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ヨルはヨルじゃなくてもヨルだった


 優秀すぎてメイドの枠に収まりきらない私だけのスペシャル幼メイド、リンゼちゃんが、ヨルとの話し合いを通して重大な事実に気が付きました。


 その、重大な事実とは!!!


「……つまり、彼女は女神ではない?」


「定義の問題もあるけれど、彼女は女神という存在であると考えて良いと思うわよ。女神が複数いたっていいでしょう?」


「というか、そう考えないと説明がつかないのよ。神というのは超越した存在なの。自然現象によって簡単に命を落とすような人間とは違って、神は本来、死ぬことは無い。記憶を失った、なんて現象も当然、ありっこないのよ。そんな起こりえない可能性が起こったと考えるよりは、私という神が()()()()()()()と考えた方が、余程しっくりくる。……貴女たちがヨルと呼ぶ存在は、きっと私とは別の存在なんでしょうね」


 なんかヨルがね。実はヨルじゃ無いんじゃないかって話っぽいよ? びっくりだよねー。


 背の高さとか体型とか、微妙な違いはあれど、他を圧倒する濃密な魔力とかまんまヨルなのにね。顔も声も、話し方だって同じなのに、別の存在かもしれないだなんて、なんだか不思議な感じがするね。


 ――人は何を持って人を判別するのだろうか。昨日の自分と今日の自分ですら、全くの同一ではないというのに。


 みたいな。


 他人なんて外面と内面で(ほとん)ど判別してるんだから、その両方が変わっちゃったヨルは確かにヨルっぽくはないかもだけどさ。


 状況的に見てヨルは十中八九ヨル本人なわけだし、なによりシンがヨルを求めてるんだからもうヨルはヨルってことでいいんじゃないかな。なんか色々考えるのとかめんどくさくなってきたし。


 そろそろ頭の中でヨルがゲシュタルト崩壊起こしそうだよ。


 おお、ヨルよー。ヨルじゃないけどヨルっぽい顔したヨル風のヨルよー。

 ホントにヨルじゃないなら是非今のまま素直で聞き分けのある良い女神様として君臨してね。ヨルみたいに特定の人間に嫌がらせ仕掛けるようになっちゃダメだよ、おーけー?


 脳内の祭壇に両手を合わせて祈っていると、難しい顔して黙りこくってたお母様が、再度リンゼちゃんに確認をした。


「……つまり、彼女は女神ではない?」


 やばい。遂にお母様にも若年性のボケが!!


 そんなふうに思ったのだけど、リンゼちゃんの返答を聞くにどうもボケてたのは私の方っぽい。人の話はちゃんと聞くべきだと思いましたボケとか思ってごめんねおかーさまゆるして!


「あなたの知る女神ではないわね。でも、出来ることに違いはない……いえ、経験が抜け落ちてるわね? やはり以前の彼女とは違うみたいね」


「そうね。『失くした』のではなく『無かった』。私は恐らく生まれたばかりなんでしょうね。人の世界も知識としては知っていたけど、実際に降りてきたのは初めてだと認識しているもの。こうみえて私、結構興奮しているのよ?」


 なんのこっちゃ。落ち着いてくださいよ女神様ぁ。


 お母様が疑問を呈し、それにリンゼちゃんが答え、ヨルが説明を補足する。


 もうね、さっきからこの三人ずーーっとこの調子で、余人の入る隙間がない。もう完全に三人だけで会話が交わされていて、輪から外れた私と王様はちょっぴり疎外感を共有してたり。


 ……てゆーかこの王様も、本当に全然会話に混ざんないな。実は隠れて寝てるんじゃないか? なんて思いながらちらりと横目で盗み見たら、たまたま向こうもこちらを見ていたのか目が合ってしまった。しかもその時、何故か「会話に混ざれない仲間だな」的な視線が向けられとても不快です。王様はもっと現実見ようね。


 ああ、幼いかわい子ちゃんを自分と同じ哀れな存在に(おとし)めて安心を得ようなどと、なんと酷い王様なんでしょう!


 残念ながら私は仲間はずれ仲間じゃないんです! 今はちょっと疲れて休憩してるだけですから! 私が一声かければみんな喜んで仲間に入れてくれますから! だから王様とは違うんですよ何もかも!!


 シンが早々に帰った今、もはやこの場はヨルを中心とした女性たちのテリトリー。


 緑一点たる王様とは違うのですよ、状況が! それに私はリンゼちゃんのご主人様だしね! 自然に輪に混ざるくらいは朝飯前ですよやろうと思えば!!


 ……でもその、あのね。ほら私、聖女とはいえ一人の人間じゃないですか? だからお母様の前で女神様と話すのはちょっとね。


 女神って女神って呼ばれてる割に世界を守る的な仕事してないと思うんだけど、それでも信仰する人が多いのってなんでなんだろうね。王都守る為に災厄の魔物を退けた私の方がよっぽど女神っぽい活躍してると思うんだけど、なんで事ある毎に人間を間引こうとしてる女神と馴れ馴れしく話すだけで私が叱られる羽目になるんだろうね。本当に不思議でならない。


「ソフィア」


「あ、はい?」


 ほらまた、娘の私よりヨルのこと優先してる。


 そーゆーのが積み重なって私からの信頼が失われていくんだぞぉ、ぷんぷん!


「以前頼まれた……穴? というのを、今ここで開けてもらうことはできますか」


「嫌です!!」


 ちょっと話聞いてなかった間に何があった! それ危ないやつじゃないですか絶対イヤです!!


 断固拒否の姿勢を見せながら、私は己の不運を嘆いた。


 ああああもうこれ帰ったら絶対叱られるやつ!!


 やっぱりヨルは、私に不運をもたらす厄病神だよ!!


「利を寄越さない神なんて敬えない」という考えに疑問すら抱いていない無神論者。

でも彼女、多分神の姿が幼い少年か少女だったら無条件で敬ってたんじゃないかと思います。己の欲望に正直な子なので。良くも悪くも。

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