分でも驚くくらいに珍しい、私の純粋な感謝を聞いて、リンゼちゃんは――


「……私もまだ、あなたへの理解が足りていないみたいね」


 なんと、私を理解したいと願う趣旨の発言を頂戴したよ!? 激レアじゃーんっ!!?


 感極まって抱き着いたら激しく抵抗されたけど、照れ隠しだというのは分かっている。うーん、かわいいっ!


 リンゼちゃんだいすきっ!


シンの所業に引いてると思ったら、突然感謝を述べてくる意味不明な妄想癖お嬢様。

会話の成立しない主の元では会話の苦手な従者に育つのも当然なのかもしれない。良いお手本を探そう。

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