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破壊神シン


 神とは、人とは違う生き物である。


 その為常識が色々違う。


 いやもう、色々どころか(ほとん)どと言っても過言ではないくらいに違いすぎてて、ツッコミがまるで追いつかないレベル。いやもうホントに、話聞くだけでも頭痛くなってきたもん。私が王様の立場だったら「もう何も聞きたくなーい!!」って職務放棄してた自信あるわ。大人って大変だよねー。


 ――私が王城に呼び出されるまでにシン()が起こした行動の数々は、それはもう、酷いという言葉が可愛く思える程のものだった。


 まず、シンが記憶を失ったヨル(女神)と会った。それが全ての始まり。


 唯一無二であるはずの自分の事すら忘れていた彼女を見て、シンは大層焦ったという。


 しかし、彼は思い出す。

 そうだ。地上には確か、ヨル様がもしもの時の為にと残した分体がいたはずだと。その分体を探し出しヨル様の記憶を取り戻すことこそが、今の自分に課せられた使命なのではないかと、そう思い至ったんだそうな。


 傍迷惑な使命もあったもんである。


 すぐさま地上へと向かった彼は、けれど直ぐにその使命の達成が困難であることに気付く。彼は人間への興味が薄かった為、私やリンゼちゃんの居場所も魔力も、何も覚えていなかったのだ。


 たかだか数回見た程度の人間。

 この広い大地の何処かにはいるだろう存在を探し出す術を、彼は有していなかった。


 だがこの使命は、母であり姉でもあるヨル様の記憶を取り戻す為のもの。諦めるわけにはいかない。


 だから、「探した」、と。


 唯一覚えていた「人が大勢いる所にある大きめの建物」という情報だけを頼りに、ろくに覚えてもいない人物を求めて、地道に探し回ったんだそうな。


 ちなみにその様を、人間側代表であるところの王様が表現したらこんな感じだった。


「神が必死になって探す程のものが、何処かの貴族家にあるらしい」と。


 なお話を聞いた私が客観的な言葉に直すと「シンがうろ覚えな記憶を頼りに貴族の家を襲撃して回った」って感じ。訪問でも降臨でもなく、襲撃だ。強襲と言い換えてもいいね。


 神々にちょー好意的な人達が表現する「必死に」という言葉は、事実のみを抜き出すと「建物や敷地を破壊することも厭わずに」ってこと。まあ死人はまだ確認されてないみたいだけど、怪我した人は結構な数がいるみたい。


 当たり前だよね。普通、空から神様が降ってくるかもなんて考えながら過ごさないからね。天井ぶち破られた時点で軽症不可避だもんね。


 そんな感じで、そこらじゅうにある大きな建物、即ち貴族の家々を襲撃しながら「ここに女神に縁のある者はいないか!」と叫んで回ってたら、晴れて王城へご招待されて、女神に縁のある私が招集されたと、そういう訳だね。納得の理由すぎて涙が出そう。これで「神様被害金」なんて名目でシンが壊して回った建物の修繕費を求められでもしたら、私はシンを奴隷の様に扱うべく調教することも辞さない。その為ならヨルだって頑張って(くだ)しちゃうぞこらぁ。


 ………………もう聖女なんてやめたいよぅ。


「貴方がこちらにいらした理由は分かりました。……それで、ヨル様は今どのような状態なのですか? こちらに来てもらうことは可能ですか?」


 全てを放り出したい心情を「リンゼちゃんの安全の為」という一念のみで組み伏して、なるたけ丁寧な口調で対応する。


 シンに不遜な態度で接するたびに「ああっ」とか、「なんと畏れ多い……っ」みたいな反応をする人が多くて鬱陶しかったので今は口調を正しているけど、我ながら違和感がすごい。


 神と人間という構図的には正しいのだろうけど、やはり丁寧な口調とは裏腹に、私たちの格付けが済んでいることが違和感の原因だと思う。


「……それを話すことに意味はあるのか? 分体を渡してくれるだけでいいのだが……」


「その要求は呑めません。なので、こうして話し合いで解決しましょうとお願いしています」


 聞き分けてくださいね? と小さなアイテムボックスを開きながら微笑みかけると、シンはピクリと反応し、やがて渋々ながら了承を示した。うーん、苦手意識がすっかり染み付いちゃってますね〜。


 まーね、私シンには今のとこ完封勝ちしてるからね。正しい判断だとは思うよ。


 シンとしても最優先目標はヨルの記憶の復活みたいで、私と争ってまでリンゼちゃんを奪うのはリスクが高いと認識してるっぽい。それに、多分この様子だと部屋の外にリンゼちゃんがいるのも気付いてない。お母様に連絡して念の為待機してもらってて本当に良かった。人質がいると万一の時に戦いづらいからね。


「私としても、女神様の記憶を戻すお手伝いをしたいと考えています。ただ、それは分体の身の安全を保証された上での話。分体の中身だけを必要とする方においそれと渡すことはできません」


 てかさっきから、視界の端に映る王様がうるさい。静かなのに動きがうるさい。大人しく見てて?


 人間を勝手に増える虫くらいにしか思ってない相手を敬う気持ちが、私にはどーしても理解できない。


 なので。


「私にご協力頂けるのなら、分体の保持している記憶を共有するくらいの事はさせてもらいますよ」


 相手が神だろうと、主導権は私が握る。


 思考が滅裂なヨルならまだしも、シンは感情が素直に出る。ぶっちゃけよゆーだと思うんだよね。


「聖女ちゃん……やばくね?」

「神様と対等に話してるぞ……信じられん」


王妃様イチオシの聖女ちゃん。

今日もまたひとつ、武勇伝が増えました。

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